第8話 やさしいテロリスト
昭和50年代には、釜石の東日本製鉄(ひがしにほんせいてつ)が合理化などのため、溶鉱炉を停止、操業の一部を縮小するなど地域経済にはマイナスとなる出来事があった。
それと入れ替わるように釜石から北方に50キロ離れた宮古市には北日本電力が参入して田老地区に最初の原発が誘致されることとなる。
当初反対されていた原発誘致が一転、賛成派が増えたことにより、田老地区摂待に岩手沿岸に第一号の原子力発電所が完成する。
その15年後(平成一桁頃)には、同じく宮古市重茂地区に、特殊ケーソンによる対地震津波対策が施された重茂原発が完成し、稼働を始める。
旧川井村には、原発関連の企業が増え、また、放射性廃棄物の最終処分場としての川井市へと変わっていくのであった。
本来の原発のない現実の宮古市とはちょっと?いや、かなり?いやいや、全然まったく違う宮古市の物語。
節分の時期が近くなり、スーパーやコンビニでは、大手食品会社の有名お菓子が、どの店先でも見られるようになり、
2011年一月ももう終わりかけている岩手県沿岸に位置する宮古市。
駅ビル【MIYAKO385】でマユと主人公が、マユの友達である皐月美春(さつきみはる)と如月深雪(きさらぎみゆき)を待っていた。
美春は内陸部に近い蟇目から、深雪は宮古よりの豊間根から宮古高校へ通っている。
もともとは、この二人、市内の中心部に暮らしていた。三人は小中学校が同じ仲良し三人組だったのだが高校に入る前に親の都合でそれぞれ遠方に引っ越してしまった。
美春、マユ、深雪の順の学力で一番苦労したのは深雪である。同じ宮古高校に通うため必死になって深雪は勉強した、美春、マユも手伝って三人揃って合格できた。
物心もつかない時分から遊びも勉強も共に過ごした三人はそうそうのことでは仲違いなどはしない。
時刻は11時もうすぐお昼、着き次第目的の店に移動する。
美春「おっはよう~あれ?今日はラーメンの汁まみれになった男の子同伴なの?」
マユ「うん、いろいろ事情があってこの子に宮古市内を案内しなきゃいけないの、ごめんね」
美春「ううん、マユのお誘いだもの。さ~て、今日はどこのお店かな」
深雪「おいっす~マユ、美春。おっ、今日はめずらしいお客さんも一緒ね。あたし、お腹空いた~はやくいこっ」
摂待に関する記憶しか残っていない主人公に2011年の宮古を知ってもらうためマユが主人公を誘った。
というのは口実で今回も目的は・・・。
深雪「あたしもマユと同じで」
美春「わたしも~」
主人公「ボクも同じでいいです」
マユ「かつ鍋定食四人前おねがいします~・・・あっ、わたしは特盛で(^▽^)/」
いつもは、注文がバラバラの3人なのだが、今回はめずらしく注文が一緒になった。
4人のテーブルの隣には、作業着姿の中年が三人いて、こちらをやたら見てくる。ちょっと大柄なイメージの大人たちを尻目に料理を待つマユたち。
他には、店の一番奥のテーブルにひと際、背の高い黒い丸眼鏡をかけた男性が、食事は定番のBullet(バレット)ハンバーグそして何故か3杯のグラスには牛乳が・・・
この店のメニューに牛乳って?
その黒メガネの男性を深雪はさっきから気にしている。
マユ「どうしたの深雪?誰か知ってる人?」
深雪「ううん、ねえねえ、あの人外人じゃない?なんかフランス人っぽいよねILCで岩手に来た学者さんだったりして・・・」
美春「深雪の病気が始まった~いい男見るとすぐそう勝手にストーリー作っちゃうし(微笑)」
主人公「外人っぽいけど、どうかな・・・確かに背は高いね」
マユ「ボク、タバコ吸わなくて大丈夫?昨日のコンビニから吸ってないようだけど」
主人公「あ~一応吸わない人がそばにいるときは吸わないようにしてるんで、未成年だし・・・一応(見た目が)」
深雪「えっ、この子タバコ吸うの?子供が、外で吸うって結構勇気がないとできないよね」
マユ「うん、だけどこの子中身は25歳のお兄さんなの、まるでそうは見えないんだけど、見た目の子供っぽさをあまり感じないのよね」
美春「中身が25歳?ふ~ん、中学生にしか見えないな・・・」
主人公「ん~・・・ま~・・・そうなのかな・・・ハハッ(汗)」
この二人に地震の話題を出してもいいかマユは迷った、マユは、この場の和(なご)やかな雰囲気を壊わすのが怖かった。
かつ鍋定食をたいらげた4人の隣を黒メガネの男性が通り過ぎる。背が高い、店の天井に頭が当たりそうなほどの背丈は優(ゆう)に2メートルはある。
その黒メガネの男性の先には、三人の作業着姿の中年が会計をすませて店をでるところだった。
マユたちも神社のツケとして会計を済ませる。深雪が先頭に立ち、きょろきょろ辺りを見渡す。見つけたのか、さっきの背の高い黒眼鏡の男性のあとを追う。
美春「大丈夫なの?気付かれたらヤバくない?」
深雪「そんときは我らがマユ様に守ってもらうの、ね~」
黒眼鏡の背の高い男は、中年の三人組をつけていた。それを知らずに黒眼鏡を尾行する4人の子供たち。
黒い丸眼鏡の男は、店を出て市役所方面へ歩いていたが、途中で左に曲がり、飲み屋街のほうへ。
夜になるとアルコールの回った天使が多数、徘徊する場所なのだが昼間は人っ子一人いない閑散としたところである。
ほとんどの一方通行は、高層マンションが建つときに区画整理も同時にされて、無くなってはいたのだが、飲み屋街には人目につきにくい
袋小路がまだそこかしこに残っていた。そんな袋小路の一つに丸眼鏡の男の姿が消えた。後を追い袋小路に入る主人公とマユたち。
作業員風の中年の男A「よう姉ちゃんたち、俺らになんかようがあんのか?」
作業員風の中年の男B「遊びたくてついてきたのか?」
品の無い下卑(げひ)た笑みを露骨に出す中年オヤジたち。
マユ、美春、深雪、主人公 (!!!)
黒眼鏡の長身を追ってきたはずなのだが、袋小路にその姿はなく、代わりに横柄な男たち三人が、マユたちを待ち構えていた。
マユたちに、因縁をつけてくる作業員風の中年の男たち。明らかに、女子高生をどうにかしようと考えているのが見てとれる。
深雪「あれ~あの外人どこに消えたの!!というかこのオッサンたち気持ち悪いし・・・」
美春「絵にかいたようなピ~ンチ、どうするマユ?」
マユ「え~と・・・、ボク!!男の子でしょつ!何とかしなさいよ!!」
マユ、深雪、美春は、主人公の背中を押しながら隠れるようにしている。
作業員風の男A「なぁ、こんな風にあとをつけてきたってことは普通、遊び目的にしか取りようがないよな?」
作業員風の男B「まったくだ、その気になった責任は取ってもらわんと、なあネエちゃんたち!」
宮古市は、自己愛性アイデンティティ障害の人の割合が多い。エロオヤジの都合のいい解釈で無理やりやられた子は少なくない。
狭い土地だけに、広まるのを恐れて泣き寝入りする子、ほぼ強姦に近いものも無かったかのようにされる宮古の女性は本当に気の毒である・・・。
勘違いで結婚し、勘違いのまま家庭も子供ももうけてしまう。そんな家族がないとは言えないのが怖い宮古・・・。
節操のない人々がいなくなる日はいつのことだろうか・・・。
さらに距離をつめるオッサン三人。主人公は、脅え切って抵抗する気力もない。なんとも情けない・・・。
オッサンたちが距離を縮めた分、後ずさりする4人。
一番後ろにいた深雪が何かに足をとられて、お尻から転ぶ。
深雪「痛った~い!!何これ?」
ゴミ集積所の脇から誰かの足が出ていてそれにつまづいた。年寄りがいびきをかいて寝ているではないか。
それを見たマユが、
マユ「阿刀(あと)じいちゃん!何でここに??」
そこには、赤ら顔のアト爺が、仰向けになって酔いつぶれていた。失禁したのか股間が黄色い・・・。
アト爺「ん~、酒持ってこ~い、誰じゃお前らは~・・・」
