さくらの花びら

Spring

さくらの花びら


「いってきます。」

何気なく言った一言に私はハッとする。中学生の私が行ってきまーすを言うのはこれで最後なんだなー、と。

後で私もお父さんと行くからーという母の声を背中で聞きながら、履き慣れない靴をとんとんと鳴らす。分かりきっていたことだ。中学生は本当に毎日多忙で早くこの日が来てほしいと思っていたっけ。いざその日が来ると意外にも寂しいな。肩に乗ったさくらをはらい、吐息をつく。


-------今日は中学校の卒業式だ--------


「3年4組和泉凛」

ワタシ

自分の名前が呼ばれ練習通りに立つと、クラスメイトみんなの視線が私に集まる。その目に涙が浮かんでいる事に気がつくと、私は涙を堪えきれなくなってしまっていた。私で最後だ。私が卒業証書を貰って席につくと、

もうそこは静かな空間ではなくなっていた。

そんな私達を生い茂るさくらは暖かに見守っていた。


「また高校でね、凛」

親友が門を潜って行くのを見送った後、まだ赤く腫れているであろう目を擦る。気がつくと私は最後の一人になっていて、後ろでは先生達が後片付けをしながら思い出話をしている。さくらの花弁が雪のように降る中で、靡く黒髪を抑え、門を見つめた。私がここを出たら、本当に卒業式は終わりだ。ざぁぁ、とさくらの木が少し揺れ、花弁が私の視界を阻む。卒業式が始まった頃には綺麗な形だったさくらの花がひとつひとつの花弁となりあらゆる所へ飛んでいく。あぁ、まるで今日の私達みたいだ。集まって花となっていた者が今、花弁となってみんな違うところへ進むのだ。飛んでいく花弁につられていつの間にか門を出ていた私は、2歩下がり小さく振り返った。


皆今まで、


「ありがとう」

中学校の校舎を見るといろいろな思い出が蘇ってくる。入学式の時もこうやってさくらを眺めてたっけ。涙が落ちてしまう前に門を出よう。




さくらは散ってしまったけど、次もまた美しい花になって輝いているといいな。

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