第44話 告白

 翌日。いつも通り学校に登校し、教室へ入る。


 この学校も大分慣れてきた。

 もう迷わずに自分の教室まで行ける。


 ガラリと教室の扉を開け、自分の席に座ろうとした時、机の上に一枚の手紙が置いてあった。


 今日は比較的早く来たので、まだ教室には誰もいない。


 赤い封筒にハートマークのシールが貼ってある。

 本当に僕宛なのか?

 裏返してみると、左下に小さく『北川心さんへ』と書かれていた。


 一体これはなんだろう。僕宛で間違いないようだが。

 封を開けて中身を確認する。

 もちろん出てきたのは一枚の手紙。

 そこには綺麗な筆跡で文字が綴られていた。


『北川心さんへ。今日の放課後、屋上へ来てください』


 とのこと。

 差出人もなし、女子であることは間違いないだろうけど、先輩かそれとも同級生かもわからない。


 ガラガラガラ


「あ、雅ヶ丘さん。おはよう」


「あら心君、今日は早いのですね」


「……ま、まあね」


「今何か隠しませんでした?」


「別に何も隠してないけど?」


「ならいいですが……」


 危なかった。あまりこういうのは他人に見せてはいけない物だよね。

 咄嗟に手紙をポケットの中に入れて、トイレへ駆け込んだ。


 それにしても一体誰が手紙を……?

 まあ、放課後になればわかることか。


 なるべく早く要件を済ませて実行委員の仕事もしなければいけないし。

 そのまま僕は何事も無かったかのように教室に戻り、普通に授業を受けた。


 それは昼休みのこと。

 僕は雅ヶ丘さんと上野さんで昼食を食べていた。


 だけど、周りの様子がいつもと違う。


 なぜか分からないが、やたらと上級生が一年の階にいたのだ。


 僕たちには関係ないが。


「ねえ心君、やっぱり何か隠していますよね?」


「え? なんで……?」


「もう出会って一カ月は経つんですよ? それくらい仕草でわかりますよ」


 一カ月で仕草から感情が読み取れるとか相当すごいと思うけど。


「隠し事があるなら今言った方がいいわよ。雅ヶ丘さんは怒ると手が付けられなそうだから」


 上野さんも怒ったら手が付けられなそうだけど。


「それで隠し事って何?」


 もうこうなったら無理か。

 ごめんなさい、手紙の主。

 バッグに隠しておいた手紙を二人の元に置いた。

 二人は手紙を取り、内容を読んだ。


「なるほど……ラブレターってやつじゃないかしら?」


「私もそう思う」


「僕にラブレター……? どうしてまた僕に」


「はぁ……自覚無いのが一番怖いわね。それで北川君はもし告白されたら付き合うの?」


「告白されたら? 無いと思うけどもし本当に告白だったら……」


「だ、だったら?」


 二人は僕の最後の言葉に固唾をのんで待っていた。


「丁重にお断りさせていただこうかな」


「え? 断っちゃうの?」


「うん。今は楓の事だったり学園祭の事だったりで忙しいし、相手が誰かもわからないまま付き合うのなんてダメだろう?」


「まあそうだけど、本当に大真面目ね」


 これが普通じゃないのか?

 だって知らない女の人と付き合ったって何かできるとは思えないし。まずはお友達からじゃないと。


「でも心君らしくていいと思いますよ」


 雅ヶ丘さんは僕の考えに賛同してく

れた。

 上野さんも否定はしてないし、ほとんど肯定してるようなものだし、僕の考えは間違っていないと再認識することができた。


 そして迎えた放課後。

 矢島さんに少し遅れるとだけ伝え、僕は屋上へ向かった。


 屋上へ続く階段を上って行けばいくほど騒がしい。


 一人じゃないのかな?


 屋上に出る扉を開けると、女子がたくさんいて、男子が数人いた。


 ネクタイの色からして二年生の人たちだ。


「ありがとう心さん、来てくれたんですね」


 数人の生徒の中から一人こちらに向かって歩いてきた。


 青い髪を後ろで一つにまとめた女子生徒。

 それもかなり美人の。


「初めまして、私は二年三組の渡辺沙耶わたなべさやと言います」


「初めまして、北川心です。先輩なら呼び捨てで構いませんよ」


「ありがとう、心。そうさせてもらうわ」


 この人が手紙の差出人なのかな?

 この状況から察するにそうみたいだけど、なんでこんなにたくさん人がいるんだろう。


「それで、渡辺先輩。僕に何か用ですか?」


「もちろん。そのために心をこんなところに呼んだのよ」


 外野がどんどん騒がしくなってきている。


 これは何かのイベントなのか?

 いや、今は何も考えず渡辺先輩の話を聞こう。


 パシャパシャッ

 写真も撮られまくってるけど気にしない。

 ……いや、本当は滅茶苦茶気になるけど。


 渡辺さんはふぅと深く深呼吸をした後、僕の目を真剣な表情で見て言った。


「北川心」


「は、はい」


「――私と付き合って下さい」

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