第九話
第九話
「姉に絶望している……?」
にゃるほどー。幻姉痛が他人のお姉ちゃんを尊いと思う後ろめたさがフィードバックされてダメージになるなら、元からお姉ちゃんというものに絶望してたらノーダメージってことですね。なるほどわからん。
「小生が姉殺し(アネキラー)の異名で呼ばれているのは知っているかね? 小生は対戦相手のイマジナリーお姉ちゃんを、再顕現不能になるまで殺る。徹底的に殺る。わかるだろう? それがアネリストの為」
「わかんないよ!」
「人は現実を生きている。いつかイマジナリーお姉ちゃんなんて幻想から抜け出し、必然として社会と向き合わねばならん時がくる。小生のように無駄に歳を重ねてからそれに気付いても遅いのだ!」
「わかんないよ!」
「なるほど確かにイマジナリーお姉ちゃんとは離れがたい。別離すなわち己が半身を引き裂かれる痛みを伴おう。アネリストとは自らの理想の殻に閉じ籠った子供だ。隔絶された外界とのズレは致命的に広がる。是正が必要なのである! 己で殻が破れぬなら、誰かがハンマーでぶん殴っても叩き割らねばならん! 姉に絶望した小生がやらねばならん!」
「わかんないよ!!」
「ユタカ氏はまだ若いから気付かぬだけ! 小生も今年で40歳になったのだ。40歳にもなって空想の姉上とニヤニヤ会話とかしておるのだ! おいコレふっつーに考えてヤっベーだろなあ!!?」
「わかんないよ!!!」
「わかれよ!!!!!」
キャラをポイしてまでマジギレするタカミチマーン! うん、そこは分かってあげてもいいと思うよユタカ君?
でもまあ年齢うんぬん以前に、一人称が小生なのもふっつーに考えてヤっベーちゃうんちゃう?
「わかんない! わかってやるもんか! イマジナリーお姉ちゃんは自由なんだ! 年齢とか世間だとか、そんな下らないもんに縛られやがって! 僕が教えてやる! アネリストの一人として、僕がお前にイマジナリーお姉ちゃんの素晴らしさを教えてやる!!」
「リアル姉持ちがアネリストを語るか! 傍にわけもわからぬノイズを浮かべている君がイマジナリーお姉ちゃんを語るか! いいだろう面白い!!」
「僕の、僕の姉さんの好きな食べ物は……!!」
「四連姉自慢(アネクワッド)!? 実戦で目にするのは初めてである。だが甘い。ユタカ氏の姉上の好物はミカンと一撃目で聞いた!
同じワードではアネクワッドは発動せん! それに発動したところで、何度連続で放とうが小生に姉自慢は効か」
「苺クレープだァァア!!!!!」
ピンッ…!
タカミチマンの頬に横一本の線が入り、そこから血がわずかに滲む。効いたやんけ。やーいやーい!
「小生が、イマジナリーブレイクされた……だと……? 馬鹿な、ありえん! 氏の姉上の好物はミカンだったはず!? 一体、一体君は……"誰"の好物を自慢したのだ!!?」
ゴオオオオーー!!!
タカミチマンの疑問の声を掻き消すように遂に臨界点に到達したアネモライトのリングが、唸りを上げて七色のアネルギーを放出する! 渦巻く光は今、ユタカ君に収束する! むせかえるように濃厚なお姉ちゃんオーラを欠片も残さんばかりに貪欲に吸収すれば、体内で巻き起こるアネルギーの本流が頭部に至り、姉調整(シスタマイズ)された脳内が更なる速度を要求!! 体内を加速するアネルギー! 循環! アネクル!! 循環加速循環加速加速加速 逆流!! 逆流!!
逆流したアネルギーが本流のアネルギーと衝突!! ドォォン! うおォン! ユタカ君はまるで人間ハドロン衝突型加速器だ!! 衝突によって生み出された姉式特異点がアネルギー転移を起こしインフレーションで急激に膨れ上がる!! 膨張! 膨張! 爆発する!? すればいい!! 世界を誕生させるのだ! 時空を歪めろ穿て反転させろ! 爆発! 解放! アネルギーの大爆発を!!!!!
「……わかったよ。全てが。そうだ、そうだったんだ。ずっとそこにいたんだね」
「チィッ!! 小生の姉上は床に落ちたミートボールを3秒ルー……!?」
何が起ころうとしているのか理解したタカミチマンが、慌てて姉自慢で妨害しようとしてきやがります。はん!
おっせぇ おっせぇ おっせぇよ!
ユタカ君がこっちを見て微笑んだ。ノイズが、薄れていく……! 鮮明になる……! 晴れる!
アネリストの神髄、やっちゃえユタカ君!
「うんっ! 現実を凌駕し侵食する!!!
【超姉主義(シュールアネリズム)】
"レンゲお姉ちゃん"!!!!!!!」
ありがとうユタカ君。
やっと私の名前を呼んでくれたね。
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