第29話 変わった少女
(変な娘だ)
ヴェルナーはリアを見送ったあと、秘密通路を使って戻った。
――今から約五年前、二十歳のとき、リア・アーレンスと出会った。
そのとき彼女は十歳だった。
プラチナブロンドの綺麗な髪に、紫色の瞳をした、まだ幼い娘だったが、冷ややかといえるほど凛とした美貌をもっていた。
殴られている少年に彼女は近づき、囲んでいる男達を追い払った。
『風』の魔力を使って。
とぼけていたが、この目は誤魔化せない。
リアは、とにかく変わっている。
家まで送っていったが、彼女はヴェルナーの店の周辺をうろつきはじめた。
危ない奴らが徘徊している場所だ。
そこに十歳の少女、しかも大貴族の令嬢が一人で出歩くのだ。
ヴェルナーは愕然とした。
店の場所を話すのではなかったと悔いた。
どうみても、彼女はヴェルナーに会おうとし、来ている。
長くはいないのだが、合間を縫って、たびたびやってくる。
彼女は術者だ。大丈夫だろうと思うが、彼女を狙う悪党が術具をもっていれば、危険である。
リアの姿を見つけたら、ずっと追い払っていたのだが、きりがない。とうとう根負けし、保護することにした。
「入れ」
店の中に促がすと、彼女はぱっと顔を輝かせた。
「はい!」
薄汚れた賭博場に入り、何が嬉しいのだ。破滅願望でももっているのか。
ヴェルナーは、その少女を薄気味悪く思った。
(おれが悪党だったら、大変なことになってんぞ)
自分は全く善人ではないし、悪人側ではあるだろうが。
服装は地味で、まだ子供だが、稀にみる美少女だ。
攫われれば、高値で売りとばされて、変態に買われる未来がたやすく想像できた。
控え室の椅子に座らせ、ヴェルナーは彼女に尋ねた。
「なぜおれの周りをうろつくんだ。おれのストーカーかよ」
すると彼女はもごもごと口ごもった。
「仲良くなりたくて……」
彼女ははっと何かに気付いたようだ。
「でもこれって確かにストーカー……?」
「ああ、そうさ」
十歳の少女からストーカーに遭うとは思わなかった。
女に不自由はしていないが、様々な人間と過ごしてきた中で、ストーカー化する女がいないわけでもなかった。それは身分問わずだ。なるものはなる。貴族のほうが性質が悪かったりする。
「そうなりたくなかったら、おれの周りを、この危険な場所をうろうろするのは、金輪際やめると約束しな」
「約束できませんわ!」
彼女はきりっと答えた。
「お嬢さんな……」
髪をかきあげ、ヴェルナーは溜息を吐き出した。少女はじいっとヴェルナーを見る。
ヴェルナーは眉を顰めた。
「何?」
少女は大人っぽい笑みを浮かべる。
「私が知っているあなたより少し若いので、不思議な感じがするのです」
「なんだそれ」
少女はこほんと咳払いをし、物憂く告げる。
「ええと。この間もお話ししましたが、私、予知夢を見たのですわ」
「……予知夢、ね」
「はい。私とヴェルナーさんは、将来共に旅に出るでしょう!」
危ない子供だ。それとも貴族の子供の間で、こういう遊びが流行っているのか?
ヴェルナーは彼女を危険人物に認定した。
――しかし、リアは変わっているが、しっかりした子ではあった。
彼女は、遊びや冗談で言っているわけではないようだった。
何かを隠してはいるが、ほぼ事実を語っている。
実際、彼女がいう時期に南国の王族が、亡くなった。
大雨が続く日々も当てた。
橋が崩れる事故も、リアが事前に知らせなければ、大惨事となっていただろう。
他にも色々的中させていて、彼女は今までに、多くの人間を救ってきた。
リアは予知夢を見ることについて、ヴェルナー以外には内緒にしている。
公爵家に迷惑をかけることになるかもしれないからだ。
彼女は隠密に動いており、ヴェルナーはそんな彼女に協力していた。
基本的には自分の周りのことしかわからないらしいが。
リアとは今、年齢を超えた不思議な関係となっていた。
家族ではない。ましてや色恋の相手でもない。
どう表せばよいのかわからないが、強いていうなら友人か。
彼女は自分たちを『仲間』と表現している。
彼女は『風』術者。
秘めている力が強く、ヴェルナーにとって非常に興味深い対象でもある。
(あの魔力、一体何なんだろうな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます