第1話

 

 何度かのループを繰り返し、分かった事がある。その代償は大きかったが、まだ精神の崩壊まで至ってはいない。が、このままずっと出られないとなると、時間の問題だろう。

 まず、コンビニから出ると確実に死ぬという事。事故や強盗に巻き込まれる可能性は現実的に恐ろしく低いだろうに、コンビニから出ると確実にそれらが起きる。まるで、誰かの意思かのように。

 だからといって、コンビニから出ないという選択肢を選んでも結果は同じだった。

 まる一日、コンビニの中で過ごしてみると。何事も起きずに朝日を迎えられた。そこまでは良かった。だが、最終的には警察を呼ばれて無理にでも外に連れ出された。その結果、やはり死んだ。

 つまり結局、コンビニを出る意思がなくとも何か見えない力が働いて、俺は死んでしまうという事だ。

 他にも、ループした際毎回、購入する商品を変えてみたりと色々と試してみたが、結果は同じだった。そして何故か、レシートだけが溜まっていくのだった。

 どうしてか、ループを繰り返してもレシートは残るらしかった。もう、次で10枚に到達する。これだけ死んでも、まだ正気を保っていられる自分を褒めてやりたい。

 当たり前だが、気分が良いものではない。コンビニのトイレにある鏡で確認すると、地獄を見たような酷い顔だった。実際、もう地獄に落ちているのかもしれないが。

「大丈夫ですか?」

 商品をレジに持っていくと、塩尻さんが話しかけてきた。驚いた俺は返事をするのに少し遅れた。

「えっと……何がですか?」

「いや、その……今にも倒れそうなくらい疲れた顔をされているなーと。って、あの、すみません。とつぜん失礼な事を」

 本気で心配している様子の彼女に俺は正直に答えそうになった。だが、おれ今ループしてるんすよなんて言ったら、完全にイタい客だ。

「……大丈夫です。ただ眠れていないだけなので」

 淡々と答える。同情されたところで、この状況から解放されるわけじゃないのだ。自分だけに起きている非現実的な状況である以上、他人からの理解を求めても無意味なのだから。自分で解決するほかない。

「あの、いつもこの時間で働いているんですか?」

 他に客もいないし、もう一人の男性店員も奥に引っ込んでいた為、話を続けてみた。

「いえ、今日はヘルプで来ているだけなんです。いつもは私、駅前近くのコンビニにいますので」

「駅前の……」

 よく使っているコンビニだった。だが彼女の姿を見たことがなかったのは、時間帯が合っていなかったのだろう。

「……」

 これ以上、会話を続けるのも難しかったので、小さく会釈をして俺はコンビニから出ようとした。どうせ、出てもまた死に戻るだけだが、この流れで出ないのも変だろう。

「今夜はゆっくり眠れますよ」

 何の根拠があるのか、塩尻さんがそう言うのが聞こえた。だが、他人からの励ましの言葉は思いのほか気持ちが落ち着いた。

 自動ドアが俺を飲み込もうと開いている。もうどうにでもなれとばかりに足を一歩、踏み出した。

 …………何も起きない。

「なんで……」

 思わず呟いた言葉は震えていた。静寂に包まれた空間に思いのほかその声は響いた。

 振り返ると、塩尻さんがこちらに軽く手を振っていた。その友好的な姿を見てどういうわけか、俺は言いようのない恐怖を感じずにはいられなかった。


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