アルコール臭い息をまき散らしながら、マユたちの前へ出て、ちょうど作業員風のオッサンたちと対峙する格好になったアト爺。
その目は・・・いつもと違ってすわっている。
作業員風の男A「なんだ爺いっ!フラフラしやがって!」
作業員風の男B「くそがっ!やっちまえ~!」
アト爺に襲い掛かるオッサン三人。蹴ったり殴ったり必死なのだが、何故か酔っているアト爺には一発も当たらない。
作業員風の男C「くっそ~このじじい本当に酔ってんのか?全部よけやがる」
アト爺「なんじゃっお前ら酒持っとらんのか!!ダメじゃダメじゃ、そんなものは弟子にはせんぞ!!」
と言った直後に、オッサン三人は見えない風か何かによって吹き飛ばされる。したたかに頭や体を打ち付けたオヤジ達はそのまま動かなくなった。
のだが、当のアト爺もその場にへたり込んで、いびきをかき始めた。
マユ「なんか、助かったっぽいね(微笑)」
美春「この人、マユの知り合い?」
マユ「うん、お父さんに用事があって和歌山から来たお客さん。一応エライお坊さんなんだって」
深雪「助かったのはいいけど、私の黒眼鏡はどこに隠れたの?」
主人公「とりあえず、アト爺ちゃんを連れて神社に帰ろうよ。あいつらが起きないうちに」
マユ、美春、深雪「だねっ」
マユと主人公で、アト爺をささえる。その後ろをついてくる深雪と美春。
深雪は、背が高い黒眼鏡を探したいところだったが、自分のせいで友達に迷惑をかけてしまったこともあり、ちょっと反省をしていた。
マユ、美春、主人公もお互いに埋め合わせしなければと思いながら、破戒僧に助けられた乙女たちは、白森神社へ向かう。
*
マユ、主人公、アト爺が去ったあと、作業員風の男に近づくものがいた、黒メガネの長身の男。
男は、三人の衣服を調べ、何かを探している。一人の男のポケットから【 電子銃 】がでてきた。
そう、この三人組のオッサンたちは、原発関係の作業員なのだ。
黒眼鏡の男「ふんっ、さすがに街中では使わなかったようだが、拉致ったあとにこいつで脅してことに及ぼうとしてたわけか・・・」
下閉伊地区の男は節操がない。奥さんいようが、彼女いようが、本人いなけりゃ浮気も何でもアリが普通。
一途な女性からすればたまったものではない。【 地雷に当たらないように男を探す 】のはほぼ不可能に近いのだ。
宮古で男をあきらめて、他所の土地へ移住する成人女性も少なくない。
2011年1月末 宮古市末広町
マユ、美春、深雪、主人公、アト爺は、大成文具店前のスクランブル交差点で信号待ちをしていた。
ここまで来ればさすがに襲われることはない。人通りが多いし、見えるところに交番もある。
その交番のほうから来る車の動きが少し変なことに気付くマユ、道路の中央を何かが歩いている、よくよく見るとそれは、ネコの親子。
カルガモの道路横断はテレビで見たときあるが、ネコの道路横断を生で見るとは思っていなかった4人。
ネコの親子たちは悠然と道路の中央を歩き続け、まったく道路脇によける様子にはない。
車が渋滞してきて、そのうちの一台が割り込んで無理やりネコの親子の前に飛び出してきた。
マユ「あっ、・・・誰も助けないの?」
美春「交番の警官、いないのかな?」
ネコの前に飛び出してきた車。もう轢きそうなくらい近づいたそのとき・・・。
ネコを守るように一人の長身の男が車とネコの間に、その身をおく。
男の手には、ケージが。それを開いて中にネコの親子をケージに引き入れ、すぐにその場から消えてしまった。
それを見ていた深雪が、
深雪「あっ、あんなとこに・・・しかもネコを助けるとか、やっぱりやさしい人だったね」
マユ「うん、いい人だね」
ネコがいなくなった道路をいつものように過ぎ去る車。
交差点の信号が赤から青に変わり、渡りはじめる主人公たち。
深雪「明日も眼鏡のお兄さん探そうかな、なんて」
美春「よっぽど気に入った?まあ、背~高いし、モテるよね。敵は多いよ深雪ちゃん」
深雪「うん、でもここら辺の男よりずっといいよ、移り気で浮気性の宮古の男は嫌いなんだ」
マユ「深雪ちゃんの標的(えもの)は決まったね。」
深雪「マユちゃん、美春ちゃん、ありがと(笑)」
5人の吐く息は白く、まだまだ宮古の寒さはこれからが本番。
地震の来る日は少しづつではあるが、確実に近づいている。
そんな危機的な状況があることがウソであってほしいとマユは願うのだが、未来で震災を実体験した主人公を見て、やはり地震を心配せずにはいられなかった。
【 やさしいテロリスト:END 】
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