第五話
「なあユタカ? テメーの奥深くにくすぶるアネクルは凄まじい。このオレ様の直感がそう告げてんだから絶対に間違いねー。
だーが、イマジナリーお姉ちゃんを顕現できないままじゃあオレ様どころか他の選手にも勝てねーだろう。今のテメーはまだまだビギナーのヒヨッ子アネリストだ。次の大会にはその殻を突き破って、美しいお姉ちゃんという名の翼を魅せてくれると信じてるがな。つまり、だからこれは未来のユタカへと贈る手向けだと思ってくれ」
ゴオっ!!
アネルギー倍増放出で七色に光っていた円状リング。その光が渦を巻き一点に集まりだしました。
その中心にいるのはハルキング。アネモライトの光の渦はハルキングの身体へと吸収されていき、やがて全ての光を取り込んだ約1680万色に光るゲーミング姉萌え変態が完成しちゃいました。思わずゴクリと唾を飲み込むユタカ君。
「これが最後のレクチャーだ。なあ、脳内お姉ちゃんとイマジナリーお姉ちゃんの違いはなんだ?」
「それは、目で見て話せるってことだと思う」
「半分正解だな。会話ができる。視認できる。素晴らしいことだ。だが、そこまでだ。イマジナリーお姉ちゃんとは、聴覚と視覚に委ねられた存在なんだよ」
「なるほど」
いやなるほどじゃなくてソレ幻聴と幻覚の類いだからね? わかって?
「じゃあもし、その先があるとしたら? 嗅覚、味覚、触覚、それらを備えたスーパーイマジナリーお姉ちゃんだ」
「まさか有り得ない! そんなの、現実そのもの、いや、理想の魂の体現なんて現実を超越しているよ!?」
「そうだ。理想の魂の体現! それこそがアネリストの神髄、究極の到達点、非実在性からの解放。これが、これこそがイマジナリーお姉ちゃんのハイエンド! 現実を凌駕し侵食する!!
【超姉主義(シュールアネリズム)】"カエデお姉ちゃん"!!!!!」
ペカァァアアアアー!!!
ハルキングからまばゆい閃光! まぶしっ!
思わず瞑った瞳をふたたび開けた時、世界が、変わっていました。
夕景。知らない町の寂れた商店街。そこにユタカ君とハルキングは立っていた。
夕方? そんなバナナ、まだ朝だったはずなのに。一体なにがどうなっちゃっているのでしょうか?
「イマジナリーお姉ちゃんは現実に存在しない。ならばその現実を反転させ、イマジナリーお姉ちゃんが存在する限定空間を創作りだす……。これが超姉主義(シュールアネリズム)と呼ばれるアネリストの絶技だ」
そう言ってハルキングは駄菓子屋に入り、うまい棒を買って一本くれました。ありがとう。
口にして目を見開くユタカ君。思わず「おいしい」とこぼします。味がする。つまり味覚があるってことは、幻覚じゃあないってことなの?
「なるほどね。幻覚なんかじゃない。この目に写る全てが『現実』なんだね。これはつまり、お姉ちゃんの素晴らしさを直接相手に"わからせる"おそろしい技だ。でも、なぜだろう? ワクワクしてしまう自分がいるのは」
「ふっ、アネリストはいかなるお姉ちゃんも否定しねー。誰かのイマジナリーお姉ちゃんを尊べば、その分その感動は自分のイマジナリーお姉ちゃんの解析度を上げることに繋がるんだ。
いや、結局はオレ様たちは姉しかない、どーしよーもねーロクデナシさ。だから人のお姉ちゃんだろうと関係ねー。愛でるのをやめらんねー。きっと多分、それだけの話だ」
「深いね。でも、なんとなく分かる」
深いかなーー? えーー?
なんとなく分かるの? じゃあユタカ君はアネモネドームとか観客とかどこ行ったかも、なんとなく分かるのかなーー?
そんなわけないよねーー??
