第八回 行動の儀? 奥の細道。


 ――それでもって颯爽たる出発となる。快晴だけれど舞う桜吹雪。



 でっかいスノードロップは、もう落ちる心配もなく、ご機嫌なせっちゃんは既にもうルンルン気分。その表情は桜満開という……まるで春の妖精を彷彿とさせるものだった。


 春は短く、切ないようだけれど、

 僕にはそう思えない。この女子四人の関係なら、奥へ、さらに奥へと切り込めそう。


 細道を歩く……


 その道程は、一昨年の夏に見た風景によく似たり。いや、同じ道程だ。僕と梨花りか可奈かなと三人で歩いた道程。そして今、せっちゃんが加わり共に歩み、マーチたる行進へ。



 午後も二時。お昼は四人ともメガ牛丼を黙々と食した。


 スタミナはバッチリだ。せっちゃんというこの子の名は、日々野ひびのせつ。……これから僕らの行く所、温泉は初体験だそうだ。お家に、ちょっとしたスーパー銭湯と匹敵する設備のお風呂がある程のお嬢様。温泉そのものが初めてのこと。『千佳ちかのリフレッシュ』という理由付けだけれど、本当のところは興味津々だからとも。


 だからキョロキョロ……

 ニコニコともしながら、全身で喜びを奏でているそんな時だ。僕らは……僕らは、


 あの日と同じ場所で……


 この場所で再会を遂げる。あの日あの時、ここでスーッと消えたはずの芭蕉ばしょうさんと。また笑顔で御案内してくれる。氏名でいうと、松尾まつお芭蕉さん。僕らの前を歩みゆくの。


 気が付けば、もう幽霊ともお友達。


 或いは幻か、夢なのか、それももう気にならなくなった。夢現でも構わず、今目の当たりにしていることが真実。数学の方程式にも例えられそうな信憑性も露わだ。


 ――奥の細道へと続く。


 僕らが今、芭蕉さんの御案内によって、この道程を歩いているのだからね。



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