第13話 彼女の耳は、よく赤くなる
家族、カップル、友達。
様々な人たちがこのショッピングモールの中にいる。
しかし、幸いなことにまだ僕たちと同じ制服を着た人には会っていない。
いや、会っていたらヤバいのだが……。
それにしても雅ヶ丘さんはどうして平気な顔をしていられるんだろう。
まだ学校に来て二日しか経っていない男と腕を組んで歩いているところを見られたら、彼女にまで何らかの被害は及びそうなのに……。
まず彼女が行きたいと言った場所は、意外にも書店だった。
参考書を買いたいとかなんとか。
そのまま腕を組みながら書店に入る。
思ったより書店の中は混んでいなく、本を立ち読みしている人がちらほらいるくらいだ。
「ここの書店、たくさんの参考書があるのね」
「本当にたくさんあるね……あ、これ僕が数学の勉強の時に使っていた参考書だ」
シュバッ
という効果音が出るほど、その参考書は消えた。
……雅ヶ丘さんが凄まじい速度で本を取ったのだ。
何今の速さ。
彼女は熱心になってその参考書に目を通しているが、その目は次第に渦を巻いていく。
その参考書、かなりハイレベルだった気が……。
「この本何を言っているか全く理解できないのですが……」
「も、もう少し数学ができるようになってからの方がいいですよ」
もしかして地雷を踏んでしまったのかもしれない。
急いで現段階の彼女に合った参考書を探さなくては――。
それからかなり探したが、結局気付いたのは、僕が教えた方がいいということ。
つまり彼女に合う参考書が無かったのだ。
参考書を合う合わないで判断するのはどうかと思うが、結局肌に合っていない物は無理してやらなくていいと思う。
「そんな落ち込まないで、僕がちゃんと教えますから」
「ショッピングモールの書店にある参考書ですらあんなにレベルが高いのですね……」
「いや、ショッピングモールとかは関係ないと思う。書店は書店だし」
「本当に困りました。どうしましょう」
「だから大丈夫だって。それより今日くらいは勉強のことは忘れなよ、そんな重い気持ちじゃいざやる時になったとき集中できないよ?」
「……北川君。そうですね、今日くらい忘れましょう!」
「うん。それがいいよ」
僕も今日は勉強のことを忘れ、友達とのショッピングモールを楽しもう。
そう決めた。
何せ友達と来る――というより、ショッピングモールに来ること自体初めてだったから。
何も考えず、ただただ雅ヶ丘さんとショッピングモールを満喫するのは、とても楽しかった。
ゲームセンターだったりプリント倶楽部で写真を取ったり、たくさん遊んだ。
意外にも、あんな楽しく一人ぼっちを満喫していたと語っていた彼女も、楽しそうにしてくれていた。
本当はこうやって友達と遊ぶのが好きな子なのかもしれない。
「これ本当に貰ってもいいのですか?」
「うん。それは雅ヶ丘さんにあげるよ。その方がそのぬいぐるみも喜ぶだろうし」
「……そうですか。ありがとうございます」
口元を緩ませ、両手にぬいぐるみを抱く彼女の姿が異様に可愛く見えてしまった。
ちなみにぬいぐるみは僕がゲームセンターにある、UFOキャッチャーというゲームで獲得した景品。
なぜか興味本位で一度挑戦したら、すごく簡単に取れてしまったため、彼女に譲った。
僕はぬいぐるみはあまり興味ないし。
楓に上げたら喜びそうだったけど、今回は雅ヶ丘さんに上げることにした。
でもまさかここまで喜んでくれるとは思っていなかった。
ゲームセンターがある階にはフードコートもあり、開いているテーブルに座って休憩をしていた。
「何か食べ物でも食べます?」
「そうだね。せっかくフードコートに来たことだし」
「じゃあ私、ラーメンというものを食べてみたいです!」
「もしかして今まで食べたことなかったの?」
「家ではありますが、外食したことがあまりなくて……それに私は高校生でも一人――」
「わかった。ストップ! ストーップ! じゃ、じゃあラーメンを食べようか」
どうして彼女はすぐに自分が一人ぼっちだった話を持ち出すのだろう。
いや、僕の質問が悪いのか?
けどまさかラーメンの話から一人ぼっちの話になるとはだれも思わないだろう。
でも、その話を聞くと自然と思ってしまうんだ。
「……勿体ないな」
「え? 勿体ない?」
「……あ、もしかして声に出てたかな?」
「はい」
しまった。無意識に出してしまっていたのか。
だが別に隠す必要もないだろう。
「だって雅ヶ丘さんとこうやってショッピングモールで遊ぶの、すごく楽しいから。それにショッピングモールだけじゃない。学校でも途中の道でもそうだし、雅ヶ丘さんは近くにいる人を楽しい気持ちにさせてくれるんだよ。でもそれを自分でも、それに他人も気付いていないのが勿体ないなって思って」
……って我ながら何を言っているんだ。
隠す必要はないと思ったが、これは正直に言いすぎた。
現に彼女は僕から顔を背けてしまっている。
それに耳も赤い。
というか彼女はよく耳が赤くなっているので、あれはもう体質なのかもしれない。
「よ、よく北川君はそんなことを平気で言えますね……」
「ごめんなさい。つい本当のことを」
「そうですか。私も……北川君だからあんな風に楽しめたのですよ?」
年季の入った機械のようにがたがたと震えながら、向き直った彼女は、口元を手で隠しながらそう言ってくれた。
「それならよかった」
人に一緒にいて楽しいと言われることは、こんなにも嬉しいものなのか。
いけない、つい口元が緩んで……。
「僕、ちょっとトイレに行ってくるね!」
「ひ、ひゃい! 行ってらっしゃい!」
流石にいまの表情を彼女に見せるわけにはいかない。
トイレで直そう。
そう思いトイレに向かった
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