第8話 模擬戦
今、マルコとフレイアとレイラはゆっくりと簡易工場の地下に降りている最中だった。工場の奥の方が縦10M、横20Mほどの物資搬入出の為の
「まさか、あの上の廃工場の地下にコレほどの空間が広がっていたなんて」
と、レイラが小さく驚きの声をあげた。フレイアも頷いて同意する。
「まぁ、ココはそもそも工場ではないからな。元々、上下共に非常時に備えた物資を備蓄する為の倉庫だったのよ。ワシが持ち込んだ資材や整備機械や工作機械のせいで今は工場にしか見えんのも仕方がないがな。この倉庫の裏側にはワシの大型トレーラーが三台停めてある。
お前さんらも知っておる通り、ワシは〝
様々な人間と取引を行うマルコであるからこそ構築できている情報網の強さが発揮されたのだった。やがて
「よし、娘っ子共、準備を始めてくれ」
マルコの一声で二体のソレノイドは自分達と一緒に乗せて来ていた腰まである滑車付きの円柱の様な台座をそれぞれ転がして自分達の主の近くまで進んだ。この円柱の様な物は
「マスター〝
「マスター〝
フレイアとレイラは、それぞれに無駄なくテキパキと搭乗者達と連絡を取り合いながら準備を進めて行く。やがて五分ほどで双方が問題なくチェックを終えた。
「よ~し。じゃあ、始めるとするか・・・両方の機体に持たせてるのは模擬刀だから機体に受けても深刻なダメージが出る心配はないが熱くなりすぎるなよ。コレは戦闘データを取る為のテストであってコロセウムでやる様な〝バトリアント〟じゃねぇからな。二人共ちゃんと伝えといてくれよ」
「そんな近くで喚いてるんだから聞こえてるって」
フレイアとレイラの耳にロキとウルから同時に同じセリフが返って来た。二人がマルコに伝えると「わ~ってりゃいいんだよ」フンッと鼻息を一つ鳴らしながら答えた。
「じゃあ、行くか」
「おぉ」
と、ロキとウルが同時に答えると機体の
ロキの機体は〝先行突撃型〟と呼ばれる軽機型である。標準型の
仕掛けたのはロキの
しっかりと左の盾で受け止めたウルは驚く。軽量級とは思えない程の打ち込みであったからだ。だが、怯む事無くウルの青騎士も右の剣で打ち込み返す。が、右の剣を頭上に
ウルは今までに幾度か〝先行突撃型〟と呼ばれる機体と戦場で戦った事がある。
確かに速い事は速い。だが基本的な先行突撃型と云うのは大体、どちらかの腕に
一振りの武器を両手で構えて『攻めに次ぐ攻め』が先行突撃型の特徴である為、攻撃を防御されて打ち合いになった場合、小なりとは云え『盾』がある、ない、では
それを両手に剣を持ち攻撃して来るスタイルは操縦者の腕に余程の技量を必要とする。ウルは今の攻防でロキが尋常では無い技量の持ち主である事を実感した。
逆にロキの方も今のウルの反応を見て感心していた。自分が二激目を打ち込む前に後方に下がった反応の速さには目を見張る物があった。並みの傭兵では今の動きは即座に出来ない。容易ならざる相手であると確信出来た。
再び両者、武器を構えて間合いをジリジリと詰め始めた。
ロキは
体勢を崩した白狼に追い打ちを掛けるべく、さらに青騎士は左足を前に一歩を踏み出し右手の剣を引き突きの体勢に入る。
そして、そのまま閃光の如き一撃を繰り出した。勝負ありッ!――———とはならなかった。
白狼の機体が青騎士の目の前から消えた。ウルの目には一瞬、そう見えた。だが、そうではなかった。白狼がたたらを踏んだと見えたのは、そう見せたのだった。
距離を取り、振り向いた青騎士と再び対峙する。その時、両者のコクピット内に「マスター、テスト終了です」と、云う連絡が入った。
「どうじゃい。娘共。良いデータが取れたかい?」
話しかけられたフレイアとレイラがそれぞれ頷いた。
「問題ありません。各機関、伝達、駆動、全て上手く嵌っています。間違いなく以前よりも機体性能は向上しています」
「
フレイアとレイラの答えにマルコは、うんうん。と大きく頷いた。その時、
「ふぃ~、さすがは〝
「そんな変な
互いが健闘を称える。
「一応、データ取りは終わったようだが何か今後、機体に違和感でも出たら教えてくれ。じゃあ、娘つ子共は今回の
「わかりました」
二人、同時に答える。そして、ロキとウル達は機材を片づけた後、
「おいロキ、それにウルもだが、お前さん達、確か二人共、武器を手に入れたいんだったな?まぁ、ロキは今回とんでもない店に出張っちまったみたいだが、ウルも武器の補充をしたい。と、この前ウチに顔を見せた時に言っておったよな?」
「確かにそうだが・・・マルコのおやっさんアテでもあるのかい?」
そう疑問を呈したロキにマルコがニヤリとした笑みを浮かべた。
「丁度、昨日の事だが、ワシの知り合いがこの街に入った。〝
「・・・通常よりも割高・・・なんてオチじゃないだろうな?」
と。ウルがジト目でマルコを見た。
「ないない。一般流通しとる金額と同じじゃ」と、片手を振りながらマルコは答える。
「ま・・・実際に武器が必要なのは間違いないからな。今回はおやっさんの知り合いに頼むとするよ」
「仕方ねぇ。俺もそうするわ」
二人の了解を得たマルコは手を一つ叩いた。先に相手方に連絡を取り、了解が出れば直ぐに二人に連絡してくれる。と、云う事で話は落ち着いた。二人はマルコと別れた後、互いに連絡先を交換して、それぞれの
しばらくしてコンバット・ホームを運転しながらロキは助手席のフレイアに話しかけた。
「フレイア。マルコのおやっさんの話どう思う?」
「・・・はい。『質』に関しては信用出来ると思います・・・ただ・・・」
「ただ?」
「あのマルコさんの知り合いと、云うのが引っ掛かります」
ロキが頷く。
「だなぁ・・・なんか癖が強そうな気がする。しかも親切心だけから紹介・・・なんて事はないだろう。互いに紹介する事によって利益が出るに違いない。例えば、リベートを貰うとか情報共有する事によって得る物があるとか、はたまた、それ以外の理由があるのか・・・」
「マスター。もう一つ・・・コレが最も可能性がある気がするのですが、戦闘を通して素材の実験や兵器の実験を出来ると互いに考えているのではないでしょうか。特にそうした素材、兵器という物は、より強い戦士であればあるほど限界まで性能を引き出してくれる物ですから・・・」
「確かに。マルコのおやっさんとその知り合いって事ならあり得そうだな。後でウル達にも連絡して意見を聞いて見るか。通話番号も交換してるしな」
そうこうしている内に
こうした一連の中で修理全般を引き受けているのが今回ロキ達が来たソレノイド専用整備工場である。当然、今回の様な不測の事態が発生した場合、戦場で被害を被った場合等でも持ち込まれる。それ故に常時、複数のソレノイド達が工場内で何らかの処置を受けている。ロキがフレイアを連れて受付で手続きを済ませた後、一時間後にフレイアは精密検査を受けた。大きな損傷ではないが、中型の交換部品が10個、他にも小規模修理をする必要がある事がわかった。さらに、この際だからと修理だけではなく全体のメンテナンスも新たに受けさせる事にした。故障個所への
ウルに連絡を取ると自分とフレイアの会話に彼も賛同してくれた。似た様な感想をウルも相棒のレイラも持ったらしい。
ウルとの会話を終えると、ロキはダイネットの椅子に座り〔三次元立体コンピューター〕を起動させて
(左腕に取り付けたニードル・スピア・・・この前の戦いで二体撃破出来たがどうなんだろうな。割とバランサーが働いてても反動が結構あるんだよなぁ・・・外れた場合の隙も大きいしな・・・変え時か?このまま使うか・・・刀も研いでくれる
そうした事を考えていると着信音が鳴った。テーブルの上に置いてあった
「よぅ!俺だ。マルコだ。アーヴィンの奴と話がついたぜ。明日、以降ならいつでも良いから都合の良い日を教えてくれとよ。番号は ―———— だ。悪い奴じゃねぇからな。俺の紹介だと言えば話が通じる様にしてあるからよ。何かあったらこっちにも連絡くれ。じゃあな。」
と、一方的に連絡を切ってしまった。
「
「・・・名前はアーヴィンか・・・」と、呟いた。
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