第十話
アネモライトの閃光が世界を包みこむ永遠のような刹那、私とユタカ君はついに邂逅を果たした。
(レンゲお姉ちゃん初めまして。って言うのもなんか変な感じがするなぁ)
そりゃあ私はずっとユタカ君のそばに居ましたもん。居たのにずっとガンスルーしてたのはそっちでしょ。
(だって全然わかんなかったし、居るならそう言ってくれればいいのに)
ま、タカミチマンが言ってた通り、私生活で妄想姉と会話とかしだしたらこいつヤベぇ奴だって周りに思われちゃうじゃん? ユタカ君は優しくて良い子なんだから、私のせいで変な目で見られたくなかったの。だからこっちはこっちでユタカ君が私の存在に気付かないことに安心してたって部分もあるわけですよ。
(つまり僕はレンゲお姉ちゃんの顕現化をとっくの昔に達成してたんだ。だけど僕にはミチル姉さんがいるからイマジナリーお姉ちゃんなんかいるはずないって、ははは、なんて事はない、僕自身が固定観念に縛られてたのか)
さ、与太話もこのへんにしてタカミチマンが私達に被せて超姉主義をしようとしてるわ。油断してたら相手の世界に侵食されてしまう。イメージを強く持ちなさい。この超プリチーでセクスィーなお姉ちゃんに見合う世界をよォー!!
(うん!)
超姉主義によって再構成された世界は、田園風景広がる夏の景色でした。初夏といったところでしょうか、暑さはそれほどでもなく、時折吹く風が涼しいくらいです。これがユタカ君の姉世界。誰もがノスタルジーを喚起させずにはいられない。そんな美しい世界でユタカ君が私の名前を呼んでいます。
「レンゲお姉ちゃん!」
すーぱーイマジナリーお姉ちゃんな私に会えたのがよっぽど嬉しいんでしょうね。遠くのほうから駆け足でこっちに向かってきます。きゃーわいーい!
「レンゲお姉ちゃん! レンゲお姉ちゃん!」
「はいはいユタカ君。私はここにいますよー」
「見りゃわかるから! だからタカミチさん離してあげてぇ!!」
「えっ?」
超姉主義で書き変わった世界に移った時、タカミチマンがちょうど目の前にいたから取り急ぎコブラツイスト極めてんだけどそれがどうしたんでしょうかね?
「あっ、はっはぁ〜? さてはユタカ君。私がタカミチマンに抱きついてるって思って嫉妬しちゃってんのかにゃ〜? ニヤニヤニヤ。
これは抱きついてるんじゃなくて久米原流古武術奥義コブラツイストだよー?」
ぶくぶくぶくーってタカミチマンが泡を吹いてます。っしゃオラァ! このまま息の根止めて決勝進出決めたったろうやんけ!
「だから止めろっつってんの!!」
ぺちこーん!
ダッシュでたどり着いたユタカ君に頭ひっぱたかれました……?
「えっ? えっ?」
あのユタカ君が、優しかったあのユタカ君が、私に手を挙げるなんて!? ウチの流派にコブラツイストなんてねーからってツッコミすらしないで!? そんな、そんな!?
「それもこれも全部タカミチマンの所為じゃあい!! 怒りの久米原流奥義逆エビ固めェェっい!!」
「だーかーらーやめェェーっい!!」
ゴギャッ! っとユタカ君の由緒正しい久米原流"山落"(別名ただの踵落とし)が脳天直撃セガサ☆ターン。 いっったぁぁー……!
えー、イマジナリーお姉ちゃんは理想の体現なんじゃないっスか〜? それに対して初手暴力ってひどくな〜い????
山落食らった衝撃で緩んだ私の手から離れたタカミチマンがビックンビクン白目で痙攣してます。すかさず駆け寄るユタカ君の気付で何とか意識を取り戻したタカミチマン。チィっ!
「はぁ……、はぁ……、何なのだお前の姉上、ドン引きだわ……」
「ご、ごめんなさい」
なんで謝るのユタカ君? なんか私が悪者みたいじゃーん納得いかんわー。
私が不満で口を尖らせてっと、ユタカ君が走ってきた方向からもう一人女の人が小走りで走ってきた。タカミチマンのイマジナリーお姉ちゃんであるナズナだ。タカミチマンは超姉主義を被せることで世界での出現位置を本来の位置からばらけさせたのだわさ。いらんことしぃーめぇ!
ってことは私がタカミチマンと一緒のポイントで出現したって事は、向こうは向こうでユタカ君とあの女と一緒だった可能性が高い? は? 許せん。
「ちょっと! いきなり走らないで下さい」
「いやだってレンゲお姉ちゃんがタカミチさん締め上げてたから助けようと」
「なんですって!? タカミン大丈夫? 怪我してない? 痛いの痛いの飛んでけする? 膝枕したほうがいい? 素数かぞえる?」
「小生は問題ない。だから小生に構うな」
突き放すように言うタカミチマンにシュン……てなってるナズナ。えー、やだなー、なんか空気悪いなー。
「タカミチさん、いや、タカミチ! 心配してくれてるナズナさんに何て言い草するんだ!?」
「は? なにユタカ君そこな女の肩を持つん!?」
「例え超姉主義だろうとイマジナリーお姉ちゃんというのは結局は自分の妄想の延長なのだ。いや、むしろ小生の醜い願望が形をなしている分タチが悪い。イマジナリーお姉ちゃんとは自身の悪しき分身。馴れ合えばそれだけ取り返しがつかなくなる」
「はあああああ?? 悪しき分身じゃありませんんんん!! ユタカ君はハイパー心がキレイだから私みたいな清楚オブお姉さんがいるんじゃないっスかあああああ????」
「取り返しがつかなくなる? ふざけるなよ。あんたまだ自分が取り返しできる位置に立ってると思ってたのかよ!? もう遅いんじゃなかったのかよ!? 姉に絶望してる? 違うだろ、アンタが絶望するべきは現実の方だ!!」
「ウェーイ! そうだそうだー!」
「訳のわからぬことを!」
「わかれよ!!」
「もういい! やめてユタカ! タカミンの言う通りだから……」
「ナズナさん……」
「……くっ」
「ユタカ君の名前を気安く呼ぶんじゃねぇよこのクソ女ァァァア!!?」
「「「ちょっと黙ってて」」」
ええぇぇ〜〜…………。
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