第38話 無自覚な少年

 男子三人衆の話をこっそり盗み聞きする。


「楓さんの乳もいいけど、あのもう一人の女も中々ヤバくなかったか?」

「そうそう。もう一人の女は全然だけどなー」

「まじで楽しみなんだけど」

「でもマジで楓さんの兄ちゃんが羨ましいわ」

「それな、あんな美女たちにくっつかれていい気になりやがって」


 段々とヘイトが僕に溜まってきた。

 いい気になってるつもりじゃないんだけどな……。

 でも少し注意した方がよさそうかな。

 流石にあの会話は度が過ぎていると思う。


「おい、さっさと行こうぜ!」

「やっほーうい!」


 そんなことを考えている内に三人は駆け足で更衣室を抜けて行った。

 ……変なことにならなければいいんだけど。


 僕もそのまま屋外プールへと足を運んだ。


 周りを見渡すが、楓たちの姿が見当たらない。

 どこへ行ったんだ?

 まだ着替えているのかな?


 入り口のところから辺りを見渡すが、三人の姿は見当たらない。

 きょろきょろと探していると。


「兄さん?」


 後ろから背中を指で突かれた。

 振り向くと、水着に着替えた三人が立っていた。


「楓たちは今着替え終わったところ?」

「そうだよ」

「それならよかった」


 それにしても、三人ともものすごく水着が似合っている。

 ビキニと言うのだったか。いつもとは違い露出が多めなので、僕も目のやり場に困る。


 するとそんな様子をいち早く察知した雅ヶ丘さんが近づいてきた。


「どうですか……? わたしの水着は」


「ちょ、ちょっと近いかな……!」


「いいではないですか。それで、感想は?」


「雅ヶ丘さんの魅力が存分に発揮されており、正直言って最高です」


「えへへっ、そうですかー」


 どうしてそんなに嬉しいか分からないけど、他の二人がこちらを睨んでいるのは分かる。


「みんなとても似合ってるなー。上野さんのシンプルなデザインの水着も、楓のふりふりが着いた水着もよく似ってる。僕は幸せだなー」


 これは流石に苦しいか?


「ジー……」

 なぜか上野さんがずっと見てくるのだが……。


「な、何かな……?」


「今、楓の胸見てなかった?」


「え、兄さんそうなの! 言ってくれれば水着じゃなくても見せる――」


「見てないからね⁉」


 照れながら楓はとんでもない発言をしようとしたので、頑張ってそれを阻止した。

 やっぱりこの三人の相手が一番疲れる……。


 それよりあの三人はまだ楓たちを探しているようだ。


「どうしたの兄さん、そんなに周りを見て」


「いや、楓の同級生たちがさっき更衣室で変なこと話していたから……」


「あーあの馬鹿三人衆ならプールの係員にどこか連れて行かれてたよ」


「……え? なんで」



「いろんな女性を変な目で見てたから通報でもされたんじゃない?」


「そうなんだ……」


 まさか楓たち以外にもそんな目を向けていたとは。

 まあ、それならしばらくは戻ってこないだろうし、人目も気にせず楽しめる。


「じゃあみんな、泳ごう!」


「兄さんが一番楽しそうね」


「こういう時は楽しまなきゃ損だろ、行くぞ楓」


「うん。一緒に泳ごう!」


「ちょっと待ちなさいよ!」

「置いて行かないでください!」


 僕たちは早速泳いだ。

 波があるプールや常温のプール、さらにはアスレチックがあるプールなど様々な場所で遊んだ。


「楓は中々運動神経がいいみたいですね」

「そう言う琴葉さんこそ」


 少し休憩をしていると雅ヶ丘さんと楓が普通のプールで競争をしている。

 相変わらず楓は元気だな。


 電車の時のあの姿が考えられない。


 それにしても雅ヶ丘さんって運動神経はいいんだ。

 別に水泳の習い事をしていたというわけじゃなさそうなのにすごい速い。

 まあ、それは楓も同じだけど。


 今はプールの周りを囲っている芝生で上野さんと二人で休憩をしながら楓たちの競争を見守っている。


「あの二人、よくあんなに速く泳げるわよね」


「うん、すごいね。上野さんは泳ぐの苦手なの?」


「泳ぐのというか、運動全般できないわ」


「……そうなんだ」


 上野さんでも得意不得意はあるのか……。


「北川君はさ、正直雅ヶ丘さんのことどう思ってるの?」


「雅ヶ丘さん? 好きだよ、友達として」


「じゃ、じゃあ一人の女性としては……?」


「違うと思う。その前に僕と彼女じゃ釣り合わないし」


「それ本気で言ってる?」


「え? まあ、うん」


「北川君はもう少しちゃんと自分を見た方がいいよ。自分のことを知らないと、周りの人が傷つくこともあるから」


「それってどういう――」


「知らない。さて、私も泳いでくるね」


 そう言って上野さんは楓たちの元に行った。


 僕は一人で彼女の言った言葉の意味を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る