第28話 友達になってあげる!


 後日、学校にて。


「おはよう、上野(かみの)さん」

「……おはよう」


 彼女が学校でも返事を返してくれた。


「どうしてそんなに嬉しそうなのよ」

「だって上野さんが挨拶してくれたから」


 そう言うと彼女は頬を赤く染め、そっぽを向いた。


「……馬鹿じゃないの」


 今日の一限目の授業は科学で、グループワークの授業。

 三人一組の班になって実験の結果を報告し合うという内容だった。

 僕は雅ヶ丘さんに誘われ、あと一人誰かを誘うことになった。


 上野さんはいつも一人で、最後に先生が適当に上野さんをどこかの班に突っ込んでいる。

 だから僕たちは上野さんに声をかけた。


「上野さん、一緒にやらない?」


「……う、うん」


「心君と上野さんがいてくれるのならこのグループは安泰ですね!」


「言っておくけど雅ヶ丘さんも発表するんだよ」


「え⁉ 私もですか?」


「当たり前!」

 

 僕がいつもみたいに雅ヶ丘さんにツッコミを入れると、それを見た上野さんはクスリと笑った。

 僕も雅ヶ丘さんもそれが嬉しかった。

 意外とそのおかげで上野さんも僕たちの前では喋ってくれるようになった。


「心君、海洋汚染の問題点ってなんだと思います?」


 グループワーク中、班に一つ決まったお題が出されそれを答える時間になった。


「僕は――」


「なるほど……上野さんはどう思います?」


「私はプラスチックごみが――」


「そう言うことでしたか……」


「すごいね上野さん、僕はそれ思いつかなかったよ」


「ど、どうも」


 結果、僕たちのグループは上野さんが出した答えを書いて、一番優秀な班として先生に褒められた。

 科学の授業が終わり、十五分の休憩時間中。

 僕が真(まこと)と話している時だった。


「ねえ、北川君」

「……どうしたの、上野さん」

「……放課後話したいことがあるんだけど」

「いいよ。どこにいればいい?」

「三階の選択教室……」

「了解。ありがとね」

「うん」


 僕に伝えると、軽い足取りで教室へと戻って行った。

 やっぱり素の顔は雅ヶ丘さんくらい可愛いと思うんだけどな……。


「なあ心。お前上野さんにまで手を出したのかよ」


「その言い方はやめてくれないかな?」


「あの言い方から察するにこれは告白だなぁ……恋愛経験豊富な俺が言うんだ、間違いない!」


「真ってモテるの?」


「なんだ、それは嫌味か! 自分が持てるからって調子に乗るなよ⁉」


「違うから。そしてなんで身構えるんだよ」


「いやさーお前優しい性格してるけど滅茶苦茶喧嘩強いじゃん? あの柔道全国まで行った金剛を倒すなんて頭おかしいって」


「あれは……ま、まぐれだよ」


「嘘つけ!」


 そこまで怖がらなくても、僕は暴力が嫌いだから心配する必要ないのに。


「……まあ冗談は置いといて、お前流石にやばいんじゃね?」

「僕がヤバい?」

「だってこの学校に来て間もないのに、もうあんなにモテていたらきっとこの先不幸が訪れるぞ?」

「だから僕はモテてないって」

「もうそれは聞き飽きたよ。まあ、放課後は頑張れよー」


 などと言いながら教室に戻って行った。


 真は本当に何がしたいんだ。

 ちょうど授業の時間にもなり、そのままいつも通り授業を受け、放課後になった。

 六限目が終わり、帰る準備をする。

 しかし今日は上野さんに選択教室に呼ばれているので帰れない。

 

 なぜ故に選択教室なのだろう。

 教室だと目立つからかな? 目立つのが嫌いな上野さんなら十分に考えられる。

 バッグを背負って三階に上る階段を上がるが、やけに男子生徒たちが騒がしい。

 何か特別なイベントでもあるのか?

 三階に上ると、選択教室の周りを幾人もの生徒が囲っていた。


 これってもしかしてみんなが話を聞きつけてきたのか?

 こんなバカ騒ぎする男衆の中に彼女が来たらきっと過去のトラウマを蘇らせるだけだ。

 急いで階段を駆け下り、ちょうど教室から出てきた上野さんを発見した。


「上野さん!」

「え⁉ な、何⁉」

「いいから、こっち来て!」

「え、ちょっと待って――」

「話は後で説明するから信じて!」


 彼女の手を掴み、校舎裏まで走った。


「はぁ、はぁ……い、一体何?」

「ごめん、実は――」


 上野さんに事情を説明した。


「だから上野さんがあの現場にいたら怖がるんじゃないかと思って……」


「だからここに連れてきたの?」


「うん。悲しむ顔は見たくなかったから」


「そう。ありがとう」


「それで、昨日の返事を聞かせてくれるんでしょ?」


「うん。私、まだ人が怖い。だけど北川君なら信じられる気がするの……」


「じゃあそれって……」

「私と友達になって……」


 最後の部分まで来たのに、そこで途切れてしまった。


「なって……何?」

「なって……あげるわ! 友達になってあげる!」


 彼女の今の言葉が、今の彼女の取って精一杯だったのだろう。


「はははっ」

「何がおかしいの?」

「いいや別に、じゃあこれからもよろしくね、上野さん」

「……よろしく」


 友達になる。人によってはすごく簡単と思えるかもしれない。


 だが彼女が友達を作るということは、本当に滅多にない。

 だからそれが嬉しかった。


 嬉しかったのに……まさか上野さんまで楓や雅ヶ丘さんのように様子がおかしくなるなんて、これはもしかして僕が原因なのか⁉ 

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