第9話

 朝、道玄坂と校舎を歩いていると。剣道部の主将である北神先輩とすれちがう。


 一瞬の違和感を感じ離れていく。わたしは後ろをチラチラ見ながら廊下を歩く。


「あーエリカも北神先輩に惚れたのかー」


 北神先輩はファンクラブがあるほどの人気ものである。わたしは道玄坂の言葉に頬をかいて戸惑う。


 確かにカッコイイが何かミヤビと同じ匂いがした。


 この世の者でない感覚?違う。


 秘めた力を持っている?微妙。


 何かを悟った?うーん……。


 答えの出ない問いに、わたしは頭をかきながら教室に向かう。


「道玄坂、お前教室まで付いてくるのか」


 道玄坂はニタニタと笑みを浮かべている。わたしは机の中からのど飴を取り出して糖分を補う。この道玄坂の扱いを考える為だ。


「アイヤー、この道玄坂桜子はエリカと一心同体ですよ」

「は~ぁ」


 ダメだ、ここまま、憑りつかれるしかないらしい。大きなため息が出るが仕方がないだろう。わたしは諦めて机の上で丸くなる。


「はい、これエリカのぶん」


 と……。


 北神先輩の生写真が数枚渡される。さっき、トイレとか言って一瞬消えたがこれを手に入れたのか。


「あぁ、カッコイイ先輩に密かに恋心をよせる。青春の王道だな」


 どうやら、道玄坂は北神先輩の事を気に入ったらしい。あの先輩をねえー。わたしは北神先輩の写真を見ると銀鏡の刀が疼く、わたしには色恋沙汰は関係ないらしい。


 妖刀に見いだされ、戦いの世界に身を置く。きっと、北神先輩は生と死の狭間を知っている感じだ。気になる理由が少し解けた。しかし、完全に解決した訳ではない。




 わたしとミヤビは昼休みに思念の塊である死神もどきをみかける。渡り廊下から旧校舎の一階にふらっと進んでいた。わたし達は後を追い旧校舎の一階を歩くのであった。この辺りは実験室と、その化学実験に使う薬品庫があり生徒はほとんどいない。


 昼ご飯抜きか……。


 空腹に気を取られ死神もどきを見失う。女々しい……空腹でも凛としているのは難しいな。


 うん?


 わたしは視線を感じるのである。覚悟を決めて化学実験室に入る。誰も居ない。こんな所をウロウロしていても仕方がない。


「ミヤビ、帰るぞ」


 ミヤビは不機嫌そうにしている。


「帰る?この大きな気配はどう説明する?」


 確かに思念の塊の気配が辺りをおおっていた。


「罠かもしれない、敵のテリトリーにいつまでもいるのは危険だ」


 わたしはミヤビを説得して教室に帰る。途中で適当にパンを買い、遅い昼ご飯を食べる。


「エリカ、お客さんだよ」


 クラスメイトが声を掛ける。教室の入口に行くと、北神先輩が来ていた。

ざわつく教室をしり目に校舎裏に二人で行く。


「銀鏡の刀を渡せ」

「北神先輩はこの刀が見えるのか?」

「あぁ」


 一瞬、手放していいかと脳裏をかすめるが、このままわたしの運命を否定できるとは思えないのであった。


「それは出来ない」

「そうか……」


 北神先輩は嬉しそうに言う。それは修羅の世界に身を置く者の気配であった。


「先輩?」

「放課後、化学実験室で待つ、銀鏡の刀をかけて勝負だ」


 化学実験室か、今日、思念の塊の気配を感じた場所だ。


「わかった、勝負しよう」


 ?


 後ろから風が吹いたと思ったら、先輩が居ない、北神先輩もまた人外の使い手か……。


 わたしは目を閉じて大きく息を吐き気合を入れ直す。




 放課後、わたしは化学実験室に居た。北神先輩と決闘する為だ。時間は合っているが北神先輩は来ない。


……うん?


 隣の薬品庫から音が聞こえた。わたしは薬品庫の前に行き、ドアノブを回す。化学実験に使う薬品庫なのに鍵がかかっていなかった。ためらいは有ったが中に入る。


 大きな気配と共に死神もどきが三体現れる。この狭さでは三対一では不利だ、わたしは急いで外に出る。化学実験室に戻ると北神先輩が丸椅子に座っている。


「あれ?俺の影とは戦わなかったのか、意外と臆病だな」

「死神もどきは先輩の影なのか、先輩の人外の気配は納得いったよ」

「この影を操る能力と銀鏡の刀があればあの者に対抗できる」

「あの者?」

「ふっ、いずれ君の前にも姿を現すかもしれない」


 確かにこの世界にわたしの知らない存在がいてもおかしくない。それよりも目の前にいる北神先輩だ。わたしは心を静かにして銀鏡の刀を抜刀して北神先輩を睨む。


「さて、俺の影をどう使えば勝てるかな……そう、影は三体まで同時に出せる。しかし、三体の影に誤差が生じる。そこでだ、一体に三体ぶんの力を使おうと思う」


 北神先輩はわたしを見て余裕の表情で語りだす。


「いいのか?数が多くあった方が有利だろう」

「言ったはずだ、誤差が生ずると。それに普通の影の動きはすでに読まれている」


 三体同時とは言え一体倒せば総崩れになるとわたしは思ったが、策にかからないか……。


「その表情、いいね、苦渋に満ちている」


 とんだサド野郎だ、わたしにその趣味は無い。わたしは刀を握り締め、さらに殺気を放出する。


「では、俺の影のご披露としよう」


 北神先輩はナイフを取り出して手首を切る。夕刻の西日に照らされた北神先輩の影に一滴の血が落ちる。すると、白い死神もどきが現れる。なるほど、血による影の覚醒なのか……それぞれ一体につき別々の血が必要なはず。更に、誤差なる弱点も生じる。それで三体の死神もどきを嫌ったのか。


 で、どうする、白い死神もどきの鎌は一周り小さい。


 コンパクトな攻撃に特化したらしい。これは最低でもかすり傷は覚悟した方がよさそうだ。


「エリカ、一人で頑張ってね」


 ミヤビの声だ。わたしはミヤビの方を向くとクサリでクルクル巻きにされている。北神先輩の仕業らしい。本当にわたしとは趣味が合わないらしい。


「ミヤビにはクサリがお似合いだ」

「うふ、わたしは見学してなさいってことね」


 否定しないのか……女狐め。鎌を振り上げて、白い死神もどきの攻撃が始まった。


 わたしは表情を引き締めた。

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