第25話 クラスのアイドルを取るなと怒られました。


 ガラガラガラッ

 教室の扉を開けると、男子が一斉にこちらを向いた。


 何だろう。歓迎されてないというのだけはわかる。


「おい心、ちょっと来い」


 男子の軍勢に呼び出され、そのまま指示通りについていった。


「くししっ、心も災難だな」

「笑ってないでどういうことか説明してよ」

「嫌だね、あー腹いてぇ」


 まことはお腹を抑えながらずっと笑っている。

 三階の一番奥の廊下まで連れて行かれ。


「おい心、お前まさか東雲しののめさんまで奪うつもりなのか?」


「……ご、ごめん。言っている意味が分からないんだけど」


「とぼけるなぁぁぁ! お前俺たちの雅ヶ丘さんまで奪って、挙句の果てには東雲さんまで!」


「だからちょっと待ってよ! 僕は東雲さんどころか雅ヶ丘さんを奪ったつもりないよ!」


「嘘を付くんじゃねえ! じゃあなんで今朝あんなに楽しそうに話してたんだよ⁉」


「そ、それは……普通だよ。朝は大体時間が合うから一緒に――」


「それは普通って言わねえんだよ。東雲さんと登校したいがためにみんなあの時間に登校してるんだ」


 ちょっと待った。やけにあの時間帯だけ人が多いと思っていたけどまさかそんな理由があるなんて……。

 僕ってもしかして誤解を受けやすい性格なのかもしれない。

 僕が雅ヶ丘さんを奪えるわけないだろう。

 それに奪ったとはどういうことなのか知りたいが、この際それはどうでもいいことだ。


「お前ぇぇぇもし東雲さんを奪ったらただじゃ済まないからな! 言っておくが雅ヶ丘さんや東雲さんを狙ってる男は先輩にもたくさんいるんだぞ! 覚えておけ!」


 そう言って男子たちは教室に戻って行った。


「あははっ! 心最高!」


「最高じゃないよ。もう……本当に朝から災難だ」


「……ん? 他に今朝なんかあったのか?」


「うん。ちょっと妹とね」


「そうか喧嘩か。心も妹と喧嘩するんだな」


「……ま、まあね」


 やっぱり真もそう思うよね。

 まさか早朝から妹に迫られるなんて思う人いるわけがないか。


「それよりさ、実際のところどうなんだよ」


「どういうこと?」


「雅ヶ丘さんとだよ。付き合ってないのか?」


「だから何回も言うけど僕は雅ヶ丘さんと付き合ってないよ」


「何回って、俺はまだ一回目だぞ?」


「――あ」


「他の奴にも聞かれたんだな」


「まあ、そうだけど」


「モテモテはいいねー、心に関して言えば完璧超人だもんな」


「冷やかしはよしてよ。それより僕、ちょっと用事あるから行くね」


「おう。またな」


 想定外の展開に時間を取られてしまった。

 急いで教室へ戻り、一番前の席に座って勉強をしている上野さんに挨拶する。


「おはよう、上野さん」

「…………………」


 うん。無視。

 まあ、昨日の今日じゃしょうがないよね。


「じゃあ僕は行くね」

「……………………」


 僕には気にも留めず勉強に集中しているようだった。

 まるで人形に話しかけた気分だった。


「おはようございます、朝から大変でしたね」


「おはよう雅ヶ丘さん。本当に朝から大変だったよ」


「……もしかして楓に何かされたんですか?」


「はははっ、流石雅ヶ丘さん。よく分かってるね」


「はい。大体予想はつきます。それより、今週の日曜日、約束は覚えていますか?」


「もちろん。楓も楽しみにしてたよ」


「ふふっ、それはよかったです」


 なんだかんだ言ってやっぱり二人は仲良しなんだなぁ。

 メールも交換していたし。

 雅ヶ丘さんが楓と仲良くしてくれること自体は何も問題ないんだよね……というかそれは嬉しいんだけれども。


 もしあの二人が手を組んで僕を襲ってきたら……なんて考えてしまう。

 現に昨日そんな感じだったし。

 まだ雅ヶ丘さんには理性という感情がしっかり働いていたのでよかったが、楓は歯止めが利かないタイプなので、一度調子に乗らせてしまうと止めることが困難になる。


 ……今週の日曜日か。楽しみではあるけど、二人が心配になってきた。


 それから時間はどんどん進んで行った。

 毎日毎日上野さんに挨拶をし、無視をされる日々を送り迎えた日曜日。


 竜神公園という地元の公園で待ち合わせになっており、楓と二人で竜神公園に向かった。

 それにしても竜神公園か。かなり厳(いか)つい名前だ。

 日曜日ということもあり、公園にはたくさんの人がいた。


「ねえ兄さん、兄さんとこういう風に出かけるのって久しぶりだね。確か最後に行ったのが、私がまだ小学生くらいの時だったと思う」


「……そうだね」


 その兄さんは今ここにいる僕ではない。

 僕はそのころ毎日訓練をしていた。


「また兄さんと出かけられて嬉しい、元気になって良かった!」


「楓……僕も嬉しいよ、今日は楽しもうね」


「うん! あ、琴葉さんが来た!」


「お、おはようございます。お待たせいたしました」


「大丈夫、待ってないよ」


 楓は半ズボンのジーンズに無地のTシャツ。雅ヶ丘さんは透明感のある青色のワンピース。

 二人ともよく似合っている。

 そのせいで先ほどから道行く人が何回もこちらを振り向いている。

 それは男性はもちろん、女性もだ。


「楓たちは今日どこに行きたいの?」


「お買い物!」


「私もショッピングでいいですよ」


「じゃああそこのショッピングモールに行こうか」


「わかった!」


 ということで今日はショッピングモールに行くことになった。

 つい先週三人とも来たはずだが、やはりこういう公共施設は何度来ても楽しめそうだ。


 今回は楓もいるし、日中は暑いので電車で向かうこととなった。

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