第三話
「姉バトルにおける基本として、試合が始まり礼を交わす。その次は何かわかるか?」
「ぜんぜんわからないよ?」
「かーーっ! ちったぁテメーの頭で考えやがれ。オレ様は一から十まで教えてやるほど優しくねーぞ!」
「ご、ごめん」
「いいか。次にオレ様たちがやるべき事、それは"姉自慢"だ!!」
あっ、教えてくれるんだ……。優しい。でも言ってる意味はマジわっかんねーっすハルキング。
「…………そうか、お姉ちゃんを自慢しあうことで互いのアネルギーを高めあうって訳だね」
ユタカ君!!?
「正解だぜ。なかなか筋がイイじゃねーか」
やばいよー。ヤバイよヤバイよー。
ユタカ君がこの変人空間に順応しだしてきたよー。
「先行は譲ってやる。とびっきりの姉自慢を頼むぜ」
「って言われても、そんなのすぐに思いつかないよ」
「へっ、あり過ぎて困るってか? 難しく考えてんじゃねー。心に浮かんだお姉ちゃんの印象、好きなところ、エピソードとかをそのまま口に出しゃーいいんだよ」
「そういうことなら。姉さんって自分が読書してる時に僕が話しかけたらキレる癖に、僕が本読んでる時は問答無用で話しかけてくるんだよ。こっちは読書に集中したい訳で、だからって無視したりするとブチギレてきて正直しんどい」
確かにミチルさんそういうとこあるわ。うんうんわかるわかるー。でもそれ自慢要素あるんか??? 本当に浮かんだエピソードそのまま口にしただけじゃん!
せっかく優しく教えてもらったのに報われないねハルキン……
「ぐ、ぐわあああああああああ!!!?!?」
ハルキングが、吹き飛んでた……?????
バゴォォーーン!!!!
吹き飛んで観客席前のコンクリ壁にヤムチャみたくめりこんでる。えぇ……??
「ハルキ選手場外ダウーーンンン!! カウントワン! ツー! ス……」
「……カウントなんか取るんじゃねー。ぐはっ! く、ちょっと足が滑っただけだろーが」
「ハルキ選手、続行できるか?」
「タマ姉たまんねえ」
「良し、意識のほうは正常だな。試合続行!!!」
ワアァァアアアー!!!
湧き上がる会場。よろよろとリングに戻るハルキング。ひっ、膝が笑ってやがる……!
何がお前をそこまで突き動かしてるの?
「なんてリアリティだ……。姉自慢でここまでの一撃を食らったのは生まれて初めてだぜ」
「だっ、大丈夫!? もしかして僕のせいならゴメン!」
「謝るんじゃねー! テメーの姉自慢ときたら……最高だぜ! そういうのもっとくれッッ!」
えぇー……
「えぇー……」
「さーてと、じゃあ次はオレ様の番だ。覚悟はいいか? 行くぜ! オレ様のお姉ちゃんは……………おっぱいがおっきい!!!」
「ぐぱァァァア!!?!?」
吐血!? あわっあわわわわわユタカ君が血ィ吐いちゃったよなにしてくれてんだハルキングテメーこのヤロー!! こんなに血塗れ……あれ? 血が、なくなってる??
「幻覚……なのか……?」
舞い散るアネモネのように今の吐血も幻覚だというのでしょうか? でもユタカ君顔が青ざめたままで心配だよ。
「くくくっ、困惑してるな。それは幻姉痛(げんしつう)と呼ばれるものだ。イマジナリーブレイクって言う奴もいるな。
姉自慢によって相手のお姉ちゃんを尊い、羨ましいと思ってしまうことで、自身のお姉ちゃんに対して後ろめたい気持ちを抱いてしまう。その罪悪感がダメージとして現れてんだ」
ツッコミたいのは山々なんだけど、それより幻覚の説明もして下さいません?
