第20話 テスト当日



 今日はテスト前日の日曜日。

 十時ごろに雅ヶ丘さんは僕の家に来た。

 前日なのだからあまり悠長なことはしてられない。


「今日はもう今まで勉強してきたことの復習だよ」


「わかったわ。心君に言われた通り、問題集の間違えたところやわからないところもチェックしてきました」


 僕も二週間の間雅ヶ丘さんはに付きっ切りで教えていたので、全教科彼女が苦手とする部分は大体把握できた。


 昨日は僕が自作で作った雅ヶ丘さん専用の問題集を渡して、やってもらった。

 問題集と言っても、ドリルや過去問から抜粋しただけでそこまでページ数はない。

 遅くても一教科二時間以内に終わる。


 正答率は数学以外三十パーセントか……。

 まあ、彼女の苦手な所をかき集めた問題集なので妥当だろう。

 数学は五十パーセントできていた。


 おそらく数学の赤点は今の時点で回避できるだろう。


「よし、じゃあ今日はこの問題集の復習を一通りしまくるよ?」


「はい、覚悟はできています」


 こうして僕のテスト前日は過ぎていった。

 あらかじめ勉強をしておいて本当に良かった。

 そして迎えた当日。


 雅ヶ丘さんだけ他のクラスメイトと明らかに空気が重い。

 まるで一人だけ受験生みたいだ。

 まあ、受験生を生で見たことはないけど。


「そんな緊張しないで、雅ヶ丘さんは確実に成長しているから」


 優しくポンッと背中を押す。

 緊張しすぎると返って逆効果だし。


「楓も雅ヶ丘さんと遊ぶの楽しみにしてるから。もちろん僕も。だから頑張ろう」


「……心君。はい、頑張りましょう」


 こうして、二週間に渡る勉強の成果をぶつける時が来た。


「それでは――始め!」


 東澤先生がテスト開始時間になったことを確認し、大きな声で言い放った。


 ――頑張れ雅ヶ丘さん。

 って僕も人の心配しないでテストに集中しなくては。


 初めに化学、続いて現代社会、英語、国語と来て最後に数学となっている。

 化学は主に気象関係と細胞。僕が自作の問題集と酷似した問題がかなり出題されていた。

 これなら赤点は確実に回避できるだろう。

 僕も一応自作の問題集をやっていたので悠々と問題を解くことができた。


 そんな時間がどんどんと過ぎて行き、後半の国語が終了した。

 数学のテストが始めるまでに十五分の休憩があったので、机に突っ伏している雅ヶ丘さんに声をかけた。


「雅ヶ丘さん、テストはどうだった?」


「かなり手ごたえありです。でも四教科のテストを集中してやっていたので疲れました」


「そっか。あとは数学だけだから頑張ろう」


「はい。心君のおかげでいつもの絶望感が無くて、この時間はちゃんと休憩に当てられるので本当に助かってます」


「……う、うん。そっか」


 雅ヶ丘さんって中学校のテストもそんな感じだったのかな?

 何故かもっとはやく彼女と出会っていたかったと思ってしまった。


 そして迎えた最後のテスト。十五分の休憩で大分集中力は回復できたようで、隣からカリカリとお揃いのシャープペンシルの音が聞こえてくる。


 数学は僕も一番得意なので難なく全問解くことができた。

 二十分も時間が余ってしまった。

 隣からはまだカリカリと聞こえてくる。

 僕ももう一度見直ししてみようかな。


 一度置いたペンを再度持ち、見直しをした。

 結局、記入漏れや誤字もなく僕のテストは無事に終了を告げた。


 キーンコーンカーンコーン


 テスト終了の鐘が教室中に響き渡り、雅ヶ丘さんは鳴る寸前までテストを解いていた。

 これでようやくテスト終了。


 二週間という意外と長かったあの勉強漬けの日々も一旦ひと段落。

 学生の定期テストというのは大体初日に結果がすべて返ってくる。


 それまでは油断できないので、意外と彼女はテストが終わってもピリピリしていた。

 そんな緊張しなくても、雅ヶ丘さんは大丈夫だと思うんだけどな……。

 そしてテスト返し当日。


 一限目は数学のテスト返し。

 雅ヶ丘さんは名簿的に意外と後ろなので、その間ずっとビクビクしていた。


「次、北川心」


「はい」


 名前を呼ばれ取りに行くと――


「流石だなー、今回のテストは難問を数問出題していたのに満点とは」


 何だろう。東澤先生のその悔しさと嬉しさが混ざった表情は。


「ありがとうございます」


 そのまま席に着くと。


「ふふっ、やっぱり心君にはかないません」


 なんで少し嬉しそうなんだ。

 でも今ので少し硬い表情が和らいだ気がした。


「次、雅ヶ丘琴葉」


 とうとう雅ヶ丘さんの番だ。

 彼女は凛とした趣でテストを取りに行った。

 しかしまだ点数を見ていない様子だ。

 席について、僕と彼女の間にテストを出す。


「行きますよ……えいっ!」


 彼女はテストを思いきり広げた。

 今回の数学の平均点は49点。

 そして雅ヶ丘さんの点数は、右上にでかでかと50点と書かれていた。 


 ……驚いた。まさか平均点も越えてくるなんて。


「やったね! 雅ヶ丘――」

「心君ッ! ありがとうございます、やりました!」

「ええ⁉ ちょっと雅ヶ丘さん――⁉」


 彼女は周りの目なんて気にしていないのか、僕に飛びついた。


「心君、私頑張りました」


「う、うん。よく頑張ったと思うよ?」


「じゃあ撫でてくれますか?」


「い、今⁉」


「はい。そうしないとこの気持ちの高揚は抑えられません」


「……で、でも」


 何ということだ。怖い。男子の目どころかクラス中の視線が怖すぎる。


「くししししっ!」

 ……まこと、笑ってないで助けてくれよ。


「わかったよ。よく頑張りました」


 そう言って頭を撫でると、彼女はより一層満面の笑みになった。

 僕もその笑顔を見ていると、なんだか周りのことなどどうでもよくなっていた。


「おい、二人。何授業中にいちゃついてんだ? 当てつけか? 独身の私への当てつけなのか?」


 先生が鬼の形相で教壇から睨んでいた。


「あ、いえ……その」


 ヤバい。言い逃れができない。

 あまりにも雅ヶ丘さんの笑顔が眩しかったとはいえ、完全に不注意だった。

 だが先生も、今回は大目に見てくれたよう。

 東澤先生も雅ヶ丘さんのテストの結果が嬉しいのだろう。


「……はあ、もういい。おい雅ヶ丘、いい加減心から離れろ」

「――はっ! す、すいません」


 彼女も先生の言葉でようやく我に返ったようで、顔を赤く染めて俯いていた。


「だが許したわけじゃない。あとで二人職員室へ来い」


「「……はい」」


 こうして僕たちは昼休みに職員室に行くことになった。

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