第53話
夜の帳は既に降り、爽やかな朝。
カーテンの隙間からは優しい光が差し込んでいる。
昨日の重たい体はもうどこにもない。
完全復活と言うべきだろう。
この朗らかな朝に気持ちよく起きれてよかった。
大きく伸びをしてベッドから出ようとした瞬間。
「……あれ、下半身が動かない」
体調はもう治ったはずなのに動ない。
布団に手を入れ確かめてみることにした。
ムニュッ
ムニュッ⁉
なんだこの感触は……前に数回体験したことある感触だ。
枕でもない丸みを帯びた柔らかく、体温を感じるそれは触ると声が聞こえてきた。
「はぁ……んん……あぁ」
この素敵な朝の雰囲気をぶち壊す
もうこの丸みを帯びたものも、なんで下半身が動かないのかも大体想像できている。
手を布団にかけ、思いきりめくりあげる。
ファサッ
布団は軽い音ともに宙に舞い、僕と妹との間を遮断するものは無くなった。
「楓、朝から何をやっているんだ?」
「おはよう兄さん、大分体調がよくなったみたいでよかった」
「それは感謝してる。だから今すぐ離
れてくれないかな?」
「嫌だよー。この二日間一緒に寝てなかったんだもん」
「だもんじゃなくて、もう朝だよ?」
「えーじゃあ起ないと。仕方ないけど」
面倒くさそうにぐったり体を起こした楓は、僕と対面式に座る態勢になった。
「兄さん……」
「な、何?」
僕と目が合った楓は、なぜか僕の後ろに手を回してきた。
「ちゅー」
「しません!」
楓の口に手を置いて、やや強引に妹を引き離した。
「ひどーい! 力で妹を従わせるなんて!」
「そんな変な言い方はやめて!」
「大体兄さんは私の胸を揉んでおいて、私の時はお預けって不公平じゃん! 生憎だけど、私は焦らしプレイを好む性癖は持ち合わせておりませんので」
「そんなの僕だってないよ!」
大体勝手に布団に入ってきたのは楓の方じゃないか。
昨日の夜はいつも以上にぐっすり眠ってしまっていたので、気付かなかったけど。
「それにしても兄さんのベッド、すごい汗臭かった」
「言わなくていいよ、恥ずかしいから」
「何が恥ずかしいの? 私はね、すごく興奮したの……」
頬を手で押さえて照れ隠ししながら
なんか一人で言い始めた。
「なんか汗の臭いがムンムンしたからまるで事後のような雰囲気が――」
「ストーップ楓! わかったからそれ以上は言わないで」
これ以上楓の口を開放しておくのは危険すぎる。
学校一の優等生が言う台詞では絶対ない。
「今日は学校行くの?」
「うん。もう大分治ったからね」
「やめておいたら? まだ顔色悪いよ?」
「大丈夫だって。雅ヶ丘さんと上野さんにも礼を言わないといけないし、また今日休んだらあの二人が来そうだし」
正直もうあんな経験二度としたくない。
病人の男が美女二人に乳首を舐められるなんて想像もしたくない。
「兄さん、顔赤いけど」
「赤くない!」
「いやいや真っ赤だよ? もしかしてエッチなこと考えてた?」
「か、考えてないって! それより朝ごはんの準備してくる!」
「……絶対考えてたよね」
楓は小さくそう呟いた。
朝食は楓にいつも通りのメニューを出し、僕は昨日のお粥の残りを食べた。
それからは制服に着替え、二人分のお弁当を作った後、学校に向かった。
一日しか休んでいないのに、その前の日の内容が濃すぎて久しぶりに来た感じが強い。
今日はいつもより登校するのが遅いので東雲さんとも会わない。
たまには優雅に一人で登校しよう。
この緑豊かな自然に包まれた景色を見ながら登校するのは、謎に貴族の気分が味わえた。
周りの人など気にせず自分の時間を楽しめる。
……そう思っていたのに。
「よう心、体調はもう平気なのか?」
爽やか風に挨拶をしつつも、僕の背中を思いきりバンッと叩くのは。
それは女子の力ではない。確実に男子。
そしてこの声。
確実に
何か僕に恨みでもあるのか?
背中がヒリヒリして痛い。
「お前が昨日いなかったせいで雅ヶ丘さんたちが男子に囲まれてたぞ?」
「そのことは聞いたよ。というか僕がこの学校に来るまであの二人は昨日みたいな生活を送ってたの?」
「いいや全然。陰からただ可愛いって言われてただけだ」
「じゃあなんで昨日は男子に囲まれてたの?」
「お前がこの学校に来てから、雅ヶ丘さんも上野さんもよく喋るようになったからだよ。まあ、俺たちの前では前みたいに不愛想だったけど」
まあ、あの二人はちょっと男子を毛嫌いしているところがあるからね。
つまり僕は男子として見られていないのか。
別に悲しくはないけど、ちょっと嫌だな。
せめて異性として見てほしかった。
僕はなんで朝からショックを受けないといけないんだ。
隣で悠々と登校する真と一緒に教室へ向かった。
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