第30話 ヴェルナーの事情1
ヴェルナーは普通の人間より、術者を見る目はあるが、それでもなんなのか判別つかない。
彼女と同じ種類の術者はみたことがなかった。
悪いものではないから、組織に知らせていないが。
――ヴェルナーは、魔術探偵である。
幼い頃に母が亡くなり、それからは貧民街で一人暮らしてきた。
荷物運びや、煙突掃除などをし、泥の中を這いずるようにして生きてきた。
昔から、ヴェルナーには普通の人間にはみえないものがみえた。
人のもつ色、オーラだ。
オーラを持つのは、大抵貴族だった。魔力を秘めた者である。
中には、ひどく濁った色をした人間がいる。
そういった者は、事件を起こしている。
普通の者達は、人のもつオーラなどみえないし、魔力もないと気付いてからは、ヴェルナーは自分の能力を隠した。
おかしな能力を持っていても、良いことなどない。
ある日、荷物運びの仕事を終えた帰りに、被っていた帽子が風に飛ばされた。
ヴェルナーは帽子を深く被り、左右の瞳の色が違うのを隠していた。
人と異なるためだ。
人間とは、異分子を排除しようとする生き物である。
それに、一部にはある種の関心を惹いてしまう。面倒ごとに巻き込まれたくないので、なるべく目立たないようにしていた。
すると黒塗りの馬車から降りてきた貴族の女が、ヴェルナーの帽子を拾った。
女は術者だった。
その年頃にはすでに、オーラのある人間は魔力持ちの『術者』だと知っていた。
「帽子を飛ばしたのは、あなたですか」
ヴェルナーが問い掛ければ、女は笑った。
「やはり、見えるのね。素晴らしいわ、そのオッドアイ。――とてもよく似ている。来なさい。悪いようにはしなくてよ」
貴族の女に気に入られることは初めてではない。
薄汚れているが、己の外見は女に好まれるもので、声を掛けられることも度々あった。
ヴェルナーは女について、屋敷に行った。
大概、まず最初に汚れた身を清めるように言われる。
そこでもそうであった。
さっぱりと小綺麗になったヴェルナーを女は眺め、訊いた。
「名前は?」
「ヴェルナー・ヘーネス」
「それは母親の姓ね。父親は?」
「いません」
「母親は?」
「死にました」
女は腕を組んで、ヴェルナーを見下ろした。
「あなたの生い立ちと、亡くなった母親の特徴を話して」
それを知ってどうするのだろう。ヴェルナーは不審に思う。
「どうしてそんなことを? 何の意味がある?」
「悪いようにはしないと言ったでしょう。話しなさい」
それでヴェルナーは、訝しみながら、話した。
聞き終えれば、女は満足したように、何度か頷いた。
「あなた、特定の人間の色が見えるわね」
女は確信をもっている。ヴェルナーは溜息をついて認めた。
「……ああ、見える」
「偶然さっき街で目にして気づいたわ。あなた、濁った色の男をじっと見ていたもの」
女はすいと目を細める。
確かに帰り道、すれ違った男をヴェルナーは凝視した。濁った色をしていたからだ。
あの男は、何らかの事件を起こしている。今までもああいった色をした人間はそうだったから。
女は紅を塗った唇を吊り上げた。
「あなたはオッドアイ……。あなたの父親は、わたしの兄なのよ。その顔、そっくりだわ」
眉を顰めるヴェルナーに、女は告げた。
女はフレンツェン伯爵家の人間で、その現当主はヴェルナーの父親だと。
昔、伯爵家に勤めていたヴェルナーの母は、伯爵と関係があったらしい。
「ついていらっしゃい」
ヴェルナーは女に連れられ、伯爵家を訪れた。
立派な屋敷だ。
そこで伯爵と対面した。
冷ややかな双眸をした伯爵は、ヴェルナーを見て、言った。
「息子などではない」
「だけどお兄様、この子の瞳はオッドアイよ。人の色を見ることもできるわ。濁った者を見つけることができる。代々魔術探偵を輩出してきているこの伯爵家の人間だという証左じゃないの。お兄様が手をつけたメイドが母親だし。それにお兄様以上に、この子、お父様に似ているわ」
伯爵は眉間に深く皺を刻む。
彼は、ヴェルナーは自分の息子ではないが、様子をみると言い、ヴェルナーの能力を試した。
魂を穢した術者を見つけろと命じたのだ。
「来い」
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