第12話 ひとりぼっちのヒロイン
時刻は四時半。
今は夏場なので日が長く、まだ十分に明るかった。
雅ヶ丘さんが行きたいと言った場所は隣町にあるショッピングモール。
隣町と言っても歩けば二十分程度でたどり着く距離。
電車に乗ってもよかったのに、なぜか雅ヶ丘さんは歩きたいと言ったのだ。
僕も歩くことは嫌いじゃないので、どっちでもよかった。
「それにしても小学生がたくさんいるんだね」
「ええ。この時間帯は、どこの公園も多いわよね」
ショッピングモールに向かう途中に公園があり、そこではたくさんの児童たちが遊んでいた。
「私も幼いころはよく遊んでいました」
「そうなんだ。学校帰りに遊んでたの?」
失礼だが、正直意外だ。
幼いころはてっきり部屋で絵本でも読んでいたのかと。
まあ、友達と仲良くあそぶ雅ヶ丘さんもちょっといいな。
「あの頃は楽しかったわね……」
公園を懐かしそうに、そして寂しそうに見ていた。
一体あの目は何だろう。
「公園でどんなことをしてたの? 鬼ごっことか、かくれんぼ?」
「ふふふっ、北川君ってちょっと抜けているところがあるわよね」
「違うの? 公園と言えば定番の遊びじゃなない?」
「そうかもしれないけどどうやって一人で鬼ごっこやかくれんぼをするのよ」
「……え?」
「……え? 何か私変なこと言った?」
「もしかして雅ヶ丘さん……一人で公園で遊んでたの?」
「言わなかった?」
言ってないよ! もし聞いてたら昔の公園の話なんかもうしてないよ。
というかあの寂しそうな目はそう言うことだったのか。
「ずっと一人でブランコを漕いでいたわ」
「そ、そうか。楽しそうだね」
話題を変えよう。流石に雅ヶ丘さんの一人ぼっちエピソードはこれ以上聞くと、胸が痛くなりそうだから。
「ねえ、それより妹さんの事なんだけど」
話題を考えていると、彼女の方から話題を振ってきてくれた。
でもまさか妹の話題が上がるとは。
今日の朝あんなことしちゃったのにー。
「楓さんに……ち……の?」
「ご、ごめん。もう一回言ってもらえる?」
雅ヶ丘さんのいつもははっきり聞こえる声も今は何となくしか聞き取れなかった。
「楓さんに毎日あんな風に撫でているの?」
そう言ってなぜか顔を赤くしている。
「別に毎日ってわけじゃないよ。落ち込んでいる時とか、いいことをした時とかだけだよ」
「か、楓さんは嫌がったりしないの? 年頃の妹って兄に対して嫌悪感を覚えるとか聞いたことがあるんだけど ……」
「別にないかな。それにあっちからねだって来るときも結構あるし」
「本当に妹なのよね?」
「うん。兄妹愛ってやつだね。それ以上の感情はないよ」
「よかったー」
「よかった?」
「あ⁉ い、いえその――あ、ショッピングモールに着きましたよ!」
「う、うん。行こうか」
一体何だったんだ、あの焦りよう。
まあ、いいか。今はとにかくショッピングモールを満喫しよう。
と思ったが、想像以上に混んでいる。
「ショッピングモールってこんなに人がいるんだね……」
「私も流石に驚きました」
「目を離したら一瞬ではぐれてしまいそうだね」
「じゃ、じゃあこれでどうでしょう――えいっ!」
「――ちょ、ちょっと雅ヶ丘さん⁉」
僕の右腕に体が押し当てられた。
これは流石にまずいんじゃないのか?
こんな所知り合いに見られたら即アウトだ。
僕はそこまで多くの知り合いはいないが、雅ヶ丘さんは美人だし、知っている人も多そうだ。
「あのー嫌でしょうか……?」
上目遣いでそんなこと言われたら嫌なんて言えない。
というかそれは僕の台詞では⁉
何か二の腕に柔らかいものが当たってるし……。
前世ではこんなに女性にくっ付かれたことが無いため、体が硬直してしまった。
「こうすればはぐれないですよね?」
「う、うん。そうだね」
なんで出会って間もないクラスメイトにこんなことができるんだ。
あの幼少期の一人ぼっちでブランコを漕いでいた雅ヶ丘さんは一体どこへ行ってしまったんだ。
……って駄目だ。
今日は雅ヶ丘さんと楽しく過ごすって決めたんだ。
今日が終われば二週間勉強三昧。だから今日くらいはしっかりしないと。
「い、行こうか」
「はい。行きましょう」
こうして僕は想定外の状態でショッピングモールに行くことになった。
マジで誰もいないでくれよ……。
心の中で神様にそっと祈った。
でも、神様なんていなかった。
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