第7話 白狼と青騎士

「・・・なぁ。マルコのおやっさん・・・一体、ナニコレ・・・」


と、一瞬、ロキは言葉を詰まらせながらカタコトになっていた。マルコに案内されるがままに四人はロキの愛機〝白狼フェンリル〟が整備されている場所まで来たのだが、


「どうだいッ!この機体美ッ!この完成度ッ!!」


と、白狼フェンリルを背に両手を広げて興奮するマルコに対して、ウルとレイラは(ふむふむ)と云う表情だったのだが、逆にロキとフレイアは唖然とした表情になって思わず出たのが先程の一言だった。


「いや、ちょと待てマルコ・・・何か俺の機体が相当、外見が変っている様に見えるんだが?気のせいか?」


「いえ。マスター・・・気のせいではありません。少し・・・いえ、大幅な改良が白狼フェンリルに施されています」


ロキの声にフレイアが冷静が答えた。


「いやいや、ちょっと待てッ!何でここまで変わってるんだッ!?確かに修理を頼んだが、完全に胸部も肩も装甲が別物じゃねぇかッ!と、云うか、もはや見た目は別の機体じゃねぇかッ!!」


「ハハハ。まぁそう興奮して喜ぶな。落ち着け」


「いや、喜んでるんじゃない。どちらかと言うと怒ってるんだッ!」


「うん?怒る?お前さんにはを先に取って於いたはずだぞ?何を今更、そこまで怒る必要があるんだ?」


「最初の話だと、新しいショック・アブソーバーを作ったからソレを俺の機体に積み込んで試すってだけの話だっただろうが。何で外装までが別物になってんだよッ!」


「いやいや、何を勘違いしてるんだ?それはお前がここに修理に持ち込んだ時の話だろ?俺は昨日、お前から直接それ以外の部分についてもOKの確認を取ったはずだぞ?」


「は?俺がいつそんな事にOKを出した?」


ロキには全くそんな覚えはなかった。が、マルコはそんなロキに向かって自信満々に言葉を続けた。


「ほれ。昨夜、お前がそこのフレイアをウチに持ち込んで来て直した後に帰り際〝金も良いが他の事でして貰う〟と、言っただろう。お前さんは〝わかった〟と、返事をしたはずだ」


ロキは右手をひたいに充てて昨夜の事に思いを巡らせた。そして、確かにココから出る時に何気ない会話の中でその様な事を言った事を思い出した。思わずフレイアを見ると、彼女は首を縦に振って(その通りだ)と、云う意思表示をした。


「いや、ちょっと待て。アレはそんなつもりで言ったわけじゃなくてだな・・・」


「おやおやぁ~〝白い牙〟ホワイトファングとも異名を取るロキともあろう男が自分の吐いた言葉を覆すのか~?」


(ぬぐぐぐぐ)


ロキは思わず言葉を返さずに歯を噛みしめた。まさか、あの時にこんな罠を仕込んでいようとは・・・内心(なんて悪辣あくらつな奴だ!この詐欺師!悪魔ッ!)等と悪態をついたが既に機体を組み上げてしまっている限り、やり直せとは言いづらい。何よりマルコの言う通り、彼の言葉に返事をしてしまったのは自分なのだ。そこまで考えた時、ロキはある事に気が付いた。


「ちょっと待てマルコ。昨日、ここに来た時、フレイアの修理を頼んでいる間、俺の機体を見たが、まだ外部装甲は取り外してあったし、内部パーツも取付中だったはずだぞ?」


「なんだ?そんな事か?それはな、お前らを追い出した後からさっきまでずっと作業を続けておったからだ」


「おい、マルコ。アンタ確か、昨日、九時間は寝ないと寝た気がせんとか言ってなかったか?」


「あ~そんな事も言ったかのぉ・・・・・・・ありゃ嘘だ。お前、案外〝純粋ピュア〟だのぉ。ワシは昔、戦争中だったとある国で72時間ぶっ続けで中破、大破した騎兵アーマー・ギアを直し続けた事がある。何とその時は二体のソレノイドの補助と共に13台もの機体を修理してロール・アウトさせる事に成功した」


そう言うと自信満々にロキに向かって右手でVサインを作った。


「ふっざけんなッ!俺の感謝の気持ちを返せッ!!」


と、喚くロキを見ていたフレイアは「はぁ・・・」と右手で顔を抑えてため息をついた。それを見ていたウルは大笑いして、レイラも笑顔で見つめていた。すると、まだ喚いているロキの横からマルコがひょいっと顔をウル達の方に向けるとニンマリと笑顔を見せた。笑っていたウルはその笑顔を見た途端、何か嫌な予感がした。


