第4話
朝稽古で疲れ切った放課後の事である。教室で帰りの支度をしていると……。
それは果実のような甘い匂いであった。わたしは匂いに導かれるまま階段を進む。
五階のLL教室の前まで来ていた。催眠術が解けるようにわれにかえる。気がつくと思念の欠片が大量に辺りを包んでいる。
「刀を抜いて」
いつの間にかミヤビが一緒にいて、真剣な面持ちで呟く。
どうやら悪霊に招待されたらしい。わたしは銀鏡の刀を抜くとわたしが刀に映っている。その瞬間に異世界が広がり銀鏡壁の中に入る。辺りの思念の欠片がゾンビのようにうごめきだす。わたしは刀をかまえて迎え撃つ。ミヤビもまた短刀を抜くのであった。
そう、わたしに迷いは無かった。銀鏡の使い手として悪霊と戦う決意はしていた。わたしの瞳が凛と輝くのを見てミヤビもまた力が入ったようだ。まず、前方のゾンビに刀で突く。
思念の欠片なのにやたらと手ごたえがあるのを確認して、さらに切りつける。
前方のゾンビは黒い煙となり消えていく。LL教室の扉が開きさらに数体のゾンビが現れる。
「やはり、本体はLL教室の中か……」
わたしは更にゾンビを切りつけて倒していく。そして、ミヤビの素早さに驚いていた。短刀なのに次々とゾンビを倒していくのであった。そして、ミヤビが手でGOサインをだす。わたし達はLL教室に入るのであった。
LL教室の中は黒いカーテンにおおわれて暗闇であった。
「不味いな、完全に相手の手の内だ」
次々と襲ってくるゾンビを倒しながら。奥に進む。
くぅ……。
手のひらが痛い。思念の欠片のゾンビなのに切りつけると手に負担がかかるのか。
「ミヤビ、このままでは負ける。後始末の事を考えるな!」
「あいよ、エリカ」
どうやら、ミヤビも同じ事を考えていたらしい。これで勝機がある。ミヤビは黒いカーテンを短刀で切り裂く。太陽の光が部屋の中に射し込むとゾンビ達は動きが鈍くなる。
「昔から悪霊は光に弱いってね」
ミヤビは機嫌よく剣の舞を加速する。女狐め……調子に乗りよって。
安堵は一瞬であった。黒髪の女子生徒が教室の奥に座っていた。気配で分かる……思念の塊、つまりは悪霊のボスと言ったところだ。少女はふらーっと立ち上がると刀を抜刀する。構えられた刀は黒く凄まじい殺気を放っていた。
「エリカ、気を付けて……」
ミヤビがそう呟いた瞬間にわたしの目の前にいる。
速い……。
わたしは瞬時に距離を取るが少女の剣先が腕の制服の一部を切り裂く。
『一緒に死んでちょうだい』
わずかに動く唇から呪いの様な言葉が発せられる。考えている暇はない、更に次の斬撃が襲ってくる。
「エリカ、この悪霊にはまだ勝てない。一旦引くしかない」
悔しいがミヤビの言う通りだ。わたしは教室にある椅子を投げつけてすきを作りLL教室から逃げ出す。そして走り出すと銀鏡壁が無くなる。
「その傷は大丈夫?」
気がつくと肩が軽く切られて血が滲んでいた。わたしは一階の保健室に行く事にした。そして、保健室で休んでいた。切り傷と言ってもかすっただけだ。ミヤビは心配そうにわたしを見ている。 多分、おりるとか言い出さないかだ。
わたしは刀を抜刀して銀鏡壁を作る。清潔な保健室にも小さなゾンビが一体現れる。わたしが瞬殺すると静かに刀をおさめる。銀鏡壁は消え、ミヤビは安堵した様子である。分かりやすい女狐だ。
「LL教室の黒刀使いも簡単に倒せたら問題ないのにね」
ミヤビの言葉にわたしは無力感に襲われる。
「正直に言ってくれ、わたしに何が足りない」
「……簡単だ、実戦経験が少なすぎる」
ミヤビは一瞬の沈黙の後に呟く。
「なら、戦って、強くなるのみ」
「少し広い場所に行きましょう」
ミヤビの言葉に従いわたしは図書室の隣の広場に移動した。
「じゃ、始めるよ」
すると、ミヤビの影が一人出に動き出す。さらに三つほどに分かれると影は短剣を抜く。
「わたしの影で修行よ」
わたしも刀を抜き構える。素早いミヤビの影にはわたしの振るう刀は全然太刀打ちできない。
……。
そして、一時間ほど全力で動きまわった。わたしは自販機でスポーツ飲料を買って飲み干す。
「一週間だ、一週間でミヤビの影に勝ち。そして、黒刀使いを倒す」
わたしは連日の猛特訓を始めた。
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