第51話 ドキドキの看病ーー②

 前世の夢を見てから数十分後、雅ヶ丘さんと上野さんが来た。


 最近生徒会などのことで二人と全然話せていなかった。

 しかし二人は僕の顔色を見るなり、かなり焦った様子で看病をしてくれた。


「酷い熱ね。楓、私水買ってきたから袋から取ってくれない?」


「真矢さんの袋は……これか」


 コンビニの中くらいのレジ袋から水を取り出し、上野さんに渡した。


「北川君、水の飲めそう?」


「う、うん。平気」


「じゃあ少し体起こすわね」


 上野さんと雅ヶ丘さんに体を支えてもらいながら、体を起こした。

 これじゃまるで介護してもらってるみたいじゃないか。


 上野さんだって全国模試が近いはずなのにこうやって時間を割いてまで来てくれている。


 最近の自分は本当に情けないと思っている。


 渡辺先輩たちを悲しませ、生徒会長の横暴に抵抗せず受けてしまい、妹を義理だと気づいてあげられなかった。

 そして挙句の果てにはこれだ。


「ごめん三人とも、迷惑かけて……ゴホッ、ゴホッ」


「そんなこといいから、早く休みなさい」


「そうですよ。熱が三十九度まで上がってるんですから」


 ……マジか。

 朝寝ている時よりも酷いじゃないか。


 やっぱりあのおぞましい前世の夢を見たからかな。


「というかどうやって僕の体温を測ったの……?」


「あ……」


 何その雅ヶ丘さんの墓穴を掘ってしまったみたいな表情。


 雅ヶ丘さんが楓と上野さんに睨まれている。

 また変なことでもしたのね……それにしてもパジャマのボタンが二つほど取れている。

 暑かったから無意識に脱いだんだろうか?


 ボタンを再度はめて、再び体を横にした。


「もしかして心君、少し泣きました?」


「うん。二人が来る前に怖い夢見たら

しくて大泣きしていたわ」


「風邪を引いたら心が弱くなるとは聞いたことがありますけど、まさか北川君が夢で泣いてしまうとは」


「いししっ、可愛いでしょ?」


「いい意味で意外です。ちゃんと心君も人間なんですね」


「あの時の兄さんは可愛かったわよー」


「私も一目見たかったです。もう一度

泣いてくれないかしら?」


 二人とも、まるで僕が聞こえていないと思って喋ってるかもしれないけど、十分耳に入って来るから。


「二人とも、北川君が起きちゃうでしょ」


「ああ……そうでしたね。今は安静にしてもらわないと、早く学校で会えないですしね」


「北川君がいないせいで変な男子がずっと話しかけてくるから勉強にも集中できないし」


 クラスでそんなことになっているのか……。

 二人も大変だったんだなぁ。

 でも確かに顔色を見れば少し疲れているのもわかる。それなのにお見舞いに来てくれるなんて本当に素敵な人たちだ。


「そう言えば心君の体はどうするのですか?」


「一応タオルで洗おうとは思っているけど三十九度もあるんじゃ……」


「そうですよね。流石に接触しすぎると移ってしまう可能性もありますし」


 二人が僕の体をどうするか考えているが、別に一人でできるから大丈夫だけど。


 ダメだ、声帯が喉に張り付いた感じでうまく声が出ない。

 少し喉が腫れているみたい。


「そんなものマスクしとけば大丈夫じゃない?」


 当たり前のような表情で上野さんが答えたが、それじゃあダメでしょ。


「そうね……あとで手とかは洗えばいいし」


「よし。じゃあそうしよう」


 あれ? みんな納得しちゃった?


「兄さんごめん、少し起きてくれる?」


「別に体は自分でやるから――ゲホッ、ゲホッ」


「ほらほらまだ苦しそうじゃない。私たちがやるから安心して」


 マスクをつけた三人が僕のベッドに入ってきた。

 半強制的に体を起こされ、上半身を

脱がされた。


「うわ……やっぱりいい体してるわ。細マッチョってやつ?」


「あのー上野さん?」


「べ、別に変な意味じゃないわよ。ただ本当にそう思っただけだってば」


「そ、そう……」


 常温のタオルが上半身に当たった。


「暴れないでよ。せっかく拭いてあげるんだから」


「う、うん……」


 両手を横にあげ、しばらく目を瞑って流れに身を任せることにした。


 しかし、三人の手つきはどれも丁寧で、思っていたより気持ちよかった。

 うなじや脇腹と隅々まで拭いてもらい、終わったと思いきや。


「な、なんで楓と 雅ヶ丘さんはそこばかり拭いているの?」


「ここは汚れが溜まりやすい場所なんだよ?」


「そうですよ。ですからこうやって私たちが綺麗にしてあげてるんですよ」


「そこは……」


 なんで僕は妹とクラスメイトに乳首を責められているんだろう。


 傍から見ればかなり規制がかかりやすい絵面だろう。


「中々綺麗にならないわね……」


「いや、楓。十分綺麗になったと思う

よ?」


「いやまだまだよ。ねえ、琴葉さん?」


「……え?」


 雅ヶ丘さんだってまだ何かあるの? みたいな表情をしているじゃないか。


「まだ琴葉さんも子供だなぁ……ペロッ」


「――か、楓」


 ダメだ、いつものような大きい声が出ない。

 なんでいきなり舐めだすんだよ。

 流石にそこまで行ったらアウトだ。


「ちょ、ちょっと楓――⁉」


「兄さん男の子なのにすごく硬くしてる」


 雅ヶ丘さんも流石に驚いているじゃないか。


「琴葉さんは本当に子供ね」

「な、何を……えいっ!」


 雅ヶ丘も空いているもう一つの乳首に顔を近づけ、一瞬僕の顔を一瞥した。


 雅ヶ丘さんの顔は妙に赤く、上目づかいに少しイヤらしさを感じた。


「い、頂きます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る