第三章 新学期始動編

第42話 新学期早々男子から睨まれました


 今日から新学期が始まる。


 久しぶりにみんなの顔が見れる。

 少しウキウキしながら僕は教室に入った。


「おはよう、上野さん」

「ええ、おはよう」


 上野さんは新学期の朝からもう勉強していた。

 流石全国トップレベルは違うな。

 そのまま自分の席に向かう。


「おはよう、雅ヶ丘さん」


「おはようございます。ところで休み中、楓に何かされました?」


「……特にないかな」


「そうですか。よかった」


「よかった?」


「あ、いえ。なんでもないです」


 初日早々雅ヶ丘さんの顔は若干赤かった。


「やあ心君、おはよう!」

「おはよう東雲さん」

「いやー今年はお祭りが中止になっちゃってテンションダダ下がりだったよー」

「そ、そうなんだ……」


 その割にはものすごく高い気がするけど。


「心君は休み中どこか出かけた?」


「そこまで遠出はしてないかな。東雲さんは?」


「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた! 私はハワイに行ってきた!」


「ハワイか……いいね!」


「でしょでしょ? それでこれっ」


「……これってハワイのお土産?」


「うん。心君って中学校の時ずっと寝たきりだったんでしょ?」


「そうだけど……」


 そう言えば東雲さんには話したんだった。

 僕であって僕ではない過去のことを。


「だからこれ、ハワイのお土産上げる!」

「ありがとう。嬉しいよ」

「喜んでもらえてよかった」


 すごいな、新学期早々男子から凄い睨まれてる。

 うん。チョー怖い。


 そう言えば気にも留めていなかったが、僕は教室に入って五分足らずでクラスのアイドル三人と話したのか。


 普通一日一階話しかけられれば幸運とまで言われているのに……。


 男子たちは怖いのでそのままそっとしていて、小さい紙袋にはいっているお土産を取り出す。

 お土産の中身はなんとボールペンだった。

 ハワイにボールペンのお土産なんて売ってるんだ。


「ありがとう。大事に使わせてもらうね」

「うん。ありがと!」

「こちらこそありがとう」


 やっぱり東雲さんはいい人だなぁ……。

 クラスどころか学校全体に人気がある理由が分かった。

 まあその分僕が睨まれるんだけど。


「心君は宿題やってきた?」


「うん。もちろん」


「ちょっと数学の問題集だけ見せてくれない? 最後の証明だけやってないの」


「別に構わないよ」


 バッグから数学の問題集を渡して、そのまま席に戻っていった。


 僕も席に着いて机の整頓を始める。


 始めてからそこまで経たないくらいの時。


「心君って前からあんなに東雲さんと仲良かったかしら?」


「うん……まあ、東雲さんはああいう性格だからすぐに仲良くなったんだよ」


「確かに愛想あって可愛いですものね」


「雅ヶ丘さん……? 怒ってる?」


「怒ってる? なぜ私が怒ってると思ったのですか?」


 ギロリとした眼球が僕の方に向いた。


「怒ってるじゃん!」


「ふふふっ、冗談ですよ。あとこの問題集、軽く十五周はしました」


「そんなに……全教科?」


「当然です」


「じゃあ明後日の確認テストもばっちりだね!」


「はい。準備万端です」


 やっぱり雅ヶ丘さんはすごいな。

 まるで努力を具現化したかのような人だ。


 ガラガラガラッ

 朝のHRの時間になり、先生が教室に入ってきた。


「知ってると思うが、明後日は確認テストだ。くれぐれもテスト対策を怠らないように。それと、テストが終わればいよいよ本格的に学園祭の準備に入る。二学期は忙しいから気を引き締めて行け」


 まるで軍隊の指揮官のような迫力だ。

「それと心。ちょっと来い」

「……は、はい」


 何か僕悪いことしたかな?


 いやいや、心当たりがない。


 恐る恐る先生の後ろを付いていく。


「そんな怖がるな。別に怒るわけじゃない」


 先生は僕の様子に気付いていたのか。

 そのまま二階の今は使われていない旧数学研究室に案内された。


 こんなに人目のつかないところに連れてきて何をするつもりなんだろう。

 怒られるとは別に恐怖心を抱いてきた。


「いいから奥のソファーに座れ」


「は、はい」


「単刀直入に聞きたいのだが、真矢に何をした?」


「上野さんに……?」


「そうだ。休み中に一回学校で会ったんだが、以前とは比べ物にならないほど生き生きしていたんだ」


「それは僕が何かしたんじゃなくて単純に上野さんが変わっただけですよ」


「嘘を付くな。私がどれだけあの生徒を心配していたのか……実際今のところは安堵しか出ない。だが落ち着いたらしっかり話を聞かせてくれないか?」


「しっかり話を……ですか?」

「ああ。真矢にどんなことをしたのか、それと――お前は一体何者なのか」


 僕は分かった。上野さんに笑顔が戻ったことも気になるだろうが、先生の本題は後者だ。


 東澤先生は僕の正体を知りたがっている。

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