第37話 優等生の妹

 かえでの同級生がとんでもない提案をした時、上野かみのさんが男子三人をギロリと睨んだ。


 相手は中学生だし、あまり言いすぎないように彼女に忠告しようとしたが、そんな暇は無かった。


 しかし、上野さんは目つきは怖くても優しい口調で三人に言った。


「ごめんなさい、私たちイケメンにしか興味ないの」


 上野さんは何を言ってるんだ。

 三人だけじゃなく、僕たちまで驚いてしまった。


「……お、俺たちだって学校の中じゃ中堅くらいの位置にいるぜ?」


 明らか三人も動揺している。


「そんなのお話にならないわよ。楓のお兄ちゃんが基準よ」


「……っぐ。そ、そんなの無理だろ!」


「そうだ、町中探しても楓のお兄さんよりイケメンな男はいないだろ!」

 上野さんを説得させる止めとははえ、そんなに褒められると照れる。


 決して本心ではないと思うが……。


「じゃあダメよ。顔を変えてから出直してきなさい」


 言い方は決してきつくないが、言っていることが酷い。

 というか僕を基準にイケメンと言うのだったら、彼らはすごくイケメンな部類に入るだろう。


「ま、まあ。そう言うことではないけど、一緒には遊べないかなぁ……」


 初めはどうするか迷っていたが、彼らの卑猥な言動を聞いてからその気は一気に失せた。

 そんな目で常時見られるなら上野さんたちも心から楽しめないだろうし。


「いいじゃないですかお兄さん」

「ごめんね、楓もこのお姉さんたちと遊ぶのを楽しみにしていたから」


「えー、俺たちも一緒に遊びたいなー」


 流石にしつこくなってきた。

 上野さんも完全に呆れてきている。


「ご、ごめんね。今日は兄さんたちと

遊びたいから……」


「そっか。楓様がそう言うのなら、僕たちは陰ながら見守ってるかー」

「そうだな、じゃあね楓さん!」

「楽しんでね!」


 楓がそう言うと、三人はあっさり一緒に遊ぶことを諦めた。


 やはり楓に従ってるみたいだ。

 もしかしてあの子たち、楓を狙っているのかな?

 もし楓があの三人の誰かと付き合ってら、なんか嫌だな。

 嫉妬ではないが、あの三人はダメな気がした。


「楓、どうして三人にはそんな弱腰だったんだ?」


「弱腰ってわけじゃないけど、言ったでしょ? 私は学校では優等生だって」


「優等生だとあんな態度になるのか?」


 それだったら上野さんや雅ヶ丘さんだってそうなるはず。


 ……って待てよ。

 そう言えば二人もみんなの前ではこんなに生き生きしていない。


 楓も同じタイプなのか。

 しかし、物静かな楓なんて想像できないな。


「私はみんなの前ではクールなキャラなの」

「……そ、そうなんだ」


 また面倒なキャラ作りをしたものだ。

 元気な楓の方が僕は好きなのに。


「楓、プールでもあの子たちが付きまとってきたら遠慮なく私たちを頼りなさい。今度は本気で怒ってあげるから」

「……真矢さん」

「せっかく頑張って宿題やったのに、あの男子たちのせいで水の泡なんて嫌だものね」


 いつも喧嘩しているくせにいざとなったら助けてあげる。

 なんだかんだ上野さんも楓のことが好きなのだ。

 おそらく……いや、確実に楓も上野さんのことが好き。


「僕からも礼を言うよ。ありがとう、上野さん」


「あ、あなたに礼を言われる筋合いはないわ。頑張ったのに無駄になるなんて嫌だものね」


「ありがとう真矢さん」


「私にも相談してくれても構わないですよ?」


「琴葉さんもありがとう」


 楓もそして僕も、いい友達を持った。

 初めは二人とも怖かったけど、打ち解けたら案外怖くなかったし。

 いや、たまに怖い時あるけど。


「楓、兄さんが何があっても守るから」


「兄さんもありがとう」


『間もなく、菰原こもはら、菰原ー』


 もうそろそろ着くみたいだ。


「楓も二人も気を取り直して楽しも

う」


「そうね」

「ええ、楽しみましょう」

「うん。兄さんも楽しもうね」

「うん。もちろんだよ」


 駅から少し歩くこと数分でプールに着いた。


 かなり大規模なプールだと聞いてい

たけど、本当に大きい。


「じゃあ兄さん、私たち着替えてくるから入り口で集合ね」


「うん。慌てなくていいからね」


「わかった! 楽しみにしておいてね」


「はいはい。二人とも楓をよろしく」


 二人に楓を預けて、僕は一人で男子更衣室に入っていく。


 ロッカーには鍵が付いており、鍵がない場所は誰かが使用中ということ。


 かなり鍵がないロッカーが多い。

 男性がこれだけ多いなら女性もかな

りの人数がいそうだな。


 奥の方はあまり使われていなく、結構開いていた。


 一つのロッカーに脱いだ服を入れ、水着に着替え終わると、入り口からあの三人の声が聞こえてきた。


「楓さん、どんな水着きてくるかなー」


「楓様の水着になりたいなー!」


「それもいいけど、あの二人のお姉さんもヤバくないか?」


「それな。可愛すぎるよな」


 相変わらず三人の思考はそれしかないみたいだ。


 僕はバレないようにこっそり聞いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る