第2話 幼馴染
草原で、リアは花の冠を作り終え、微笑んだ。
(綺麗にできた)
「次は何をして遊ぶ、リア」
パウルに訊かれ上空を仰いだ。
突き抜けるような青色が広がっていて、気持ち良い。
「丘の木まで、かけっこしましょう!」
「うん」
イザークがリアの手元を指さす。
「じゃ、勝者はリアが作ったその花の冠を」
――パウルとイザークは、リアより一つ年上の八歳の少年だ。
帝国の西のはずれにあるこの村は、かなり田舎で、近所に子供は三人しかいない。
イザークは隣家に住んでいて、パウルは少し離れた塔で暮らしていた。
リアは花の冠を草原にそっと置いた。
三人一斉に駆け出す。
丘に一本だけ伸びた木に、同時にパウルとイザークが辿り着き、遅れてリアが到着する。
「二人とも走るの早い……」
「リアは女の子だから」
「俺達に勝つことはできないって」
その言葉に、リアは頬を膨らませた。
「そんなことない。私、ヨハンさんに動きが機敏だって、褒められたもの。いつか私、パウルやイザークより早くなる」
リアは、ヨハンという、この村で余生を過ごす男性から武術を学んでいる。
ヨハンは昔騎士をしていたらしい。
「うん。頑張り屋だから、きっとそうなる」
「リアは本当にお転婆だな。女の子なのに武術を学んで」
パウルとイザークは感心と呆れが混じった表情だ。
「だって、うちの母様は病弱だもの。父様はそんな母様を壊れ物を扱うみたいに大切にしている。私の身体も弱くなってしまったら、父様に心配と負担をかけてしまうわ。母様はもちろん、父様も守るためにも、私は強くなりたい」
もし何か緊急事態が起きた場合、自分が強かったら、両親を助けることができるのではとリアは考えている。
「えらいし、すごいね、リアは」
「ん。畑仕事に精を出すし」
(すごいのは、父様だわ)
父は優しく美形で、作る料理も美味しくて、掃除も洗濯もてきぱきと手際よくこなし、花壇の世話も上手だし、リアにとって完璧なひとだ。
けれどたまに、父は母のことを『お嬢様』と呼んでしまうのだった。
両親は『駆け落ち』をしたらしい。
父は元々、母の家に仕えていた。
意に沿わない結婚をさせられそうな母をさらって逃げたのだ。
両親は、子供のリアが照れてしまうくらい、深く愛し合っていてとても仲が良い。
リアも父のようなひとと、将来結婚をしたいと思う。
「母さんが、リアのこと褒めてた。明るく元気で働き者だって。いつもリアに手伝ってもらって助かるって」
村では、ほぼ自給自足の生活だ。
イザークは母親と二人暮らしで、リアは彼の家の手伝いもしていた。
「二人とも親がいて、いいね……」
パウルが寂しそうに呟く。
彼には親がいなかった。
今、親戚と一緒に暮らしているが、ほかの村人と接するのをパウルは禁じられているらしい。
こうして外に出られるのも、目を盗んでなのだった。
「親戚のひとに意地悪をされているの?」
心配になってリアが訊くと、パウルはかぶりを振って否定した。
「ううん、そんなことはないよ。彼らは親切だ。でも外に自由に出ることを、僕は許してもらえないから。行動が制限されているんだ。愛を与えてくれる親がいて、君達が羨ましい」
リアとイザークは顔を見合わせた。
パウルと最初に出逢ったのは、二年前で、塔の窓から外を眺めていたパウルに、リアとイザークが声をかけたのがきっかけだ。
一緒に遊ぼうと誘ったら、彼は抜け道を使って、塔から出てきた。
それからよく、こうして遊んでいる。
「君達がいるから、今は全然寂しくないけれど。それまでは結構辛かったかな」
リアが心配に思うと、パウルは安心させるように笑んだ。
「で、リアが作った花の冠は僕とイザークのどちらがもらえる?」
首を傾げて尋ねられ、リアは少し考えたあと、笑顔で答えた。
「同時だったから、じゃ、二人ともに!」
丘を降りて、草原に戻ったリアは、母から作り方を教わった花の冠をもうひとつ編んだ。
パウルとイザークの頭にそれをのせる。
「嬉しい、リア」
「ありがとう」
「いつか絶対、二人とかけっこして勝って、私が作ってもらう!」
「うん」
「わかった」
パウルとイザークは、本気で宣言するリアにくすくすと笑って頷いた。
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