第11話 肖像画

 公爵もカミルもなのだが、オスカーも照れることなくリアを褒め上げる。

 リアは恥ずかしくなってしまうが、彼らは息をするように言葉にするのだ。

 家族でも、子供でも、女性を褒めるのが貴族の流儀なのだろう。


「私には今まで弟しかいなかったからね。リアがきてくれて、家の中が華やかになって嬉しい」


 リアはオスカーを仰いだ。


「そう言っていただけて、とてもありがたいです」


 受け入れてもらえていると感じ、心あたたまる。


「何しているの、兄上、姉上?」


 柔らかな声が響く。歩み寄ってきたのは、カミルである。


「二人だけで話してズルいよね。ぼくも姉上と仲良くしたいのにさ」

「なら、おまえも一緒に話せばいいじゃないか」


 オスカーは嘆息し、リアに眼差しを戻した。


「リアは、私達が浮かれていると、呆れているかい?」

「呆れてなんていませんわ」

「では私達が歓迎しているとわかってくれている?」

「はい」


 オスカーもカミルも、とてもよくしてくれている。本当の兄弟、それ以上に。


「私、幸せです、お兄様」


 楽しかった昔を思い出し、悲しくなったりするし、家庭教師に授業を受けるのは大変だけれど、屋敷の皆は優しいので、助かっている。

 兄弟はリアを何のてらいもなく褒めるので、それは正直戸惑うのだけれど。


(でも慣れなきゃいけないのよね、きっと……)


 オスカーはリアの髪をそっと撫でた。


「リアが、新しい環境のなかで日々頑張っているのはわかっているよ。私もカミルも、応援しているからね」

「ぼくらになんでも相談して」


 リアは、本当にありがたく思った。

 だがどうしてこれほど受け入れてくれるのだろう。

 従兄弟ではあるが、リアがこの屋敷に引き取られた最初から、彼らは打ち解けて接してくれている。


「どうして、そんなに優しくしてくださるのでしょう」

「不思議かい?」


 リアは素直に認めた。


「はい……」

「当惑させてしまっていたなら、悪かった。実は私も弟も、初めてリアに会ったという感じがしないんだ」

「え?」


 リアが瞬くと、カミルが説明してくれた。


「姉上の実母――ぼく達にとっての叔母上の肖像画が、屋敷に飾られているの。一階奥の部屋にさ。それがちょうど今の姉上くらいで、本当にそっくりだから。それで初めて会った気がしないの」


(そうだったんだ……)


 しかし母の肖像画があるなら見てみたかった。


「見てみるかい? 何枚かあるが」

「はい!」

「おいで」


 彼らに連れられて、リアは屋敷内に入った。

 廊下奥に樫の扉があり、そこをオスカーが開ける。

 すると、奥行きのある室内が目に映った。

 

 中には多くの肖像画が飾られていた。

 オスカーはリアの肩を抱いて移動し、一つの絵の前で止まった。


「この絵だ。丁度今のリアくらいの年齢だと思うよ」

 

 リアは目を見開いた。自分が描かれていたからだ。


「私……?」

「ね。そっくりでしょ?」


 そう言って、カミルがくすっと笑った。


「その少女が叔母上。で、隣が父上。一緒にいるのが、亡くなったお爺様とお婆様だよ」


(絵に描かれているのは、私ではなく母様なの……?)

 

 肖像画と今、同じ髪型、ドレスも同色だから、本当に自分のように思った。


「リアの母上はとても綺麗だ」

 

 傍にあった、年頃の母の絵の前で、オスカーが言う。

 それはリアの知る母に近い姿だった。

 母を思い出して、懐かしく胸が詰まる。


「……私も、大人になったら母様みたいになりたいな……」


 子どもの頃の姿は似ているが、母のように成長できるだろうか。

 ぽつりと呟くと、オスカーもカミルも笑い声を立てた。


「リア、今でもとても可愛いが」

「うん。とっても可愛い。それに大人になったら絶世の美女になる」


 彼らはとにかく口が上手だし、実の兄弟のように思ってくれているから、贔屓目になっているのだろう。

 両親と暮らした幸せとは比べることはできない。

 けれど優しいひと達と家族になれ、リアは心から感謝を覚えていた。

 

 死の間際、リアのことを心配して、父は公爵家に連絡をしたのだろう。

 天国の両親にも安心してもらえるよう、リアは彼らと本当の家族になろうと思った。

 

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