第31話 ヴェルナーの事情2

 ヴェルナーは伯爵に、クラブに連れていかれた。

 煌びやかな場所には、様々な色を持つ人間がいた。

 

 中に一人、ひときわ濁った者がいた。

 ヴェルナーは迷うことなく告げた。


「あの男だ」


 ヴェルナーは男を指さす。


「髭を蓄えた、細身の、壁際で酒をくらってる男。濁ってる」


 伯爵は顎を引き、目を眇めた。


「あの男は、傷害致死罪で来週捕まる。……おまえは確かにみえているらしい。帰るぞ」

「あと」

 

 伯爵は振り返る。


「なんだ。おまえはすでに力を証明してみせた」

「――もう一人いるんだけど」

「……もう一人?」


 伯爵は不審げに、ホールに視線を彷徨わせた。


「……どこだ?」

「右手奥にいる男。あれはこれから濁る」

「……これから? おまえは、これから濁る者もわかるというのか?」

「わかるよ」


 伯爵は奥歯を噛みしめ、ヴェルナーが示した男に目をやる。


「……プラーム男爵か……」


 ――その後、男爵は己の魔力を用い、殺人未遂事件を起こした。

 伯爵はヴェルナーの力を受け入れた。

 が、決して自分の息子とは認めなかった。




「色の濁った者、今後濁ると思われる者を見つければ私にすぐに報告するのだ」

「そんなことをして、おれに何のメリットがある」

「報酬は出る」


 生きるために、金は必要である。

 伯爵から推薦され、ヴェルナーは国に雇われた。魔術探偵として。

 街で怪しい者を見つければ、報告する。国ではなく伯爵に、だ。

 彼の手柄となるが、多くの報酬がもらえた。

 

 伯爵はヴェルナーの力を認めていた。だがヴェルナーのことを嫉妬し憎んでもいた。


「なぜ、私が持たなかったオッドアイをおまえが持っている」


 フレンツェン伯爵家の者はオッドアイが多いらしい。

 魔術探偵として素質があるのはそういった目をもつ者。

 

 だが伯爵はそうではなかった。

 亡き先代からオッドアイでないことを嘆かれていた伯爵は、喉から手が出るほどこの目が欲しいようだ。

 親戚に、家のことや様々な噂話をヴェルナーは聞かされた。


(おれは好きでこんな目をもっているわけじゃねえ。人と違う目なんて)

 

 伯爵は、ヴェルナーを息子として認知しなかった。

 しかし、ヴェルナーが事業をはじめるにあたり必要な費用は用立ててくれた。

 これには驚いた。

 

 今では、ヴェルナーは帝都一の高級賭博場の経営者となっている。

 伯爵に用立ててもらった分はすでに全て返し終えていた。


(おれは成り上がった)


 貴族が遊興でおとした金で、何でも買うことができる。

 能力を認められ、組織の上層部にもなり、帝国の秘められた内部事情にも通じていた。

 だが心は満たされない。


 本当に欲しいものは、どうしても手に入れることができないといった飢餓感。

 それが何かもわからぬまま。


(旅するのもいいかもしれねーな)

 

 リアは予知夢をみた。ヴェルナーが彼女の危機を助け、共に旅をしたという。

 自分がそういった行動をとったのだとすれば、彼女に惹かれる部分があったからだ。

 リアが秘める魔力。

 透き通っているが、不思議なオーラだ。

 

 ヴェルナーは、異質な能力のためか、否応なく魔力に魅了される。

 惹きつけられて、やまない。

 

 リアの予知夢では彼女が十六歳のとき、出会うはずだったらしい。

 人買いから彼女を助けたというのが本当なら、美しい彼女に目を留めたのも、助けた理由のひとつかもしれない。

 彼女に手を出す気にはならないだろうが。

 そうするには彼女は面白すぎ、勿体なさすぎるのだ。

 

(おれの、汚れきったこの手で彼女に触れる気はない)

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