第45話 恐怖の生徒会長
「北川心」
「は、はい」
「――私と付き合ってください」
彼女はそう言うと深く頭を下げた。
……ちょっと待ってよ。
脳が現状に追いつけない。
僕は今生まれて初めて……ではなかった。
楓に何度も言われている。
でも家族以外から初めて告白された。
正直に言えばとても嬉しい。誰かに好かれるということは、とても幸せなことなんだ。
だけど、僕はその返事を断った。
「ごめんなさい」
何も包み隠さず、直球で渡辺先輩に言った。
顔は見えないけど、体が微々と震えている。
まるで涙を我慢しているような……。
僕だって辛い。人の好意を否定したのだから。だけど、今の僕にはその余裕はない。
「お前ふざけてんじゃねえぞ、一年の餓鬼が!」
厳つい体格の男子生徒が僕の胸ぐらを思いきり掴んで来た。
「やめて、心は悪くない――」
顔を上げて、制止を呼びかける渡辺先輩の目からは大粒の涙が一滴、頬を伝っていた。
それでも先輩はやめなかった。
「お前調子乗ってんじゃねえぞ。雅ヶ丘だか東雲だか知らねえが、そっちを選ぶって言うのか!」
「そんなこと僕は一言も言ってません。第一、僕は彼女のことを知りません。初対面なのに付き合えるわけないでしょう」
「お前……本当にイカれてるな?
「そんなの誰だって一緒ですよ。よく知らない相手と付き合って何になるんですか? 付き合ったから終わりじゃないんですよ、そこから始まりなんです。それなのに何も好みも知らない相手をどうやって幸せにすればいいんですか?」
僕だって好きで渡辺先輩の交際の申し込みを断ったわけじゃない。
今だって胸が痛む。深い理由があるかもしれないけど、僕が彼女を泣かせたことには変わりないのだから。
「おい、後輩の言う通りだって!」
「もうやめろよ!」
僕の胸ぐらを掴んだ先輩は、他の人に数人がかりで止められていた。
その間に僕は泣き崩れている渡辺先輩の元に歩み寄った。
「先輩、これをどうぞ」
「……これって心のメールアドレス?」
ハンカチとともに僕メールアドレスが書かれた紙を渡した。
「はい。もしよければ友達から始めませんか? もちろん先輩後輩として」
「いいの?」
「はい。もちろんです。これからよろしくお願いします」
「……よろしく。メールアドレス貰っ
たってことは毎日メールしてもいいってこと?」
「え、ええ。まあいいですよ」
「やった、ありがと」
「はい。じゃあ僕はこれで」
これで多少の胸の痛みは和らいだ。
本気で人から好意を受けるってこういうことなんだ……もし楓が兄妹愛を越えた感情を僕に抱いているとしたら、想像したくないほど恐怖だ。
僕たちは兄妹なのだから、何があってもその恋は実らない。
まあ、楓に限って本気の恋ではないと思うが。
少し時間をくってしまったけど、まだ集合時刻より五分ほど早い。
十分間に合う時間帯だ。
教室にいる矢島さんに声をかけて、生徒会室に向かった。
「失礼します。一年一組北川心です!」
生徒会室の扉をノックし、中にいる人たちに自己紹介をした。
もう全部のクラスが集まっていた。
今日はクラスの屋台の配置についての説明。
屋台をどこに設置するかによって売り上げが大幅に変わるらしい。
特に一番人気なのが正門の場所。
来賓の方や一般客などが必ず通る道なので最も目立てるのだ。
僕たち一年一組を含め、全員が正門
を狙っている。
「遅いぞ一年一組。お前ら一体何をやっていた?」
冷徹な声で僕をギロリと睨んで来たのは、虚ろな目と銀色の長い髪を持つ女性。
一目見て判断できた。
あれが橋高の生徒会長か。確かにすごい几帳面そうな感じがする。
「すいません。諸事情で遅れてしまいました。第一、開始の時間まであと三分あります」
「三分ある……? 中々度胸がある小僧だな。おい副会長、こいつは?」
「北川心。先月にこの学校に来た編入生です」
「ほう。編入生か。なあ北川、お前は義務教育中、五分前行動を習わなかったか?」
「……習ってないです」
というか義務教育受けてないです。
おそらくそのころ僕はゴブリンと戦っていました。
「ふざけるな! この言葉を知らない奴がいるわけないが、まあいい今回は見逃してやる、次五分前行動ができなかったら実行委員を降りてもらうからな」
「わかりました」
「それじゃあ本題に入るぞ。今日は――」
会長がそのまま今日のことについて話始めた。
僕たちは自分の席に着いて話を聞いていた。
「怖かったでしょ? 流石〈烈火の氷姫〉だね」
「烈火の氷姫……? なにその矛盾した異名」
「生徒会長のことよ。学校ではみんなそう呼んでいるわ」
「氷姫は性格からして分からなくもな
いけど、なんで烈火なの?」
「烈火の如くキレるから。あと、生徒会長の名前が
なるほど。この世界にも前世のような異名があるみたいだ。
「そこ! 今何を話していた!」
今の話し声も聞こえたのか……なんて地獄耳なんだ。
僕たちは指をさされ、怒号を飛ばされた。
「今私が話しているのだ。それを遮るということはもっと重要な内容なんだろ? みんなにも教えてやってくれよ」
「……は、はあ」
この人がなんで学園中から嫌われているのか、大体わかった。
でも僕は生徒会長のことを嫌いじゃない。
彼女は自分で本当に正しいと判断して僕らを今叱っているから。
裏を返せば、ここまで正義感に従順な人は滅多にいない。
「話の内容を詳しく話せ」
「いいんですか?」
「ああ。話してみろ」
僕は言われた通り、今はなしていた内容を生徒会長の前で言った。
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