第46話 会長との戦い

 生徒会長の鋭い眼光を前にしても、怯むことなく言った。


「生徒会長の名前を知らなかったので、隣にいる矢島さんに聞いていました」


「そうか……なら本人である私に聞けばいいだろ。考えろ」


「は、はい……」


 確かに噂通りの理不尽具合。


「それじゃ続きから話すぞ」


 クラスごとの出店の場所。

 そのことについての説明をされた。


「以上、出店の説明は終了だ。また一週間後、今日と同じ時間帯に生徒会室に来るように。それでは解散」


 何だろう。ものすごく疲れた。

 会長の説明の最中、この生徒会室の空気がとても重く感じた。


 設備されている冷房設備すら、会長の話を妨げないように静かにしている様子だった。


 流石〈烈火の氷姫〉。その名に恥じない貫禄だ。


「それと北川心。お前は残れ」


 何となくそう言われるんじゃないかと思っていたけど、まさか本当に言われるとは。

 生徒会長以外はみんな颯爽と部屋から出ていく。


 なんでこんなことになるんだろう……僕って面倒ごとに巻き込まれる体質なのかもしれない。


 教室の半分くらいしかないこの部屋で会長と二人きり。


 いや、二人きりなんてロマンチックな言い方していいのか分からないけど。


「あ、あのー会長。僕はどうして残されたのでしょうか……?」


「そんなことも分からないのか? お前、私に挨拶に来たか?」


「は、はい?」


「編入生なら生徒代表に挨拶と自己紹介は当たり前だろうが」


 いやいや聞いたことないんですけど。

 そもそも前にここに来た時会長がいなかったし。


「す、すいません。僕は一年一組北川心です。これからよろしくお願いします」


「編入の理由は? 転校ではなく編入、何か特殊な事情があるんだろ?」


「まあその通りです」


「その理由を聞かせろ」


「実は僕体が弱くて中学生の時に倒れ

てしまったんです。それで目覚めたのがつい最近で、退院してから一カ月後にこの学校に編入と言う形で入学しました」


「……そうか。体の具合は大丈夫なのか?」


「はい。もう大丈夫です」


 なんだ、言い方は怖いけど普通に心配もしてくれるんだ。

 僕はてっきり倒れる方が悪い! とか言われるかと思っていた。

 流石にそこまでの鬼軍曹じゃないみたい。


 よく見てみれば確かに美人だし、ちょっと可愛いかもしれない。


「さっきからなんで私の顔をじろじろ見てるんだ」


「み、見てないですよ」


「それならいいが、お前は編入試験満点だったよな? たった一カ月程度でそこまでの知識を身に着けたと言うのか?」


「はい。普通に覚えられました」


 会長は目を細め信じられないと言わんばかりの表情をしているが本当のこと。


「それに今回の期末テストも満点。お前は本当に正当な手段でこの点数を取ったのか?」


「当然ですよ」


 会長の目を見る限り疑われてるみたいだが、残念ながらそれは本当。

 残念なのかは知らないけど。


「それほどの頭脳を持っているのならどうだ、生徒会の仕事にも興味はないか?」


「……と言いますと?」


「わからないか? 生徒会の仕事を学んでおけば、いずれ時期にでも生徒会の一員になれるかもしれないんだぞ?」


 まさかあの生徒会長から直々に生徒会の勧誘をされるとは……。


 だけど生徒会には絶対に入れない。

 入りたくないわけじゃないけど、これ以上忙しくなったらずっと楓が家で一人ぼっちになってしまう。


 それだけは絶対にダメだ。


「ごめんなさい。それはお断りさせていただきます」


「理由を聞いても?」


「できれば言いたくないのですが……」


 妹が心配だから家に帰るなんてシスコン発言はあまりしたくない。

 会長は決して誰彼構わず人のことを言いふらす人じゃないのは分かっているけど、できれば言いたくない。


「理由を聞いても?」


「ですから、言いたくないのですけど」


「理由を聞いても?」


「……は、はい。言いますよ、言いますとも」


 結局聞くつもりだったんじゃないか。

 それならそうと言えばいいのに。


「家で妹が待っているからです」


 どうだこのシスコン発言。

 笑い者にでもなんでもすればいいさ、僕は妹の寂しそうな表情は絶対に見たくない。


 会長が妙に静かなので顔色を伺うと、こめかみに青筋を浮かべるように怒っていた。


 僕何かまずいこと言った?

 いやまあ、言ったけど。

 とんでもない爆弾発言をしたけれども、あそこまで第三者が怒る理由ではない。


 せいぜい笑うかドン引きするくらいだろう。


「貴様は生徒会をナメているのか? 妹に早く会いたいがために学校の頂点に立つ組織への参加を断るのか?」


 ちょっと言い方があれだけど全くその通り。


「丁重にお断りさせていただきます」


「ふざけるなよ……妹に会いたいから生徒会への勧誘を断ると言うのか……そうかそうか」


「か、会長?」


「だったら一つ勝負をしないか?」


「勝負?」


「次の学園祭、通称〈スマイル橋進祭(はっしんさい)〉で私たち三年三組の方が総合順位が上だったら生徒会に入る。貴様のクラスの方が上だったら私は諦めよう」


「そんな横暴なっ!」


「黙れ。これが生徒会長の権力だ」


 権力をそんな荒く使っちゃだめでしょ!

 だがしかし、あの生徒会長が僕たちのクラスの方が順位が上だったら諦めると言っている。


 生徒会の勧誘からの唯一の逃げ道、それは三年三組に勝つこと。


 それしかもう道は残っていない。


「わかりました。受けましょう、その勝負」


「話が早くて助かる。ではせいぜい一年生は最上級生に勝てるように足掻くんだな」


 そう言って会長は部屋から出て言った。

 なるほど、一年生なんて戦うまでもないということか。


 だったら勝ってやる。

 一年生だからとか関係ない、あの生徒会長の勝った気でいる鼻っ柱を折ってやる!

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