第七話





「は、ははは……。イマジナリーお姉ちゃんの部分顕現……それも自分以外のアネリストのお姉ちゃんを……何よりあの閃光は超姉主義、シュールアネリズムの閃光……!

あれはただのイマジナリー心臓じゃない、スーパーイマジナリーHEART!

大した奴だぜユタカ」


「ハルキが、いや、ハルキだけじゃない。今この世界に溶け込んでいるアネモネドームの観客すべてが力を貸してくれたんだよ」


「それでも、オメーは並のアネリストじゃ脳が焼き切れてもおかしくねーアネルギーの激流をアネクルで治めた。誇っていいことだ」


 リストバンドの件といい、地味にユタカ君の命タイトロープってね??


 ユタカ君からスーパーでイマジナリーなHeartを恐る恐る受け取ったイマジナリーな名医さんは、目を見開いてびっくらこいてます。


「こ、この心臓は!? 私はイマジナリー名医だから理解る! この心臓はカエデさんにマジ最高レベルで適合するゥ! いいい今すぐ手術だ!」


「先生! 手術は成功しますよね!?」


「私を誰だと思っている? イマジナリー名医の名は伊達ではない! やるからには手術は絶対に成功しかあり得んさー!」


 わははははとイマジナリー心臓を抱えてスキップスキップらんらんらんっと手術室に去ってくイマジナリー名医さん。モブのくせにキャラ濃すぎとちゃうか?


「後は頼んだぜ先生。絶対にカエデお姉ちゃんを……」

 手術中と書かれた表示灯が赤く灯り、二人は祈るような面持ちで椅子に座ろうとしたその瞬間、手術室のドアバァーッン! イマジナリー名医ババーン!


「心臓移植手術、大っ成っ功っ!!」


 うっそ名医はっや!!!!!!?


 パリパリリーーーン!

 空間、いや、世界に亀裂が走り、割れた硝子のように崩れゆく風景。「心臓創生によって大量のアネルギーが消費されたからな。超姉主義(シュールアネリズム)の世界が終わる。ま、大円団ってやつだ」ハルきゅんは憑き物が落ちたかのようや晴れやかな顔です。気付けば二人は元のアネモネドームに戻っていました。


 わあああああああ!!


 割れんばかりの歓声。世界の一部となって見届けた観客達が巻き起こすユタカコール。レフェリーが高らかに叫ぶ。「ユタカ選手!カエデお姉ちゃんの命を救ったのでえらい! 一億ポイント!」ポイント概念ガッバガバだねぇ!!?


「やれやれ、こんだけ得点差がついちまったら逆転すんのも難しいな。ふっ、負けだ負け! レフェリー、オレ様はリタイアするぞ!」


「待ってよハルキ!? あの時、心臓を作り出せたのはハルキのカエデさんを想う気持ちがあったからこそだ! 一億ポイントは二人で分け合うべきだと僕は思う! ねえレフェリー!」


「両者合意の上でしたら問題ありません」


「いいんだよ。棚ぼただろうが降って沸いた勝利じゃねーか。ありがたく食っとけ食っとけ。それに、オレ様はもう目的を果たせたんだ。試合に負けて勝負に勝ったってやつさ」


 そう言って優しく隣を見つめるハルキング。いやー隣っつっても何もねー虚空なんだけどね。なんだけど、だけど分かる。

 今、そこには元気なカエデさんが立っていて、同じように優しく弟を見つめているって。


 その虚空に向かって手を伸ばすユタカ君。握手だ。アネモネドームで虚空とあくしゅ!


「カエデさん。元気になられて本当によかった。これからはハルキと一緒に運動したり学校に行ったりできますね。またお会いできる日を心待ちにしています」


 それを聞いてぶっぷーと吹き出すハルキング。


「なんだよハルキ?」


「くくっ、姉ちゃんな、テメーがそんな他人行儀なこと言ってっからふてくされてんぞ?

『あらあらあら、心臓移植した仲でしょうに。私たちはもう家族同然じゃないですか。なのでカエデお姉ちゃんって呼んでほしいです!』だってよ? いやー、オレ様も新しい弟ができて嬉しいねぇ」


 えぇー、ショタガキハルングのほうがお兄ちゃんなんだ……。えぇー、あれか、兄弟子とか姉弟子とかそういうノリなん? アネリスト界隈ってそういうシキタリとかあるのでしょうか? いーや絶対その場のノリだけで言ってんねコイツは!


「そっか。うん! じゃあねカエデお姉ちゃん。今度プリンでも買って遊びに行くよ!」


 トクッ トクン


 本人の視覚と聴覚に委ねられているはずのイマジナリーお姉ちゃん。それでも今、ユタカ君の手のひらからは、確かに相手の脈拍を感じていたのです。



「勝者、ユタカ選手!!」


 レフェリーの宣言、観客席からの歓声。大歓声。

 その熱狂を、ユタカ君は心地良く受け入れました。




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