第3話 コンバット・ホーム

マルコの店を後にした二人は、格納部を空にしたコンバット・ホームに乗り、戦闘車両専門の駐車場に来ていた。旅行や商用のモーター・ホームとは違い、コンバット・ホームはかなり大きい。故にどの街にも専用の駐車場があり、ほとんどの都市国家では、決められた場所で駐車する様に〔法令〕で定められている。又、他の理由としては、住民達への交通阻害の抑止や治安の関係の面もある。

二人が乗ったコンバット・ホームが、マルコの店から三十分ほどかけた場所にある駐車場に到着した時、巨大な倉庫と形容すべき屋内駐車場の入り口上部には、空きが(四台)と立体表示がされていた。『満車』までには何とか間に合った。駐車場の空き情報は事前に車内モニターからネット・ワーク上で確認していたが、残り数台の空き表示だと到着した頃には満車になっている事が度々たびたびある。

ロキ達は日が暮れてから街に入った為に事前予約をしておらず、実際に到着してからでないと安心は出来なかった。

例えば『満車』の場合、新たな駐車場を探して移動する事になるが、疲れた者達は億劫になり、自動運転オート・ドライブに切り変えて車両任せにする者も多い。

只、自動運転オート・ドライブといっても、疲れた体で街中を彷徨さまよう様な事は心理的に落ち着かず、さらに疲れるので出来るだけ避けたい。と、言うのが多くの者達の本音である。今回、そういった事をせずに済んだ事はロキ達に取っては幸運だったと言える。

駐車場内から出て来た案内車両ナビゲーション・カーに従って案内された場所に無事、駐車した後、ようやく人心地が着いたロキは、運転席の後部にあるダイネットで遅めの食事を取る事にした。フレイアが壁側の保存庫から圧縮パックされたステーキ肉をキッチンで焼き始めると二分程で完成した。半分ほどの品でもあるのだが、熱も通りやすく加工されている優れ物で旅には欠かせない。自動釜でライスは五分で炊き上がり、後は添え物として、湯に戻した乾燥野菜を用意した。

コンバット・ホームはまさしくである。運転席の真後ろには、自動空調調節装置、ミニ・キッチン、レンジ、小型冷蔵庫、小型自動洗濯乾燥機、ベッド、等、日常生活に必要な物は全て揃っているだけではなく、トイレとシャワーも狭いが区割りされて設置されている。この車両一つで生活が成立するので非常に便利な乗り物として、長距離移動する者達にとっては必須な存在といえた。更に後方の格納部の両側の壁には、折り畳まれた簡易ベッドが存在し、ベッド裏にはメンテナンス用の様々な工具が取り付けてある。


ロキが食事を取り始めたので、相棒パートナーのフレイアは彼の対面にちょこんと座って彼に「TVでも付けましょうか?」と、うながした。

《ソレノイド》と呼ばれる者達に食事は必要がない。彼女達のエネルギー源は胸の奥に内蔵された〔アストラル・コア〕である為だ。更に何らかの事故により、コアが破損した場合の予備として〝時限電池〟もセットされており、電池の寿命は130年前後にもなる。人類の寿命に相当する時間をソレノイド達はエネルギー供給無しで稼働し続ける事が出来るのだ。

敢えて必要な事を挙げるとするのなら、人間同様に体についた埃や汚れを落とす為にシャワーを浴びる事、部品の消耗を抑える為の〝休息〟や、定期的に所定の場所で〖完全走査フル・スキャン〗して体内に微細な異常が発生していないかを確認する事くらいだ。

只、通常時もソレノイドは常に簡易的な『自己走査セルフ・スキャン』を自動的に繰り返しており、外部から直接的にダメージを受けない限りは問題発生する事も少ない。


「そうだな。戦線がどうなっているか気になる。映してくれ」


ロキからそう言われたフレイアはダイネット・テーブルの横にあるスイッチを一つ押した。直ぐに二人の前に三次元立体映像が展開した。フレイアがリモコンでニュース・チャンネルに変えると、丁度、二国の都市国家同士の戦況がニュースで流れて来た。

紛争や戦争が発生すると、作戦行動の流出を危惧して報道管制が必ず布かれる。不用意に衛星カメラ等で戦場を映そう物なら衛星を物理的に破壊された上に企業としての報道資格も取り上げられてしまう。

