第10話
白い死神もどきとの戦闘が始まって、刀と鎌の刃先がぶつかり合う音だけが化学実験室の中に響いていた。
わたしは汗をかき必死である。この白い死神もどきは強い……。
白い死神もどきの攻撃で切り傷が生まれ痛みを与えてくる。ギリギリでかわしているが細かい攻撃に傷が増えていくのであった。大振り、全身を使った突き、距離を取っての攻撃、どれもダメであった。
この戦いにミヤビはいない、信じられるのは自分だけである。しかも、持久戦になればダメージを負ったわたしの方が不利である。
「君、強いね、その勝ち目のない戦いで、その輝き、俺は感動を感じるよ」
北神先輩は余裕である。
「ミヤビ!黙って見てないで、策はないのか?」
クサリに巻かれたミヤビに声をかける。
「有るわよ、銀鏡の刀の力を最大限に出すの」
「それは美味しいのか?」
わたしは今にも負けそうな状況でミヤビに皮肉を返す。そう、今更に刀の力を上げるだと、最初から言え。
「エリカは相変わらずね。確かにピンチになってから銀鏡の刀が強くなるのは、都合が良すぎるわ」
「で、それは本当なのか?」
「本当は対価が必要……でも、試す価値は有るわ」
ふっ、試す価値か……。わたしの笑みにミヤビが真剣な面持ちになる。
「銀鏡の刀に気功術をかけるの」
今更、気功術?つまりオーラだ?これは笑うしかない。
やってやる。
わたしは全身のオーラが刀に集まるイメージを浮かべた。しかし、何も起きない。
「ミヤビの提案、無意味で味は不味かったぞ」
「ま、対価無しではバトル漫画みたいに強くならないか」
女狐め、いい加減なことを言って。でも、精神的に何かが変わった。
銀鏡の刀は強くならないが、相手に勝てるイメージが浮かんだ。いける、この戦い勝てる気がしてきた。
わたしは振るう刀に魂が宿ったようであった。
劣勢だった戦いの戦況は徐々に優勢へと変わっていった。魂のこもった剣術に北神先輩の顔色も変わっていく。
「凄いよ、君、俺がここまで追い詰められるとは」
あと少し、わたしの体よ、もってくれ。それは全身の切り傷が悲鳴をあげている状態での戦いであった。
「でも、ずいぶんと痛そうだね」
この先輩は目ざとい。ここで時間稼ぎされたら……。
「ここで一旦、引く作戦も有るが、この勝負は俺の負けでいい」
白い死神もどきは消えていく。
「なんのまねだ!」
「俺は綺麗に勝ちたい。おそらく時間稼ぎすれば勝だろう。それは俺の信念に無いことそれだけだ」
「ホントにいいのか次は簡単にわたしが勝だろうに」
「俺の目的はあの者に勝こと、別に俺でなくても問題ない」
あの者……。
このドS先輩にも勝てない相手……。
「エリカ、大丈夫?」
ミヤビもクサリか外されてわたしに近寄る。
「ここでお決まりの回復の術をかけてくれるところだろう?」
「わたしをだれだと思っているの」
女狐には無理か。
「包帯ぐらいならできるわ」
わたしは素直に治療を受けることにした。
「ミヤビ、北神先輩の言っている『あの者』に心あたりはあるか?」
「…………」
この反応、知っているのか……。
「皮肉ね、運命は周り始めた」
ミヤビの口調は歯切れの悪いものであった。
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