「ウルよ。お前さんの機体も既に出来上がっておるぞ」


「あそこにな」と、真ん中の簡易事務所を越えた先の対面の隅をマルコが指さすとウルは一目散にそこへと走って行った。レイラも後に続く。直ぐに奥の方から、


「おいぃいいいいいいいッ!!どうなってんだマルコぉおおおおおッ!!!」


と、云う叫び声がこちら側にまで聞こえて来た。ロキとフレイアはジト目でマルコを見たが、マルコは笑顔のまま「うんうん」と、頷いていた。今度は二人同時にため息が出た。


しばらくして、フレイアとレイラに二人の男は宥められ、ムスッとしながらも落ち着きを取り戻した。四人共、最初と同じ様に白狼フェンリルの前に集まって来ていた。


「よし。お前らも落ち着いた事だし。機体の説明と行くぞ~」


と、マルコがウキウキ気分で話を始めた。


「まずはだ。お前さん達、二人の機体で共通している胸部から肩にかけての装甲の形状だ。多少の違いはあるがビーム兵器を逸らす為に出来ておる。特に肩部は緩やかなカーブを描いておるだろう。アレは現在とある企業が開発した最新鋭の設計だ。大量に出回っておるタービル社やフロメンス社製のビーム・バズーカ程度なら5~6発は受け流す事が出来る。ソレが出来る理由は設計だけではなく表面をコーティングしてある流体金属層にもある。ロキにウル。二人共、ちょっと白狼フェンリルの胸部や肩を触ってみぃ」


二人は言われるがままに一人づつ両側の昇降デッキに乗り、上昇させると左右から胸部や肩口を触った。


「おぉ。何かヌルっと滑ると云うか・・・だが油ってわけでもなさそうだな」


「あぁ。微妙な滑りだ。ツルツルってわけでもない。指を滑らせるとそれとわかる程度の物だ」


ロキとウルはそれぞれに感想を言う。


「それがコーティングだ。二層目装甲に関しては、ロキの機体は胸部、肩部、腕部、脚部、各装甲に厚さ15ミリの真鋼しんはがねが使用してある。この星だと余り出回ってない素材だ。軽さ、それに柔軟性、強靭性どれも優れている。そして、ウルの機体は20ミリの真合金製だ。ロキの機体と比べて若干、重量は増えるが機体強度は上になる。剣と盾を構えるスタイルのお前さんだとある程度ダメージを気にせずに斬り合える」


「ほほぅ。最初は面食らったが、今、聞いた感じだと中々、良い改良っぽいな」


ウルが感心するとロキも頷いた。


「次に内部の部品に関してだが、まず、二機共、伝導率を上げる為にアドゲルン液を高純度の物に変えてある。ATオート・トランス・ミッションは、ギアボックス内の繋がりを0・05秒ほど縮める為に歯車を一部、変更した。もちろん、二機のATオート・トランス・ミッションは違うから歯車も同一の物ではないがな。コクピット内のセンター・クラスター周りも部品交換したからモニターの視認性も良くなってるはずだ。後、胸部装甲部の透過システムも視野角は変わらんが、バック・モニターに変更した場合、モニター上部に表示される範囲を少し大きくしてみた。前からの変更点はこんな処になる」


ロキとウルは黙って説明を聞いていたがフレイアが口を開いた。


「あのマルコさん。駆動部分はどうなのでしょうか?」


「うむ。どちらの機体も今回は駆動部分に関しては弄っていない。亀裂も損傷も全く見受けられんかったからな。耐久力もまだいけるだろう」


「そうですか」


と、それだけを言うと、フレイアだけではなくレイラまでもがホッとした表情をしていた。なぜかと云うとマルコの今の説明で二人のソレノイド達は今回の出費の概要が既に計算出来ているからだ。


「今回、ウルからは事前に機体の強化を依頼されていた。更に昨日、ロキからもを得た事で以前から構想しておった二種類の装甲を実装出来た。値段も少しはサービスしておくぞい」


と、マルコは背後にいたフレイアとレイラの方を向いて右手の親指と人差し指で丸を作った。フレイアとレイラはソレノイドにも関わらずキラキラした瞳でマルコを見詰めた。いつの時代もの言葉は強いのだった。


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