よって紛争や戦争が発生した場合の報道は基本的に軍からの発表と云う事になる。それを報道局がニュースとして流すのだ。もちろん戦地の近くにはカメラマンや記者が詰めて軍関係者からの発言を得てはいるが、軍による公式発表と大差は無い。この辺りは人類の歴史が何千年立とうが変わりはない。

しばらく二人してニュースを観ていたが、食事を食べ終えると同時にロキがTVを消した。


「・・・当たり障りのない事しか流れていない・・・どうやら俺達が撤退した後も膠着こうちゃく状態は続いている様だな」


「その様ですね。私達の『契約』が今日の午後12時まででしたから、契約満了まで戦線が維持されたのは僥倖ぎょうこうでした」


「それでだ・・・俺達としては、今後、どうするかだが・・・お前はどう思う?」


「・・・そうですね・・・傍から見れば、戦況は拮抗した様に見えるかも知れません。ですが、現在の状況を深く洞察出来る者が見れば、ヴィーネ陣営は非常に不利な状況になりつつあります。いずれバランスは崩れると思われます。いつになるかはわかりませんが、再度〝傭兵〟として契約するのならその時がチャンスかと」


〝どちらの陣営に着くのか〟と、フレイアは聞きはしなかった。今の状況ではどちらの陣営も自分達の様な未雇用の傭兵にとってはチャンスに成り得るからである。


「・・・戦線が開かれて三か月、その間に三度の大規模な交戦が発生したが、ヴィーネの突撃は決め手にはならず、互いに引いて未だににらみ合いが続いてる。そろそろ、どちら側も戦況を打破したいはずだ。双方の戦力差が出るならコレからか・・・戦略と兵器の質と運用で差が出るかも知れないな」


「おっしゃる通りです。では、今一度、現状の確認をなさいますか?」


「頼む」


「それでは・・・まず、私達が傭兵契約していたこの国ヴィーネの総司令官はロベルト・ラビッツ辺境侯ですが、普段は首都である〝ヴェスティオス〟に勤めていますが、地方に領地を保有しており、野盗討伐に関しての功績を残している人物です。。対するアムルスの総司令官はカール・エッケル伯爵で、こちらはずっと所領から出る事もなく、自領を統治している人物です」


「侯爵だとか伯爵だとか、まるで遥か昔の中世の階級の様だな」


「フフ。そうですね。人類の歴史はある処まで行きつくと、原点回帰するのかも知れません」


「まぁ、いい。で、お前はどう見る?フレイ」


「はい。今の膠着している状況が崩れて押され始めるとするのなら、今日、私達が契約終了したこちらのヴィーネ側だと思われます」


「なぜそう思う?」


「はい。私はこの国に入った時に現在、発表されている最新情報と過去の出来事をこの国の図書館ライブラリで三十年程ではありますが調べて於きました。アムルスに関してもこちら側からわかる限りのデータを取得して於きました。そうした事から推測させて頂きます」そう前置きした後にフレイアは彼女なりに導き出した事を話し始める。世代の新しいソレノイドほど分析、判断能力は高い。


「私は先ほどロベルト・ラビッツ辺境候は中央に勤めていると言いましたが、つまる処、彼は‶高級官僚〟なのです。野盗討伐に関しても、実際は対応の全てを部下達が行っており、彼は適切に処理する様に指示を出していたに過ぎません。〝部下の功績は上官の功績でもある〟・・・故に、彼の功績とされているに過ぎません。逆に敵側のカール・エッケル伯爵は、自領の統治を行って来ましたが、その自領は、今回、戦線が開かれた〝アヴェリア平原〟と隣接しております。平原に関して土地勘もあり、何よりも攻め込まれたり、負けたりすれば、自身の領地に被害が出る可能性があります。それ故、確実に勝利を目指すでしょう。」


