第二話





「なんでこんなことになっちゃったんだろう……?」


 選手達が集まる控え室のはじっこで今更すぎる疑問を口にするユタカ君。

 なんでこんなことにってそりゃその原因のほとんどがユタカ君の流され体質が決め手になってるって気づいて欲しぃょ。。。


「おい、対戦トーナメント表が張り出されてたぜ。お前は見にいかねーの?」


 見るからに生意気そうなガキンチョが話しかけてきた。周りを見ればみんな張り出されたトーナメント表を前にアレコレ楽しそうにワイワイしちょります。


「君は見に行かなくていいの?」

「ああ、一足先に見たからな。つーかキミじゃねーよオレ様にはハルキっつー名前があんだよ」

「あ、ごめん。僕はユタカっていうんだ。よろしくね」

「ユタカ? そーかいテメーがユタカか。喜べユタカ、このオレ様がテメーの第一戦の対戦相手だ。くっくっくっ、見るからに初心者丸出し相手とはオレ様も幸先がいい。姉バトルがいかなるものか、テメーの体に直に叩き込んでやるよー!」


 ガキンチョは高笑いしながら去ってった。うーわ感じわるーい。なにがオレ様よ偉そうに! お前なんてハルキじゃなくてハルキングって呼んでやるんだから!







「それでは第一回戦! ユタカvsハルキ、始めェェい!!」


 右も左も分からないまま、ついにはじまった第一回戦。立っているのは半径5メートルくらいの円状リングだ。材質は石っぽいんだけど継ぎ目も見えないしまさか一体物なのかなー? この大きさのものを搬送すんの大変だったろうなー。なんて益体もないこと考えてましたら、ハルキングが「よろしくおねがいします」て礼をしたんスよ。案外礼儀ただしいやん。見直したでハルキング。

 あわててユタカ君も「よろしくお願いします」て返すんだけど、それに対する反応が「チッ」という舌打ちで あ"? なんやハルキング喧嘩売っとんかワレぇ……??


「おい? イマジナリーお姉ちゃんバトル、通称姉バトルってーのは礼に始まり礼に終わるだぜ。テメーのヨロシクからは"お姉ちゃん"が感じられねーんだよ!」

「えぇー……」


 なんかキモいこと言いだした。


「そうだそうだー!」「姉リスペクトが足んねーぞー!」「もっと俺タチにお姉ちゃんを感じさせろー!」


 観客からもすんごい野次。えっ怖っ。


「ユタカ選手! お姉ちゃんマインド欠如でマイナス2ポイント!」


 レフェリーからも謎理由で謎減点を食らった。完全にアウェイ!


「まあ待てよレフェリー。コイツは見るからに初心者じゃねーか。そーやってルールで雁字搦めにしてっと見えてる姉萌えも見落としちまうぜ? もう一回ユタカに正しく挨拶してもらう、それでノーカンにしねーか?」


「うむ、両者合意の上ならば問題ない」


「ってー事だ。いいかユタカ、よろしくおねがいしますの"おね"は"お姉ちゃん"の"おね"だ。それを踏まえてもう一回言ってみろ。テメーはビギナーだろうが、その溢れ出るアネルギーはタダモンじゃねぇ。会場中にテメーの姉萌えを叩き付けてみな?」


 なんだろう。みんなして怪しいクスリでもキメてんでしょうかね? まともに相手するだけ疲れるんで、もう何もかも諦めて今スグ帰りません? これすっごい名案だと思うんだけどユタカ君もそう思うよね? ね!


「おねがいしますの"おね"は……お姉ちゃんの"おね"……! そうかっ!?」


 アッカーーン!!


 この子もう状況に流されはじめてるゥゥゥ!!?


 大きく息を吸い込んで、会場全体に響くようにユタカ君は声を張り上げました。


「よろしく姉(おね)がいします!!!」


 瞬間、会場にアネモネの花が舞った。気がした。


 えっ、えっ、なにいまの幻覚? 怖っ! こっわっ!!


「……『黒髪ロングのお姉ちゃん』。アネモネの花言葉だ。この会場もアネリスト達の夢を叶える場所になって欲しい。そんな想いからアネモネドームって名付けられたって爺ちゃんが言ってた」


 ハルキングお前も花の幻覚みたの? 集団幻覚なの? あとアネモネの花言葉は『はかない恋』とかそのへんだった気がするんだけど君の黒髪なんとかは異世界のどこ由来?


「花が見えた! アネモネの花が!」「黒髪ロング属性とは5年ぶりだな!」「なんて姉リスペクトだ!」「こいつぁ面白くなってきたぞ!」「ユタカ選手! 尊いポイントプラス5!」



「ありがとうハルキ君。君のおかげでちゃんと挨拶ができた」


「へっ、水クセぇこと言ってんじゃねー。約束したじゃねーか。姉バトルがいかなるものか教えてやるってな」


 ハルキング……! お前さては良い奴じゃん!!?


「さーって、こんなのは始まりの合図に過ぎねー。バチバチにアツくなんのはこっからだ! やるぜ、姉バトル!!」




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