「あのドームや観客たちも、超姉主義と一体となってこの世界を構成する一部になってるんだね」
「いいね。そこまで理解れば満点だ」
そんなわけあったわ。ユタカ君の順応性ナメてたわ。いわば王道主人公としての素質であるはずなのに、そこに付け込むかのように狂った世界観が驚異的なスピードで汚染してきてつらたん。
二人は商店街を抜け住宅街を歩き、ついに一軒の家の前に来た。
「ここがオレ様の家だ。覚悟はいいか?」
「いつでもどうぞ」
「その意気や良し! ただいま! カエデお姉ちゃん!!」
勢いよく玄関の戸を開けるハルキング。「まあ上がれよ」と言われ、よそよそと「お邪魔しまーす」と靴を脱ぐ。
「おかえりハルキ……あら?」
台所のほうから聞こえた綺麗で澄んだ声。その声の主が「あらあらまあまあ……!」と廊下をパタパタ小走りでやってきました。
……おっぱいおっきい!!!
「まあまあまあ! もしかしてハルキのお友達かしら?」
「うん! 紹介するよ。オレ様……じゃなくてオレの友達のユタカだ!」
いつの間にかハルキングと友達になっちょる。アレか? 一度会ったら友達理論か? お前はドーナツ島の住人なんか?
ていうか一人称オレって!? ハルキングお前からオレ様要素抜いたらただの生意気なショタガキよ? ハルきゅんって呼ぶぞコラ?!
「は、はじめまして……」
たどたどしく挨拶してるユタカ君だけど、チラチラ視線がおっぱいに釘付けなってるから。そういうの分かんだかんね!
キィーー! こーれだから男子って奴ァーよォー!
「あらまあまあ! ハルキがお友達を連れてくるなんて! さあさあ、ユタカ君上がって上がって!」
言われるがまま居間に連れられ腰を下ろす。
「はじめましてユタカくん。ハルキの姉のカエデです」ぺこりと会釈するカエデさん。あっ、谷間が見えそ……はいまたチラ見したー! このムッツリユタカ君めー!
「カエデお姉ちゃん、寝てなくて平気なの?」
「うんうん、今日はなんだか調子が良いの。それにハルキが友達連れてきてるのに、寝込んでなんかいられないわ」
「えっと、お姉さんはどこか身体が悪かったりするんですか? あっ、いや、こんなこと訊くの失礼ですよねすみませ……」
「あらあらいいのいいの気にしないで。ちょっと生まれつき心臓が弱くてねぇ。おかげで苦手な体育なんて見学で済ませたり、学校サボっても誰からも怪しまれないんだから」
あっ待って、これ本当は思う存分に身体を動かしたいとか、ちゃんと元気に学校に通いたいとか、そういった願望の裏返しだったらどうしよう。ヤバい。涙腺にクる。病弱お姉さん属性の破壊力ヤババババい。
同じように悟ったかユタカ君も気持ち申し訳なさそうだ。どんまい。
「あっ! そうだわ折角のお客様なのに、お茶のひとつもお出ししてないなんて。確か仏壇に叔父様から貰ったいいとこのお菓子があったから出しちゃいましょ。ユタカ君はコーヒー? 紅茶? ジュース……ならカルピスがあったわね。うん」
そんな重くなった空気を察してか、カエデさんは話題を切り上げた。うーん健気。どうしよカエデお姉ちゃん推せる……。
「いいよお茶くらいオレがやるからさ。カエデお姉ちゃんは座ってな」
ぶっきらぼうに言ってさっさと居間を抜けたハルキングだけど、病弱なカエデさんの身体を労わっての行動だってーのは、ファイヤーをルックするより明らかすぎて尊いょハルきゅん……。
「じゃあ今のうち。ハルキの前だとあの子恥ずかしがっちゃうからお礼言わせて。
ユタカ君、あの子と友達になってくれてありがとうございます」
深々と頭を下げるカエデさん。今度は谷間に視線いかなかったあたり偉いぞユタカ君。
「そんな、ハルキ君は何も知らない僕にいろいろと教えてくれたんです。だから感謝したいのは僕のほうで」
「あの子、今まで一度だって友達を連れてきたことなんてなかったの。きっと初めてできた友達が嬉しくて私に見せたかったのね。
口も態度も悪いけれど、私のたった一人の大切な弟。それで、本当は他人を思いやれる優しい子なの」
「僕は今までハルキ君ほど親切で優しい人に会ったことないです」
それはそう。
「ふふふ、ありがとう。これからもハルキと仲良くしてあげてね」
差し出されたカエデさんの手を握り返す。握手。
弱々しいけど、その手のひらからはトクットクッと脈拍が感じられて、これがイマジナリーだろうがなんだろうが関係ない。ああ、この人は"生きて"いるんだなぁってユタカ君は思ったんです。
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