第15話 味噌ラーメンと醤油ラーメン
意外とあの表情を直すのに時間がかかってしまった。
急いでトイレから出ると、一つのテーブルに彼女が座っていた。
かなり待たせてしまったかもしれない。
「ごめん、遅くなって」
「いいえ、全然遅くないですよ」
「それならよかった。それで、何のラーメン食べる?」
「そうですね……じゃあ私は定番の醤油で」
「じゃあ僕は味噌にするね」
僕は席を立ち、注文をしに行った。
料理が完成すると呼び出し音が鳴る電子の番号札を二つ受け取って、席に戻った。
「やっぱり夕方はどんどん人が増えてくるね」
「はい。そう言えば先ほど二人の中学生が来たんですけど、自分のお兄さんのことをすごく自慢気に友達に語っていたんですよ」
「はははっ、きっと仲がいいんだね。その兄妹は」
「北川君の家は兄妹の仲はいい方ですか?」
「基準がよく分からないけど、普通じゃないかな。ダメなときは注意するし、困ったときは助けてあげるし」
「それでも十分いい兄妹ですよ」
「そうかな。楓もそう思ってくれてたらいいんだけど」
「きっと思ってますよ」
ピピッ ピピッ
「あ、ラーメンで来たみたいだね。ちょっと待ってて、持ってくるから」
「私も行きますよ。一人じゃ運べないでしょうし」
「ごめん、助かるよ」
二人で同じ場所からラーメンを受け取り、席に戻った。
その間もかなり客の視線が僕たちに集まっていた。
主に雅ヶ丘さん。
僕は大体睨まれている。
やっぱり雅ヶ丘さんは凄いな。ラーメンを運んでいる様だけでもあんなに人を注目の的になってしまうのだから。
もし彼女にこの先好きな人ができたら、好かれた男性はきっと幸せだろうな。
そのまま席に着いて、ラーメンを食べた。
僕は味噌で彼女が醤油。
「「いただきます」」
二人で挨拶をして、ラーメンを啜る。
「美味しい。美味しいですよ北川君」
一口ラーメンを食べ、しばらく咀嚼を続けた彼女は、元から大きい目をもっと大きくして驚いていた。
お嬢様っぽいのにラーメンでこんなに驚くなんて。
まあ、僕もこの世界の料理にはびっくりしているが。
前世の世界の食べ物にこんなに美味しい物はなかった。
もしあの世界の人たちがラーメンを食べたら、一つの例も漏れないで全員大号泣だろう。
まずあの世界は食にありつけること自体贅沢だったから。
「北川君。味噌ラーメンは美味しいですか?」
「うん、とっても。少し食べてみる?」
「い、いいんですか⁉」
「もちろん。昨日お弁当も貰っちゃったし」
「そう言うことなら……いただきます」
「どうぞどうぞ」
僕もこの味噌ラーメンの味を知ってもらいたい。
僕が家で作った味噌ラーメンとは大違いだ。
いや、あれを味噌ラーメンって呼んでいいのかも怪しい。
自分の味噌ラーメンを彼女に近づける。
「……お、美味しい! さっぱりしてますね!」
「そう? よかった! 美味しいよね味噌ラーメン」
「はい!」
喜んでもらえたようで何よりだ。
「あ、あの……」
「はい」
「醤油も食べてみてください。美味しいので」
「え? いいの?」
「はい。是非」
「そ、それじゃあ一口」
彼女の醤油ラーメンを一口食べてみる。
味噌とはまた違う美味しさだ。
醤油ラーメンも抜群に美味しかった。
「ありがとう、雅ヶ丘さん。僕って雅ヶ丘さんに貰ってばっかりだね」
「そんなことないですよ! 私だって色々貰いましたし……」
「僕、何かあげたっけ?」
「ええと……その、ぬ、ぬいぐるみとか!」
「あーぬいぐるみか。気に入ってくれたようでよかったよ」
「とても気に入りました。部屋に飾っておきます」
そんな喜んでくれていたとは。
ぬいぐるみが好きなのかな?
メルヘンチックな性格も可愛い。楓の部屋なんて漫画やゲームしかないからな、少しは雅ヶ丘さんを見習ってほしい。
今度雅ヶ丘さんに楓の生活を叩き直してもらおうかな。
そんなことまで考えてしまっていた。
「それで、この後はどこに行きたい?」
「最後に……雑貨屋さんに行きたいです」
「雑貨屋か……うん。行こう!」
僕たちは下のフロアにある雑貨屋さんに行き、二人でお揃いの文房具を購入した。
「今日は本当に楽しかったです。まだ編入して間もないのに無理言って申し訳ございません
でした」
「いやいや、そんな謝らないでよ。僕も楽しかったし、テストが終わったらまた来ようね?」
「はい! 是非! では私はこれで」
「もう暗いけど大丈夫? 送って行こうか?」
「流石にそこまでは大丈夫ですよ。ではまた明日学校で」
「そっか。おやすみなさい」
そう言って僕たちは別れた。
雅ヶ丘さんも楽しんでくれたようでよかった。
今日は楓に醤油ラーメンでも作ってあげよう。
帰りにスーパーマーケットによって醤油ラーメンの材料を買った。
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