「なるほどな・・・だが、そもそも、ヴィーネの上層部はの無能な男を、なぜ今回、全軍を指揮する立場になんて指名したんだろうな」


「・・・これはヴィーネの内政状況から導き出した私の予測ですが」と、前置きした上でフレイはヴィーネ側の問題点を話し始めた。


「ヴィーネは恐らく今回の状況に適した人材が上層部にいないのだと思われます。ヴィーネは〝紛争〟や〝戦争〟を数百年間、回避し続けて来る事に成功して来ておりました。現在のヴィーネ上層部は、家柄やコネクション等で入り込んだ者達が大半で、その下にいる一般の官僚が主に内政や経済を回しています。要するに上にいる連中はなのです。ですから、実践に於ける指揮を執った者など誰一人おらず〝野盗討伐〟と、云うの実績を与えられていた彼にお鉢が回って来たのだと思われます。しかし、今回、《外交部》がアムルス側と北部鉱山の件について交渉決裂した結果は高級官僚のみならず一般官僚達に取っても予想外だったに違いありません。今までこの様な都市国家間で問題が起こった場合は、常に上手く解決が出来た為、今回も上手く行くと勝手に思い込んでいた節があります。そして、いざ、戦端を開かなければならなくなった時、ヴィーネの軍は非常に脆弱な体質が露見してしまったのです」


「・・・お前の予測通りだとすれば愚か過ぎるな」と、ロキがため息をつきながらげんなりした表情になった。


「その通りです。本来、紛争や戦争など無くとも、いざと云う時の為に軍事力を備えて鍛えておくのが国家としての基本です。ですから、多くの都市国家はと称して、軍同士を競わせる《模擬戦》を年に一、二度は必ず開きます。コレは自国の軍の戦闘経験を増やすと同時に〝軍需産業〟が開発した兵器テストも兼ねている物で、国防を考える上で非常に重要な案件です。しかし、ココ数百年間、大規模な紛争も戦争も起こしていないヴィーネは、そういった《模擬戦》すら、近年、行った記録がありません。恐らくの無駄だと考えて止めてしまったのだと思われます」


「・・・今、平和であるから未来も平和である・・・そんな保証など何一つ無いのにな。平和とは維持する努力を続けてこそ保てる物。ソレを怠った時、小さな綻びから国家は〝滅亡〟する。長く続く紛争や戦争が国家を腐敗させるのと同じく、長きに渡る平和も同様に国家と民心を腐敗させると云う実例だな」ロキは何処か諦観ていかんした様に呟いた。


「それにしてもヴィーネの総司令官の内実が例え素人同然だとしても、彼を補佐する為の副官やソレノイドもいるんじゃないのか?特にソレノイドは人間と違って、地形や軍の内部構成を学習させて〔戦略特化〕させる事も出来るはずだ。適切な助言が出来ると思うんだがな。まぁ、ソレは相手も同じだろうが・・・」


「・・・ソレなのですが、恐らくロベルト・ラビッツ候は様々な提案を‶却下〟している可能性があります」


「却下だと?なぜそんな事になる」


「そうですね・・・彼の指揮する軍が〝アヴェリア平原〟で取っている軍の陣形は鋒矢ほうし陣形です。コレは軍を矢印型に編成して先行突撃に特化した陣形です。そして、左右両翼を傭兵部隊が支える形に配置しています。私達がいたのは右翼でした。問題は、なぜ、この陣形を取ったかですが、ソレは恐らくこの紛争を出来るだけ短期間で終えたい為だと思われます」


「確かに短期間で終えるに越した事はないが〝紛争〟なんて思い通りには行かないだろう・・・戦況を打破出来たとしても、相手側が引いて防備に徹すれば直ぐに降参などしないだろうからな・・・・・・ん?ちょっと待てよ。短期勝利を目指してる?まさか、理由は、また‶コスト〟じゃあるまいな?」


「・・・そのです。ロベルト・ラビッツ候は素人とはいえ前線で指揮をしておりますから状況は把握していると思います。しかし、事務方から予算が降りないのだと思われます。正規の軍は先頭車両を覗いて直接戦闘に参加できる機兵あーマー・ギアの数は250機ほど。今回の急な紛争勃発ふんそうぼっぱつにより、正規の軍を備えている時間も鍛えている時間もありません。だからこそ正規軍を守る様に左右に傭兵を雇用して200機づつ配置しました。しかし、この事によって準備した予算の大半を使い切ったのでしょう。だからこそ、一度ならず三度共、鋒矢ほうし陣形による突撃で相手の防御に穴を開けて楔を打ち込もうとしたのだと思います。しかし、敵は三度共、厚いおう陣形を三重に組んで跳ね返しています」


