第5話
夜――
闇が支配する世界である。
わたしは凛正と夕食をとる。凛正は相変わらず、死人の様な顔である。
「エリカさん、今日はもう寝ます」
「あぁ、おやすみ」
わたしもまた、自室に戻り、ベッドに横になっていた。
眠れない……。
天井を見上げ右腕を上げる。黒刀使いに負けて一週間であった。連日の特訓で節々が痛い。
わたしに足りないモノ……。
ベッドに横になっている体を起こして銀鏡の刀を抜く。綺麗にわたしの顔が刀に映る。
迷いか……きっと迷いを認めることで新たなるステージに立てると思った。わたしは黒刀使いとの戦いを思い出す。
勝つ為に必要なこと……わたしは銀鏡の刀を短くできないか試してみる。素早い黒刀使いに長い剣先は無意味と考えたからだ。
短くした分の刀の威力が増せば勝機はある。わたしは銀鏡の刀を構えて短い剣先をイメージする。
少しずつ短くなる刀を軽く振るう。いける、これなら黒刀使いに勝てる気がした。わたしはミヤビにメールを打つ。明日に決着をつけるとの内容だ。
ミヤビから返事が来た。今日、会いたいとのこと。ふ、女狐と夜のデートか……。わたしは特訓ができないか聞くのであった。ミヤビの返事は公園にて待つであった。わたしは着替えて公園に向かうことにした。
翌日、わたしは五階のLL教室に向かった。うん?鍵が閉まっている。そうか……カーテンを切り裂いてしまったからだ。わたしは帰ろうと階段を降りようとした時である。
甘い匂いが立ち込める。どうやらわたしは招かれたらしい。抜刀して銀鏡壁を作る。現れるゾンビ達を一体一体倒してLL教室に近づくがやはり鍵がかかっている。
そういえば、隣の英語準備室からLL教室に入れるはず。わたしは英語準備室に入る。この部屋に入るのは初めてであった。古い本の特有の雰囲気の中を進むと扉がある。
LL教室の入口であった。わたしはドアノブを触った瞬間にカチっと音がする。
ドアの鍵が開いたのだ。これは罠だ。
廊下からLL教室に入れなくて英語準備室から入れるのは逃げ場をなくすためだ。わたしは今、生と死の狭間にいる。このドアを開ければ黒刀使いを倒さなければ死である。握ったドアノブが震えだす。
これが死の恐怖なのか……。
ミヤビは何も言わずに立っている。アドバイスは無しか、使えない女狐だ。わたしは心を落ち着かせる為に銀鏡の刀に映る自分を見る。
まてよ……。このまま銀鏡壁を消したらどうなる?わたしは刀に映る自分の目を見て銀鏡壁を消す。辺りのゾンビ達が消えホコリ臭いただの英語準備室になる。
わたしはドアノブを回して中に入る。教室の後方に女子生徒が座っていた。実体のある生身の人である。しかし、見覚えがある。黒刀使いに間違いない。
わたしはとにかくLL教室の廊下側の鍵を開けて退路を確保する。ミヤビはビビリだと鼻で笑う。さて、銀鏡壁を再び作り黒刀使いとバトルといこう。わたしは銀鏡の刀に念を込める。
LL教室の中はゾンビでいっぱいになり黒刀使いの目が赤く光る。
『死にたくないの?わたしは死にたい』
黒刀使いは抜刀して切りかかってくる。わたしは刀で黒刀を受け止めて最初の一撃をかわす。黒刀使いは凄い力であった。刹那、よろけるわたしにニ撃目を打ってくる。これは持久戦になったら不利だ。一撃に渾身の力を込めよう。
わたしは黒刀使いとの距離を取りスキを窺う。
『あら、鍵が開いている、閉めないと』
しまった。
LL教室の廊下側の入り口のドアノブに黒刀使いが切りつける。ドアノブはぐしゃぐしゃに壊れしまう。
英語準備室へ回るルートは障害物が多すぎて確実に後ろから切られる。銀鏡壁を消すのも集中するのにスキが大きくてむりだろう。
これで退路は断たれた。
「雑魚のゾンビをわたしがなぎ倒すから一対一で決着をつけなさい」
ミヤビが苦笑いをして呟く。わたしは自爆覚悟で一直線の突きに勝機を賭けることにした。
わたしは間合いをつめて黒刀使いに突きを放つ。黒刀使いは避けきれず、刀が左腕をかする。わたしは受け身をとり、転がる体を直ぐに起こす。かすったか。二度目は無い。動きが読まれたから確実にかわされる。
万策尽きたか……。
うん?黒刀使いが左腕から出血している。
思念の塊が何故だ?黒刀使いの女子生徒は銀鏡壁を作る前から教室の後に座っていた。
これは賭けだが試してみる価値はある。黒刀使いが動き斬撃をわたしに放つ瞬間に黒い刀に銀鏡の刀を思いっ切りの力で叩きつける。
『何故、生を望む、死こそ、世界のすべてなのに……』
黒刀は折れて黒い霧になって消えていく。
「勝ったようね」
ゾンビ達も消えていくとミヤビが呟く。わたしは窓を開けると新鮮な空気が入ってきて頬をなでる。勝ったことを確信してLL教室を離れる。黒刀使いの少女の方は行方不明になっていた人物で無事に家に帰ったらしい。
「黒刀使いは思念の塊の一つにしかすぎない。戦いはこれからよ」
ミヤビがせっかく勝って気持ちのいい帰りに余計な事を言うなと煙たい気分になる。
分かっている。わたしは戦いの中に身を置く事を誓ったのだから。
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