第6話 圧倒的強者
無性に長く感じた英語の授業が終わり、六時間目。
今日最後の授業が始まる。
最後の授業は体育で柔道。
やったことはないけどしっかり調べてきている。
男子更衣室で体操着に着替え、真と一緒に柔道場に向かう途中。
強面の金剛悟とすれ違った。
「編入生だから大目に見てやってるけど次また琴葉に近づいたら殺すからな」
「……は、はぁ」
「くははっ! こいつくそビビってやがる!」
取り巻きのガリメガネが僕を指さして笑う。
「行こうか、真」
「お前怖くないのか⁉」
「怖い? 何が?」
「金剛の事だよ!」
「あまり気にしてないかな。この世界では特殊な理由がない限り人を殴っちゃいけないんでしょ?」
「まあそうだけど。万が一ってっ事が……」
「真、僕は争いが嫌いなんだ。彼がこれ以上近づくなというのなら僕は雅ヶ丘さんと距離を置く。だけどそれより先に雅ヶ丘さんと約束をしたんだ」
柔道場に向かっている最中に問い詰められたが、口止めをされているのではぐらかした。
勉強を教えること以外は接しないと決めた。
それ以外はほとんど口を利いていない。
まあまだ初日だからなんとも言えないけど。
六限目の授業が始まる。
男子は柔道場。
ネットを張った隣で女子が卓球をしている。
度々雅ヶ丘さんと目が合い、彼女は何かしらの素振りをしてくるが僕はそれを流した。
何回かそれが続くと流石に彼女も素振りをやめた。
「よし、じゃあ二人一組でペアを作れ」
先生の指示通りペアを作ろうと真に声をかけた。
「真、ペアになろうよ」
「いいぜ。手加減はしないからな」
無事にペア結成。
なんて上手くいかずに。
「なあ心。俺と組もうぜ」
その一言で、クラス中の男子どころか、隣で卓球をしている女子まで僕たちを一点に注目した。
「金剛君、僕は真と先にペアを組んだんだ。ごめん」
「あぁ? おい、いいだろ真?」
「お、おう……じゃあ俺は他の奴とやるよ」
「がははっ、じゃあ心。俺とペアになろうぜ?」
「真がいいのならいいよ」
正直真と組みたかったので少し残念だけど、せっかく金剛君がペアになろうと言ってくれたのだ。
でも何だろう。
この周りの心配そうな目は……。
「北川君……やめたほうが」
初対面のクラスメイトが心配そうに言う。
初めて話しかけられて嬉しいが、なんで
彼とペアになっちゃダメなんだろう。
「金剛、まずお手本を見せてやれ。相手は初心者だから加減しろよ」
「へーい」
にやにやしながら僕の裾を掴んでくる。
金剛君は柔道ができるんだ。
でも確かにいい体してる。
「お手柔らかにお願いします」
「へっ! 嫌だね。これは俺の琴葉に馴れ馴れしくした罰だ。保健室送りは覚悟しとけよ」
僕にしか聞こえない声でそう言った。
「……? 何それ。それだけのために僕とペアになったの?」
「当たり前だ。初日からそんな調子乗ってるとなぁ、その整った顔がぐちゃぐちゃになっちまうぞ? こんな風にな!」
金剛君の筋肉が硬くなるのを感じる。
本当だ。力の入り具合からして本気で投げようとしている。
そんな私利私欲のために友達を巻き込むのは許せない。
本気で雅ヶ丘さんが好きなら他に改善する部分があるだろう。
まあ、自分がそんなこと言える立場じゃないが。
今彼を止められるのは僕しかいない。
足を組み替え、腕を引き剥がす。
「――なっ⁉」
相当油断していたのか、反撃した瞬間大きな隙ができた。
彼の裾を掴んで、前に調べて得た情報のままに体を動かす。
すると金剛君の体は中を舞い、マットの
上に打ち付けられた。
バチンッ!
聞いたことのない音が柔道場を越え卓球場にも大いに響き渡る。
それはわずか一瞬の錯綜。
彼は何が起きたのか分からないまま、床に倒れた。
「自分の身勝手を他人に押し付けるのはやめた方がいい」
脱力した状態で倒れているが、気を失っていないので今の一言は聞こえただろう。
「――周りに迷惑です」
やはり彼は僕の言葉が聞こえていたのか、歯を強く食いしばった。
ちなみに自分でも驚いている。
知能も身体も前世のまま。
決して転生したから身体能力が上昇したわけじゃない。
この世界は武道の心得がある人でも、前世の世界に比べたら下級モンスターより弱い。
あの世界で最弱だった僕でも、この世界でなら圧倒的強者の部類に入ってしまう。
世界によってここまで違う物なのか。
僕が強者の部類に入る。それはこの世界が平和だということに直結しているのかもしれない。
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