ロキは頭痛がする思いだった。この様な突撃命令のみをされる部下達が哀れでならない。


「マスター、私達がヴィーネと契約した時の事を覚えていらっしゃいますか?通常、傭兵の契約には、一か月の『固定給金制』と固定給金は低いけれど撃破数でボーナスが増える『出来高制』の二種類がありました。当然、マスターは出来高制を選択され、三度の戦いで合計撃破数17機のスコアを挙げました。そして、契約延長される事もなく現在、契約終了に至りました。コレも恐らく‶コスト〟が原因です。優秀な傭兵の撃破数が増える度に戦費がかさむと云う考えからです」


通常、優秀な兵士と云う物は、多額の報酬を用意してでも自軍に引き入れるのが当たり前である。ソレをヴィーネの指揮官ロベルト・ラビッツは、の事をやっているのである。自国が敗北すれば全てが終わってしまう。と、云う思考が、予算の関係で出来ないのである。コレは長きに渡る平和が招いた弊害。生き死にが掛かる戦いでさへ思考を切り替える事が出来ないヴィーネ内部の〝致命的〟な欠点。と言えた。


「そういえば、二週間前だったか・・・次の更新は無い。と、連絡が来たのは・・・俺の隣でホームを停めてたエルノも契約更新されなかったとボヤいてたな」


「そう言えば」と、フレイアは何かを思い出した様に左手にポンと右手をわざとらしく置いた。


「伝えそびれておりました。そのエルノさんですが、マスターに「無理するな。と、伝えといてくれ」と、言い残して、脱兎の如く戦場から離脱されて行きました。確か、マスターと同時期の契約ですが、撃破数12機の腕前もさる事ながら、でも定評がありますね」と、フレイが幾分か冷たい口調で呟いた。


「まぁ、そう言ってやるな。アイツの行動は傭兵ならば当然の行動だ。時間外まで働いても何も得る物はないからな」


「・・・・・・私が気にしているのは、なぜ、マスターもエルノさんの様に契約時間終了に合わせる様にホームに帰投して下さらないのか。と、云う事なのですが」と、ジト目でフレイがロキを見つめて来た。ロキは慌てた。


「・・・え?・・・いや、帰りたくとも近接で戦闘中だと中々、思い通りには行かないというかな」と、フレイの冷ややかな眼差しに対して、幾分、引き気味にロキが答える。


「私はマスターの機兵‶白狼フェンリル〟をホームでモニタリングしていましたが、混戦時には確かに契約終了時間になっておりましたが、その後、押し返したにも関わらず、三分ほど、余計に戦っておられましたよね?」と、言うと、ずい・・・とフレイは顔をロキに近づけた。


「え?ほ・・・ほら。押し返した後、「押せ!押せ!!」ってなるだろ。で、気が付いたら時間を超えてたから急いで帰って来たんだって」ロキはしどろもどろになりながら必死に抗弁した。


「私の仕事はマスターを全力でサポートし、身の安全を最大限に考える事です。後、一分、遅ければ、戦地で営業している〝武装店アーマー・ショップ〟から〔回収用機兵アーマー・ギア〕をレンタルして迎えに行く処でした」


「いや、動けなくなったわけでもないのにやめてくれ。恥ずかしいから・・・」引き気味にロキが答える。


「やめてほしいのなら、契約時間終了を超えてまで。でないと、恥ずかしい状況を戦場で作る事になりますよ」と、念押しされてしまった。


「わ・・・わかった(何でこんなに怒られないといけないんだ)」


「・・・マスター。何かご不満でも?」両手を腰に充てて、さらに顔をジ・・・と、近づけられた。もはや、キスでもしそうな至近距離である。ロキは「いや、ないない。何も不満なんてない」と、フレイアのに両手を挙げて降参した。



人間とソレノイドとの関係には奇妙な物がある。人によって造られた存在である彼らは『物』と同様に認識されている。しかし、会話をし、常に人をサポートし続ける様に造られたが故に、只の『物』とは違った扱いを受ける事が大半なのである。

