心優しい異世界の少年、死んで日本人に転生する。～常識を知らない無自覚の少年、普通に高校生活を送っていただけなのに、いつの間にか周りの女子を虜にしていました～

第34話 おっぱいの揉み心地を聞かれても……

「もしかして心君はラッキースケベ体質何ですか？」

「何それ……全然嬉しくない」

「でも確かにそうかもね……。女子に何度も抱きつかれて、挙句の果てには胸を揉むなんて」

「ちょっと上野さんまで！」

　二人の胸を揉んだことは事故だと本人たちが分かっているので問題にはならなかった。

　逆に瞬時に二人を庇ったから褒められてしまった。

　カブトムシが入って来なければ何事もなく、今頃家で楓にシャキシャキ君を与えていただろう。

「そ、それで、北川君はどっちがよかった？」

　上野（かみの）さんが妙に顔を赤くし、目を逸らしながら聞いてくる。

　主語が抜けているので、よく理解できない。

「何がよかったって……？」

「おっぱいよおっぱい！　やっぱり大きい方がよかったんだ！」

「いきなり何！」

「事故でも同級生の胸を揉みしだいたのよ！　感想くらい聞かせなさいよ！」

「……ごめんなさい心君。今回は上野さんに一理あると思うの」

「雅ヶ丘（みやびがおか）さんまで……」

　まさか感想を言わされる羽目になるとは。

　女子は普通こういうのって思い出したくないんじゃないの？

「ええっと……二人ともよかったです」

「どの辺が？」

「か、上野さんはとてもコンパクトで可愛かったし、雅ヶ丘さんは……なんか大きかったのですごかったです」

　もう僕は何を言ってるんだ。自分の体が自分じゃない感覚になってきた。

「コンパクト……」

「なんか大きい……」

　あれ、なんだろう。二人が一言何かを呟いて黙ってしまった。

　でも雰囲気がいつもと違う。

　もしかして怒ってるのかな……。

「心君？」

「は、はい」

「デリカシーって言葉を覚えましょうね？　今の回答は他の女子に言ったら確実に嫌われますよ」

「な、なんで！」

「はぁ……逆になんで分からないのよ。北川君は今、女子の魅力を否定したのよ」

「僕が……？　でも本当に上野さんのおっぱいはあれはあれで最高だったし、雅ヶ丘さんのおっぱいは弾力があってすごかったよ？」

　……待てよ。僕今とんでもない発言をしなかった？

　恐る恐る顔を上げると。

「……心君が好きならいいです」

「私は納得してないからね。でも今回は許してあげる」

　なんで二人とも少し嬉しそうなんだろう。

　でも今日は二人にかなり失礼なこと連続で言ってしまった気がする。

　どうにかして二人に償えないだろうか……。

「じゃあ私は今日は帰るから」

「どうしたのそんなに慌てて」

「今日は家に誰もいないから夕食を作らないといけないの」

「家に上野さん一人……？」

「そ、そうだけど何？　……ッ！　ダメよ！　泊まらせないからね！」

「上野さんは僕を何だと思ってるの⁉」

　そう言えば今日の北川家の夕食は楓の希望で素麺。

　昨日、スーパーの特売でかなり多くの材料をこしらえてしまったんだ。

「あっ、なら二人とも僕の家に来ない？」

「心君の家に……！」

　なぜか目を輝かせている雅ヶ丘さんは置いといて。

「上野さんも来ない？」

「一体何をするつもり？」

　自分の両手で胸元を隠しながら警戒した様子で行ってくる。

　僕って普段あんなに警戒されてるの？

「身構えることないですよ上野さん。心君の家には妹さんもいらっしゃるので」

「……そう言えば妹がいるって言ってたわね」

「うん。かなり怠け者だけどね」

「そ、そっか。妹がいるなら流石に襲ってこないわよね」

「……う、うん。もうそれでいいよ」

「私はお母さんに連絡してきますね？」

「うん。わかった」

　雅ヶ丘さんはそう言いながら、携帯を持って教室から出ていった。

「……逆に聞くけど、本当に私が来てもいいの？」

「何その質問。僕から誘ったんだよ？」

「でも私、空気読めないし面白くないし……」

　急に自信なくなってしまったな。

　雅ヶ丘さんもそうだけど、上野さんはそれ以上に自己肯定感が低い。

　言い方を変えれば謙遜心ってなるかもしれないけど、僕の前では自信を持ってほしい。

　それを言えば僕なんて、何も取り柄がない異世界から来た少年ってだけだし。

「上野さんは空気読めないなんてことないし、すごく面白いと思う。上野さんのはっきり言うところ、僕は好きだよ」

「……やっぱり北川君は変わってるね」

「その感覚が変わってると言うなら、僕はずっと変わったままでいいよ」

「……やっぱり勝てないなぁ、北川君には」

　上野さんはそう言って頬を赤く染めながら笑った。

　初めて見たかもしれない、彼女の笑顔は。

「じゃあ来てくれる？」

「もちろん」

「お母さんに了承を得て来ました」

　ちょうど雅ヶ丘さんも電話から帰ってきた。

「意外と早かったね」

「はい。心君の家に、と言った時点で『いいわよ』って言われました」

「早っ！」

「ふふふっ、二人の会話っていつもそんな感じなの？」

「ま、まあね。じゃあ行こっか」

「はい！」

「ええ。楽しみだわ」

　僕は気付かないうちに、上野さんと打ち解けることができていた。

　でも気付かなくてよかったのかもしれない。

　その方がお互い気にせず話せるから。

　三人で楽しく話をしながら、夕暮れに照らされた道を歩いた。