「なるほど、そうだったのか!」
納得してんじゃねぇよぉぉ〜……
「オレ様たちは姉道を歩むアネリスト!」
「痛みをともなうものしか僕等は姉と認めない!」
ニヤリと互いに微笑みを交わしちょる。ここにきてユタカ君流れ流され遂に本流に乗ったっぽくてかなしい。普通の中学生だった彼を返して。
ぺかぁぁぁあああーー!!
その時、足元の円状リングが七色に光り出しました。流行りのゲーミング仕様とかでしょうか。
「チッ、もっとテメーの姉自慢に耳を傾けたい所だが、アネモライトが満ちちまったよーだ」
「アネモライト?」
「このリングに使われている特殊な鉱石の名前だ。アネモライトは一定量のアネルギーを吸収すると何倍にも増して放出する特色があるんだよ。だから今、此処はお姉ちゃんオーラで満たされてる」
「すごい……! 感じる。これがお姉ちゃんオーラ……!」
おねがい正気に戻って?
「なあオイ? 今、オレ様の隣になにか見えるか?」
「そんなの何も見えな……、いや、なんだ? ぼんやりと……女の人がいる……?」
「それでこそオレ様が見込んだ男だぜユタカ。いいか、オレ様たちアネリストは常に脳内に架空のお姉ちゃんを住まわせている。これが脳内お姉ちゃん。おそらくテメーはまだこのランクだろうな。だがお姉ちゃんオーラで満たされた中で、オレ様のお姉ちゃんの存在を感じることが出来たんだ。才能あんぜオメー?
そう、ユタカがぼんやりとでも見えてるこれはオレ様のお姉ちゃん。イマジナリーお姉ちゃんだ!!」
「イマジナリーお姉ちゃん!? ぼ、僕にもできるかな?!」
「一朝一夕じゃ無理だな。ひたむきに姉道を突き進んだ努力の末に、自分だけに見える自分だけのお姉ちゃんが現れんだ。これを顕現化という。
普段は自分にしか見えないイマジナリーお姉ちゃんを、アネモライトのバフで視認しあえるようになったアネリスト達による"どっちのお姉ちゃんのほうが姉度が高いか"! それこそがこのイマジナリーお姉ちゃん選手権の目的であり醍醐味よォ!」
「そうだったのか! 姉道とは奥が深いね。でも、僕にイマジナリーお姉ちゃんなんていないし、この場合勝負ってどうなるの?」
「それなんだがよー。歴戦のアネリストともなれば、アネモライトがなくても相手のイマジナリーお姉ちゃんを視認できるってなもんだ。オレ様だって調子がよけりゃ普段でも相手のイマジナリーお姉ちゃんの存在を感じることだって出来る。今みたいにお姉ちゃんオーラに満たされた空間なら脳内お姉ちゃんでもバッチリ見えて当然だ。
だがオメーは、なんかおかしいだよ。ナニかが隣にいるってのは理解る。ぼんやりとじゃねぇ。これは……ノイズ……?
こんな見え方は初めてだぜ」
………………………
「あっ、それはもしかして、僕にはリアルに姉さんがいるのが関係してるのかも!」
「オイオイ、脳内お姉ちゃんこじらせ勢かテメー? リアルと妄想の分別をつけんのも一流のアネリストの条件だろーが」
「ああもう! またか! だったら証拠見せればいいんでしょー!」
あっ!!? またかユタカ君!!?!?
君はまたそうやって自分の姉さんの写メを赤の他人に見せるつもあぁー! あーあーあー! あーやっちゃったぁーーー!
あろうことかユタカ君が見せびらかしたミチルさんの写メは撮影カメラが向けられ、会場スクリーンにでっかくデカデカ表示されつちまつた悲しみぃ……。
安定の姉弟揃って母親ゆずりの似た目元に説得力はグングン抜群で本当にありがとうございました。
これもしミチルさんにバレたら半殺しで済まないってわかってんのかなー? わかってないんだろーなー。
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