特に‶傭兵〟のを務める事になるソレノイド達にはが顕著に現れる。人と違い、どの様な場面でも決して裏切る事はなく、自信の身を呈してでも主人を守ろうとする彼らに対して、人は同じ人間以上の信頼を寄せたのだ。


ロキとフレイアが初めて出会ったのは三年前。ソレ以降、彼女は常に彼をサポートし、彼の身の安全を第一に考え、共に行動し、性行為の相手も務めて来た。

ロキにとってフレイは特別な存在と言えた。もちろん、ソレは彼に仕える様に2cm×5cmの小さな《記憶領域ストレージ・エリア》に入力された命令に過ぎない。しかし、彼女の中には、日々、ロキと行動を共にする事によって様々な経験を学習していった結果もたらされた〖人格〗とも言える存在が既に形成されているのである。そして、ソレノイド達のに人間の宗教研究者や科学者達は、過去から現在に至るまで解決し得ない問題を新たに抱えたとも言える。

‶そも『魂』とは何なのか?〟と、云う命題である。『魂』が存在し得る故に人を人たらしめるのか?と、いう疑問に〝ソレノイド〟と云う存在が新たな小波さざなみを搔き立てたのだ。すなわち〖人格〗とも言える個性を掴み取る事に成功した〝ソレノイド〟と云う存在達も人と同列の存在たらしめるのではないか?と、云う考え方である。こうした考えは、この大陸どころか他惑星に於いてさえ激しい議論を呼び、未だに解決の糸口も見えていない。いや「永遠に解決し得ない」と云う人間も多い。五つの惑星で構成される〘ヤマト皇国〙では‶万物に『魂』は宿る〟と、云う考えの下、〝ソレノイド〟と云う存在を『物』と規定しながらも、大切に運用する方針が取られていると云う。もちろん、その反面、世の中には、あくまでソレノイド達を『物』として、ぞんざいにしか扱わない人間達もいる。しかし、少なくともロキにとってフレイは、只の『物』では有り得なかった。

ロキとフレイは【死線】を何度も乗り越えて来た掛け替えのない相棒パートナーなのである。故に頭が上がらない場面が出て来てしまう事もむべなるかな。又、現実に多くの傭兵達が同じ人間よりも自身の相棒パートナーを信頼している事の方が圧倒的に多いのが現実である。



「取り合えず、数日は俺達も騎兵アーマー・ギアのメンテで動けないからな。メンテが終わった後に、もう一度、戦況を見てから行動に移るとしよう」ロキはそう言うと先ほどまでの話を切り上げた。


「わかりました。では、マスター、明日の予定はどうされます?機体はマルコさんに預けましたから武器の購入にでも向かわれますか?」


ロキが素直に注意を聞いたおかげかフレイアはいつもの調子に戻っていた。本来、ソレノイド達に感情の起伏はそれほどない。《抑制機能》が備わっている為だ。ある程度の喜怒哀楽はある物の、ソレが常軌を逸した激怒、憎悪に変換される事が無い様に設計されている。感情の爆発は冷静な判断を失い〝愚行〟に走らせる。ソレノイド達に求められる事は、あくまで人のであって、人と同じ様に感情に任せた行動を取る事ではない。


「そうだな・・・装備も心許ないし、剣も研いでもらう必要がある・・・そうするか」


「では明日の早朝にこの街の武器を購入できるお店を検索して予約を入れておきますね」


「あぁ。頼む。それじゃあ取り合えずシャワーでも浴びて寝るとするか」と、伸びをした。


本来、ソレノイド達に睡眠は必要が無い。その利点を生かして様々な企業の生産工場ではラインに沿って単純労働する機械と同様に24時間労働に従事させている処もある。だが、幾らソレノイド達が頑丈に出来ていると言っても、定期的なメンテナンスと休息を与えなければ、予期せぬ故障の原因となり得るのは一般の機械と同じである。だからこそ多くの企業は12時間前後の労働をさせた後、5、6時間、前後はカプセルに入れて機能をシャットダウンさせて休ませる企業が多い。

傭兵とソレノイドの関係も似通った部分が多く、主人である人間の生態に合わせた生活リズムを取らせる者達は多く、主人が寝る時間に合わせてソレノイド達も‶スリープ〟状態にして休息させた後、主人が頼んでおいた時間に起こす様にしている。ロキとフレイアも同じであった。

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