第12話

 わたしは独り中庭でランチを食べていると道玄坂がやってくる。小鳥のさえずりだけが響く静かな場所のはずであるが道玄坂がうるさい。


「北神先輩との握手券買っちゃった」


 まだ、ドS先輩を追っかけているのか。人の色恋沙汰には口出ししない方がいいな。


「でも、残念、北神先輩は剣道部の主将を引退だって。なにかきっかけでもあったのかな」


 わたしとの決闘で敗れたからか?でも、実際は北神先輩が引く形で終わっている。


「ねえ、今から剣道部の練習を見に行かない?」


 まったく道玄坂はわがままなんだから。仕方ない、行くか。歩いて直ぐにある部室棟に行くと体育館の方から剣道の掛け声が聞こえる。


「道玄坂、体育館に行った方がいいな」

「みたい」


 同意する道玄坂と共に体育館に向かう。体育館の中に入ると剣道部が練習をしている。


「これはエリカ君ではないか」


 北神先輩が近づいてくる。


「握手券なんて売り出して、恥ずかしくないですか?」

「これは失礼、ファンクラブが勝手にした事で困っているのです」

「へー」

「じゃあ、握手は出来ないの?」


 道玄坂は握手券を見せて泣きつく。


「ファンクラブの恥は俺の恥、快く、握手して差し上げます」


 手を出す北神先輩に力いっぱいに握り締める道玄坂であった。道玄坂が落ち着くと北神先輩はわたしに近寄り言葉をかける。少し馴れ馴れしいなと嫌悪をいだくと。


「エリカ君、剣道で勝負してみないか?」


 そう言うと竹刀を渡してくる。よし、今度こそストレートに勝つぞ。わたしが構えると北神先輩は一瞬でわたしの喉元に竹刀を突きつけた。北神先輩に勝てる気がしない腕前であった。わたしが何故勝てたのか、不思議そうにしていると。


「答えは簡単で銀鏡の刀は妖刀なので、ただの竹刀では勝てない。だから血による影との解約が必要なだけさ」


 確かに北神先輩の剣術の腕で銀鏡の刀を手にすれば敵なしだ。


「ちなみに、竹刀での君には剣気は全く感じられなかった。安心したまえ君は強い」


 と言うと北神先輩は剣道部の練習に戻るのであった。


「さて、自販機に飲み物でも買いに行くか?」

「行こう、行こう」


 道玄坂は機嫌よく返事をする。つかの間の休息であった。




 数日後の休み時間、わたしはぼっーとしていた。


「エリカ、エリカ、大変だよ」


 誰かがわたしに声をかける。気が付くと道玄坂がすり寄ってきていた。


「なにか用か?」

「北神先輩が入院したって」


 うーん、こないだまでは元気そうだったのに。


「かなり、無理をしていたのよ」


 ミヤビが表れて静かに話し出す。


「死神もどきは血の契約による覚醒……普通なら死んでいるわ」


 あのドS先輩、なにが信念にない勝ち型だ、ボロボロだったのはお互い様だったのか。

「で、その情報はやはりファンクラブからのものか?」

「えへへへ、お見舞いに行ける券買っちゃった」


 そんなにドS先輩がいいのか道玄坂も変わった趣味だ。


「ペアチケットよ、もちろん、エリカといくのよ」


 は?何故ドS先輩に会いに行くのだ?


「なんか、ファンクラブの中でエリカが特別らしいのよ」


 これは、深く考えない方がいいな。


「それでだけど、来週で問題ない?」


 道玄坂を一人で行かす訳にもいかないな。仕方ない、付いて行くか。




 わたしと道玄坂はバスに乗り、北神先輩の入院した市内の病院に向かう。


「ここで降りるわよ」


 道玄坂は嬉しそうにボタンを押す。バスを降りて少し歩くと大きな病院の入口にたどり着く。ふわふわと黒い破片が道玄坂に近づいて来る。


「あ、道玄坂に思念の欠片が……」


 面倒くさいが銀鏡の刀で退治する。


「あれ、もう、朝が来ない夢を見ていた」


 はいはい、と、返事をして病室に向かう。


「おかしいな~この世を暗黒に包む夢を見た気がする」


 ま、病院みたいな場所には思念の欠片が多いのかなと考えるのであった。わたしは途中で甘い飲み物が欲しくなり自販機で買い物をする。


「早く、面会時間が終わっちゃうよ」


 急がせる道玄坂であったが思念の欠片に憑依される方がよっぽど迷惑だ。売店でアイスでも買おうか迷ったが道玄坂がうるさいので諦めた。


 そして、北神先輩の病室に入る。表向きは階段の途中にて貧血で倒れてそのまま落ちて足の骨折である。


「おや、これはエリカ君ではないか」


 元気そうにわたしに声をかける。それから適当に世間話をして帰ろうとすると。

「エリカ君、俺は銀鏡の刀を諦めていない。俺の影をさらに強化しようとしたらこのザマだ」

「ほう、ホント予想外に元気そうだ」

「俺が復帰するまでにあの者にやられないことを祈るよ」



 あの者か……。この銀鏡の刀を持っていれば自然と出会うらしい。


「ありがとう、肝に銘じておくよ」

「先輩、また来ますよ」


 道玄坂はさみしそうにして帰るのであった。


「あ、帰りにアイスを買っていいか?」


 わたしと道玄坂はアイスを食べながらバスを待つのであった。

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