1章
第3話
気づくと、見慣れた陳列棚が見えた。また、戻ってきたらしい。しかし今回は傍に塩尻さんが立っていて、心配そうに俺を見上げていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、うん……」
ぼんやりと頷く。
周りを見渡すと、何故かコンビニの客が増えている事に気がついた。今までは自分の他に客はいなかった筈だ。
「……何をしているんですか、あの人達」
他の客の珍妙な行動を見て、俺は呟いた。彼らはコンビニの窓を押してみたり、外の人間に気づかれようとでもしているのか、大声を上げている。
「その、実は……コンビニから出られないんです」
「出られないってそんな馬鹿な」
塩尻さんの言葉に思わず冷笑する。俺は躊躇なく踵を返し、コンビニの自動ドアの前に立った。確かに開かない。
「センサーが壊れているのでは?」
振り返って聞いてみるも、彼女は頭を振った。
「そういう話ではなくて、その……」
何故か、言い淀む。
俺は物理的に開けようと自動ドアを横に押してみるも、妙な抵抗があって開かない。まるで外で誰かが開けないようにしているような、そんな感じだ。
「確かに開かないな。修理業者は?」
「……」
塩尻さんは答えなかった。さすがに少し苛立ってくる。俺は内心でため息をつくと、スマホを取り出した。
電波が圏外になっていた。
「もしかして、他のスマホも圏外に?」
「はい」
塩尻さんははっきりと答える。
出たら死ぬと思えば、今度は出られないときた。おそらく、このコンビニが絶海の孤島と化したのはループ現象と同じ非現実的な話なのだろう。
「はは……」
笑い声を上げる俺に塩尻さんは訝しげな目を向けた。正直、俺は安心していた。もう、これで死なずに済むと。
だが、その希望は突如上がった悲鳴にすぐに覆される。
「…………」
静まり返る店内。奥のバックヤードから聞こえてきた。顔色を変えた塩尻さんがそちらに向かったので、後に続く。
本来、入れない場所に入ると妙な高揚感があった。こんな状況でもそう感じる俺は既に頭がおかしいのかもしれない。
突然、立ち止まった塩尻さんにぶつかりそうになりつつ、彼女の肩越しにソレを見た。
「どうして、こんな……」
すぐ前にいる塩尻さんの言葉が震えていた。俺はその声がはるか遠くから聞こえてきたような気がした。
死んでいたのは男性店員だった。ループが起きる前、研修中だった彼の姿が脳裏に浮かんだ。
* * *
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