第11話 期末テストの対策
妹と間違えてクラスの女子の頭を撫でる。
そんな失態を犯してから数分後、担任の東澤先生が眠そうにあくびしながら入ってきた。
しかし朝のHRを開始するにはまだ少し早い時間帯らしく、先生は生徒と駄弁っている。
「ねえ北川君」
「どうしたの、雅ヶ丘さん」
あれから普通の状態に戻った彼女は、冷徹な声であることを聞いてきた。
僕が恐怖心を抱いている彼女だ。
「楓って誰? さっき私の頭を撫でた時、誰かと間違えていたからですよね?」
うわ怖。なんて鋭い目なんだ。
「楓は僕の妹だよ。ちょっと怠惰な所があって困ってるんだ」
「なんだ妹さんでしたか。もちろん血は繋がっていますよね?」
「……うん」
実際血が繋がっているのかどうかわからない。
僕の記憶は十五歳からしかないし、父親がどんな人だったかもわからない。
僕は北川家の一員でありながら、あの家のことをまだよく知らない。
知る必要が無いって言うと失礼かもしれないけど、今は知りたくない。
でもたとえ楓が義理の兄妹でも、僕は今まで通り彼女に接するだろう。
「楓さんも秀才なのですか?」
「どうだろう。頭はいいらしいけど、家ではずっとテレビや漫画だから」
「そ、それで頭がいいってのはちょっ
と怪しいですね」
「そうなんだよ。でも楓だけじゃなく母さんもそう言ってるから、本当なんじゃないかな」
「恐るべし、北川家」
いやいや、勉強ができても僕たちは別に裕福な暮らしができているわけじゃない。
母の稼ぎは一般的に見ると多いが、その分忙しくて中々帰って来られない。
僕がバイトでもして少しは楽させようとしたけど、一度入院生活を送った身なので断固拒否された。
そもそもバイトの稼ぎで何とかなる額じゃないし。
「よーし、じゃあHR始めるぞー。今日は金剛は休みか、珍しいな」
先生がそう呟くと、一斉にみんなが
僕を見た。
そうです。おそらく僕のせいです。
カッとなってしまったからって思いきり投げてしまった。
今度ちゃんと謝ろう。
「わかっていると思うが、もう少しで期末テストだ。くれぐれも赤点は取らないように。もし次のテストで数学の赤点を取った奴が一人でもいれば……夏休みの課題は覚悟しておけよ」
すごい。なんて迫力だ。
もうここまで言われたらみんな必死になって勉強しそうな勢いだ。
数学だけダントツできるクラスとか、極端にならないといいけど。
すると、裾が強く引っ張られる感触がした。
左を向くと顔を真っ青にした雅ヶ丘さんがか細い顔で何かを言っている。
「……どうしよう。どうしましょう」
「だ、大丈夫だよ。絶対に赤点は回避できるから」
「でももう二週間しかないですよ……」
「わかった。わかったから、明日から頑張ろう。今日は買い物に付き合うので、明日からは勉強三昧ね?」
「……はい」
まあ、彼女のことだ。
普段も勉強三昧なのだろう。
今日くらいは遊んで、明日からは猛烈に勉強だ。
一応期末テストの範囲は完璧にしてあるし。
彼女を宥め前を向くと、教壇に立った先生がこちらをニヤニヤしながら見ていた。
あの先生、もしかしてわざとそんなこと言ったな。
雅ヶ丘さんが勉強をできないのを知
っているのにも関わらず。
なんて鬼教師なんだ。
こうなったらとことん彼女に勉強を教えてやる。
あの先生に一泡吹かせてみせる。
こうして僕は授業中でも積極的に彼女に勉強を教えた。
一限目のグループワークも、彼女にヒントを出し答えまで導くにはかなり手間がかかったが、この調子なら授業中でも効率よく勉強ができる。
それから二限目、三限目、と過ぎて行き昼食の時間になった。
なんとしてもこの教科はいい点数を取って先生に思い知らせないと。
そして次に国語。
前回のテストで2点という最悪な結果を叩きだした教科だから。
残りはその後だ。
今日は体育などなく、勉強に当てられる授業ばかりなのでかなり捗った。
おそらく今日だけでも、かなり雅ヶ丘さんの脳内に叩きこめただろう。
あとは今日の分も含め、本番に忘れないことだな。
そして迎えた放課後。
帰りの支度を済ませた僕たちは、一緒に教室を出て、下駄箱に向かった。
やっぱり雅ヶ丘さんは普段とても凛としていて、勉強の時とはすごいギャップだ。
それを知らない人はきっと雅ヶ丘さんのことを完璧美女とでも思っているのだろう。
まさか学年最下位なんて、僕も初めて知ったときは本当に驚いた。
「どうしたの北川君。私の顔をじっと見て」
しまった。バレていたのか。
「いや、なんか雅ヶ丘さんってとても美人だから、僕が隣を歩くなんて許されるのかなんて……」
「べ、別に美人でないですよ。他に可愛い子はたくさんいますし」
「そんなことないですよ」
照明に照らされているからかもしれないが、彼女の顔はとても赤かった。
普通の照明だと思っていたが、昇降口の照明にしては橙色が強すぎるのだろう。
「じゃあ北川君からはそう見えるのですか?」
「はい。もちろん!」
「……そうですか。ありがとうございます」
何故だろう。
彼女の綺麗な耳は照明に照らされておらず、影になっているのに、とても真っ赤になっていた。
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