第7話 突然の別れ
翌日、イザークが家にやってきた。
けれど、リアは彼に会えなかった。
まだ瞳の色が戻っていないからである。
リアは風邪をひいていることにして、母は勉強をイザークに教えた。
彼が帰った後、母はリアの部屋にやってきた。
「リア、具合はどう?」
「うん、大丈夫。イザークは元気そうだった?」
「ええ。あなたのことをとても心配していた。ただの風邪だから、大丈夫だって話しておいたわ。うつるといけないから数日は会えないって」
(良かった、イザークは元気なのね)
パウルはどうしているだろう? 会いたい。
リアの瞳の色は金色のままだ。体調はすぐ戻ったし、パウルもきっと大丈夫なはずである。
リアはそう思っていた。
◇◇◇◇◇
一週間経ち、リアの瞳の色は元の紫になった。
(ずっと戻らなかったら、どうしようと思ったわ!)
ほっと胸を撫で下ろし、服を着替えていると、外で叫び声が聞こえた。
「リア!」
イザークだ。切羽詰まった声である。
「どうしたのかしら?」
母が訝しげにしつつ、玄関へと向かった。
「イザーク、おはよう」
「おはようございます。リアは!?」
「リアなら今日から一緒に勉強できるわ。風邪、治ったの。今着替えているからちょっと待っていてね」
応対する母の声を部屋で聞きながら、素早く着替えを終え、リアは廊下へと出た。
「久しぶり、イザーク!」
玄関まで行って、一週間ぶりに会う幼馴染に声をかけるが、彼の顔が真っ青であるのに気付き、首を傾げた。
どうしたのだろう。
「イザーク?」
「リア……」
「……何か、あったの?」
彼は泣きそうな顔で、声を喉から押し出した。
「……パウルが死んだんだ……」
(え……?)
彼は何を言っているのだろう。
「イザーク……一体……何なの。悪い冗談を言わないで!」
彼はぎゅっと強く拳を握りしめる。
「もう火葬されて、今、墓地に彼の親戚が集まっていて……昨日、亡くなったって……」
リアはそんなこと、信じられなかった。
「とにかく、墓地にいってみましょう」
母がそう言って、二人を促し外に出た。
村の北にある墓地まで行くと、パウルの親戚たちがいた。
母が彼らに声をかけ、事情を尋ねると淡々と説明された。
この数日、パウルの体調はひどく悪かったと。
昨日、容体が急変し息を引き取ったと。
病状の悪化が余りに速かったので、大陸にはびこる流行り病かもしれず、火葬して、墓に埋葬したと。
「そんな……! パウルは生きてる! 死んでなんかないわ!」
「リア……」
母がリアを抱きしめる。
イザークは唇を噛みしめ、俯く。
(嘘よ……!)
海風が、リアの髪をさらった。冷たい空気が全身を打ち付ける。
パウルはリアの初恋の相手だった。
この間まで一緒にいたのに。握った掌や、手に口づけられたぬくもりを覚えてる。
大きくなったら、結婚しようと言ってくれた。
なのに、こんな突然、別れが――?
「……っ」
リアは墓地で、嗚咽を零し、ぼろぼろと泣きじゃくる。
見かねたイザークがリアの背に手を置いた。
「……リア、帰ろう」
このままここにずっといると、身体の弱い母の身にも障る。
「…………」
リアは頷き、止まらない涙を拭い、そこを後にした。
◇◇◇◇◇
一年経ち、周りの人に励まされ、リアの心の傷もようやく少し和らぎはじめた頃、悲劇がまた起きた。
流行り病で、母が亡くなったのである。
同時期にイザークの母も亡くなり、イザークはリアの家に引き取られることになった。
リアとイザークの悲しみは深かった。
だが、それ以上に堪えていたのはリアの父だった。
最愛のひとを失った父はみるみる衰弱していった。
「リア……ごめん。大切なおまえがいるのに……母様を失って……もう……父様はどうしたらよいかわからない……」
生きる気力を失い、抜け殻のようになった父は、母を追うように他界した。
リアもイザークも天涯孤独の身となった。
しかし父の亡くなった日、家に人が訪れた。
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