第29話 雅ヶ丘さんの家へGO!


 今日は一学期最後の登校日。


 明日からは学生が大好きな夏休み。

 今日は終業式や大掃除などがあり、普通の授業は無い。

 眠くなる終業式や、普段よりも長い掃除を終えて、帰りの支度をしていると――。


「あのー心君?」

「ちょっと今日家まで来てくれないかしら?」


 あと一時間で学校が終わるという時間で、雅ヶ丘さんの急な家のお誘い。

 まるで今思いついたかのような。


「別にいいけど……どうして?」


 すると彼女は自分のロッカーを指さした。

「……ああ、なるほどね」


 彼女のロッカーを見て察した。

 ロッカーの中には教科書はもちろん、彼女が勉強を頑張っている証である問題集などが詰め込まれていた。

 確かに彼女は勉強熱心だが、ポンコツの素質を持っており今日が終業式だということに気付かず、持って帰っていなかったのだ。

 家には勉強道具が一式揃っているようで普段学校の教材は持ち帰らないらしい。


「いいよ、僕が荷物は持つから」


「それは流石にダメですよ。大半は私が持つので、無理な分をお願いします」


「いやいや、せめて半分は持たせてよ。これくらいなら余裕だって」


「……で、でも心君にも自分の荷物が」


「あのね、雅ヶ丘さん」


「は、はい」


 僕は彼女に笑顔でこう言った。


「みんな昨日のうちに持ち帰っているんだよ?」

「じゃ、じゃあ私だけですか⁉」


「うん、その通り。昨日伝えておけばよかったね」

「いえ、元はと言えば私が勘違いしていたせいですから」


 僕は今日念のためにトートバッグを家から持参していた。

 できるだけバッグに教科書やら問題集やらを詰めた。


「ふぅ……大半はバッグの中に入ったね」

「す、すごい。なんて綺麗な収納」


 なんか変な所に驚いているが、別にそんなことは今どうでもいい。


「雅ヶ丘さん、残った教科書とかは鞄に入りそう?」


「はい。余裕で入りました!」


「よし、じゃあ行こうか」


「や、やっぱり大丈夫です。流石に荷物持ちはさせられません……」


「そう? じゃあこのトートバッグは貸すよ」


「あ、ありがとうございます――ッ⁉」


 雅ヶ丘さんにトートバッグを手渡した瞬間、あまりの重さにバッグは床に落ちた。


「……なんて重さ」


「そりゃああれだけ教科書とか詰め込めばそうなるって」


「心君って力持ちなんですね」


「そこまでじゃないよ」


「いいえ、そのトートバッグを軽々と持てる時点で力持ちですよ」


「そ、そう。ありがとね」


「もう一度聞きますけど、本当に良いんですか? 意外と歩きますよ?」


「全然大丈夫だって。それにそんな長い道なら尚更、雅ヶ丘さんに持たせるわけにはいかないよ」


「本当に心君は優しいですのね。じゃあ私は早く帰宅の準備をしないと……」


「じゃあ、僕は先に昇降口で待ってるから」


「はい。私もすぐに行きますね」


 先に教室を出て、下駄箱に向かう。

 大半の生徒は速やかにこの学校から出て行った。

 この残った半日は友達や恋人と過ごすのだろう。


 下駄箱から靴を取り出そうとロッカーを開けると、一枚の紙きれが出てきた。


「……何だこれ」


 紙には十数桁のアルファベットと数字が書かれていた。


 これはメールアドレス? 下に上野真矢かみのまやと記されてある。

 上野さんのメールアドレスか。


 口で伝えてくれればよかったのに。

 周りの目が気になるのか。

 雅ヶ丘さんを待つついでに、携帯で上野さんのメールアドレスを打ち込み、友だちの申請をする。


 すると数秒後に。

 ピコンッ

 可愛らしい音で携帯が鳴った。 


「はや! もう友だち申請了承してくれた!」


 上野さんとのトークルームを開く。


『上野さん、よろしく!』

『よろしく』


 相変わらず、メッセージ上でも淡泊だなあ。


『もし聞きたいことがあったら聞いてもいい?』


 彼女からそんなメッセージが届いた。


『もちろん!』


 その後にグッドのスタンプを送った。

 普通に考えて聞きたいこととは、勉強の事だろう。

 それしか彼女は興味ないもんな。

 それは本当にすごいと尊敬する。


 ピコンッ

 またメッセージが来た。

 今度は楓からだった。

 一体何だろう。楓のメッセージは大体物を要求される。


『帰りアイス買ってきて』


 ほらやっぱり。まあ、今の時期暑いもんね。


『なんのアイスがいいの?』

『シャキシャキ君』

『了解。帰りに買ってくるね』

『ありがと』


 あの騒がしい楓もメッセージになると意外と淡泊になるんだよぁ。

 不思議だ。

 最後にメッセージを送信する。

 それと同時に準備を済ませた雅ヶ丘さんが下駄箱に来た。


「ごめんなさい、待たせてしまって」


「全然大丈夫、じゃあ行こうか」


「はい。本当に荷物ありがとうございます」


「うん。気にしないで」


 冊子がふんだんに詰め込まれたトートバッグを肩に背負い、雅ヶ丘さんのお家に向かった。

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