第13話


 朝、日射しは強く、こんな天気の良いこんな日は木陰で寝ていたい。そんな事を想いながら、教室の中に入り自分の席に向かう。担任が入って来て、退屈な日常の始まりであった。


『体育館のステージの裏で待つ』


 机の中に意味深な手紙が入っていた。今日も授業はかったるい。抜け出す理由には丁度良かった。わたしは体育館に足を運び手紙の相手を探す。強烈な殺気を感じ振り向くと道玄坂がこちらを見ている。


「銀鏡に選ばれし者は我敵となる存在」


 あいたたた。道玄坂が強めの思念の欠片に憑依されている。わたしは抜刀して銀鏡壁を広げる。


 道玄坂も刀を抜くのであった。さて、困ったぞ、道玄坂に憑依した思念の欠片の本体が見えない。焦っているわたしに道玄坂はいきなり全身での突きをしてきた。


「危ないな」


 わたしはギリギリでかわす。


「わたしは強い、わたしは強い……」


 ブツブツと言っている道玄坂との交渉で解決は難しそうだ。思念の欠片の本体が見えないまま、わたしは一方的に攻撃を受けて劣勢そのものであった。


うん?


 確か道玄坂は何時もわたしのあげた安い香水をつけているはず。戦っている道玄坂からは匂いがしないのであった。


「そうか……」


 わたしは試しに道玄坂を斬ってみることにした。ま、銀鏡の刀は妖刀だから生身の人間は斬れないからな。わたしは間合いを取り道玄坂の一瞬のすきを狙うと、銀鏡の刀の斬撃が道玄坂に入る。


 すると、道玄坂は黒い煙となって消えてしまう。ふう~やはり本体は道玄坂に化けていたのか。さて、本物の道玄坂を探さなければ……。


「おーい、道玄坂は居るか?」


 わたしはステージ裏の奥の方に進む。うん?道玄坂が倒れている。


「大丈夫か?」


 道玄坂を揺すると目を覚ます。


「わたしは……」


 一時的な記憶喪失があるようだが、道玄坂も大丈夫そうだし。どうやら一件落着のようだ。しかし、黒刀使いの時も感じたが道玄坂は強いな。


 休日、わたしは河川敷をジョギングしていた。基礎体力をつけて剣術に更なる磨きをかける為である。すれ違う女子は皆、腕や顔を覆っていた。


 紫外線が怖くては修羅の道は究められない。わたしは最低限の日焼け止めを塗り走っていた。


 数キロを走ったことである。何か気配を感じる。思念の欠片が浮遊しているのである。わたしは迷わず銀鏡壁を広げて思念の欠片を切り裂く。


 楽勝と思いきや、思念の欠片は霧状になりわたしの体にまとわりつく。


 しまった、油断した。


 このままでは思念の欠片に取りつかれる。そう、こんな時は心を落ち着かせて自分を信じることである。わたしは銀鏡の刀を握りしめて、剣気を放つと霧は粉砕される。ふ~う、ジョギング中で油断しったとはいえ危なかった。


「随分とお疲れだね」

 気が付くとミヤビが塀の上に座っている。


「慣れないジョギングのせいかもしれない……」


 わたしの言葉に無言で笑みを浮かべている。沈黙で返すとやはり、女狐に言葉が無かった。油断しすぎたのはわたしの責任かと思うのであった。


「どうだ、一緒に走らないか?」


 ミヤビは大きなあくびの後、微笑んでから姿を消す。独りか……それもよかったな。わたしは気合を入れ直して走り出すのであった。





わたしは校舎の屋上にいた。思念の塊の退治の為だ。鎖鎌を振り回す相手だが余裕で倒せそうだ。脚力を最大限に生かしてトドメをさそうとすると。


「そこまでです」


 誰もいないはずの屋上に、それは気配が突然現れることの不気味さであった。そう、赤い艶やかな着物を着た美人がわたしを止める。


「あなたですね最近、思念の塊を倒しているのは」


 剣気で分かった。赤い着物の美人はこの世の者でなく、実力は強大であることを感じられた。


「私の名前はササ、思念の生と死をつかさどる者です」


 追いつめられた鎖鎌は自らの存在を断とうする。その瞬間である。ササは殺気に満ちて「その哀れな思念、貰い受けます」と、呟く。


 紫色の和傘を取り出して振るうと鎖鎌が煙となり傘に吸収される。


「思念のエネルギーを吸収しただと!」


 わたしの驚きに対してミヤビの表情は知っている様子である。直感は命の危険であった。このササと戦うこの恐怖を感じた。


「あの者か……?」


 わたしの呟きに、ミヤビは静かにうなずく。


「さて、お嬢さんにはこれでいかが……」


 再び和傘を振るうと骸骨武者が現れる。骸骨武者は刀を抜くと襲いかかってくる。骸骨剣士の斬撃を銀鏡の刀で受けるがすごい力であった。


 劣勢のわたし達を見て、ササは満足そうにして姿が消えていく。


 とんだ、置き土産だ。


「ミヤビ、見ていないで加勢しろ」


 ミヤビは短刀で後ろから骸骨武者を切り裂く。骸骨武者は煙となり消えていく。


 二対一でのやっとの勝利か……。わたしは感づいていた。北神先輩のように契約による覚醒ではなく。


 思念のエネルギーをそのまま具現化したのだと。生と死を操る者か……

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