第11話


 包帯をして自室に帰ると凛正が料理をしていた。


「すまない、わたしの分も作ってくれて」

「エリカさんは料理が苦手でしたね、僕はエリカさんに必要とされるなら料理など簡単な物です」


 わたしは生気の無い凛正を見て、等価交換の言葉を思い出す。聖痕である銀鏡の刀は一番大切な人が悪霊になる。


 そんな、説明をミヤビから受けた。わたしはミヤビの『あるいは』を思い出す。本当に銀鏡の刀が輝けば凛正も悪霊化しないかもしれない。


「エリカさん、その包帯は?」

「あぁ、自転車で転んでな」

「そう……」

「心配しなくて良い、かすり傷だ」


 その言葉を受けて凛正は料理に戻る。ふーう、まさかドS先輩と決闘したとも言えずにいた。


「エリカさん、ポテトサラダが先にできたから食べていて」

「本当にすまない。でも、凛正と一緒に食べたいのでもう少し待つよ」

「はい、わかりました」


 それから、しばらく待つと、食卓にビーフシチューとポテトサラダが並ぶ。その味は美味しく、繊細な凛正の料理に相応しい物であった。


「エリカさん。最近、友達ができたのですか?」


 うん?道玄坂のことかな?あれを友達と認めるのも問題だが素直に同意するのであった。


 わたしは長い間、シングルマザーの家庭に育ち、再婚で凛正と出会った。孤独には慣れているはずだが、凛正と言う家族が増えて素直に嬉しいのであった。


「片づけくらいはわたしがするよ」


 わたしは食べ終わった食器を洗い始める。


「エリカさん、僕はもう寝ます」


 凛正が自室に戻ると、わたしはテキパキと洗い物を済ませる。わたしも自室に戻ると、ベッドに横になる。


 ふう、今日の夕食は凛正との貴重な時間であったと思い出す。


 窓の外から日射しが入ってくる。朝である。凛正はまだ寝ているようだ。


 わたしは昼ご飯のお弁当を作り始める。ニンジンをぶつ切りにして茹でて、冷凍食品の肉をレンジに入れる。炊きあがったご飯を弁当箱につめてふりかけをかける。


 それから、茹でたニンジンと温められた肉を入れて終わりだ。わたしは今日の朝稽古を休む事にした。ドS先輩との傷も残っているのもあるが、凛正のことが心配であったからだ。


 おっと、道玄坂にモーニングコールをせねば……。あの道玄坂は寝起きが寂しいとか言って電話をしろと頼まれているのだ。わたしは携帯を持ち道玄坂に電話をかける。


『あ、ぜ、ヴぇ』


 妙な唸り声が聞こえてくる。道玄坂は寝ぼけているらしい。イライラさせるなー。わたしは電話を切ろうとすると。


『エリカ、待って、今、正気に戻った』


 電話なのにこちらが見えているらしい、ホント道玄坂の凄いところである。それから、軽く会話をして電話を切るといつの間にか凛正が起きてきていた。


「エリカさんは毎日が楽しそうですね」

「あぁ、凛正は楽しくないのか?」

「僕は……」


 固まる凛正に、少し罪悪感が芽生える。わたしだけ道玄坂などになつかれて……。


 わたしには凛正の孤独を癒すことができないのかと自分が嫌になる。


「エリカさん、その目です。僕にだけ見せる寂しそうな目線」

「そうか……」


 口ごもるわたしに凛正は諦めに似た表情になり、朝の支度を始める。


「凛正、今日は体調が悪そうだが、休んで良いのだぞ」

「ありがとう、エリカさんのその想い感謝するよ」


 やはり、凛正は強い。銀鏡の刀の等価交換などに負けたりしない。そんな事を考えながら朝の時間は過ぎていくのであった。

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