第126話 歓迎会の招待状そしてバナナドレス
メルキュール家にまた、国王からの手紙が届いた。
執務室にて、フエから受け取った手紙を、怪訝な顔のシャールが開く。
ただ前回と異なるのは、司教のサインがあるところだ。
「教皇の歓迎会?」
私は苺柄の机で手紙を読むシャールの後ろから、書かれた内容をのぞき込む。
特に止められなかったので、見ても大丈夫なのだろう。
「以前城で開かれたパーティーもそうだが、また『貴族は強制参加』だと記されている。しかも準備期間もクソもない。まさか、我が家に招待状を送ってくるとは」
私は改めて、開催日程の覧を確認した。
「そうよね、王宮で喧嘩してきたのに。それに、十日後なんて急な日程だわ。あと、第二位の聖人も言っていたけれど、教皇って本当に存在したのね」
「特に歓迎する理由はないな」
イライラするシャールの気持ちに概ね同意する。
「そうね。でも、参加すればこれまでの無礼は不問、今後は好待遇を約束するって書かれてある。お得な話よね」
「うさんくさいな。何を企んでいるんだか」
今までメルキュール家は、王宮で碌な扱いを受けてこなかった。
シャールは一応敬意を払われているが、それも魔法使いの力を得られるという打算に基づいたもの。
ほとんどの者は、本心では魔力持ちを恐れている。
「出る価値はあるんじゃない? これで最悪な催しだったら、国外に引っ越す話を進めましょう。夫婦で参加だから、私も一緒に、もう一度この国の国王や貴族、モーター教関係者を見極めるわ」
前回国王に呼ばれた際は不愉快な目に遭った。
そのあと、彼らが反省をしているならよし。引き受けないことにしていた依頼も、内容次第では助けてあげてもいい。
救いようがないままなのなら、今後は継続して依頼を受けず、もう少し過ごしやすい場所に移動するのもありだ。
「反省して謝罪したいと思っている可能性も……」
「ないだろ」
少し離れた場所で様子を見ていた双子もシャールに同意する。
「シャール様に同じ」
「私もです。でも、教皇の顔には興味あります、一度拝んでみたいですよねえ。あ、従者は二人まで同行できるみたいですよ」
「え、本当? じゃ、僕も従者枠で行きたい」
双子は好奇心が強い。
「教皇が反撃してこないとも限らない。実力も不明だから、参加するなら警戒しなければな」
「任せてちょうだい! 私は体が弱いから、シャールの魔力を吸い取って、魔法使い放題の方式を使おうと思うの」
これはエペがかつて転生魔法を使う際、フレーシュに対して用いた方法を思い描き、改良した魔法だ。
私は皆に確認してもらうため、窓の外に向かって火花を打ち上げた。
キラキラした火花は天高く上がって爆発する。
「おー、綺麗だねえ」
「夜に見たらもっと綺麗でしょうねえ」
双子が褒めてくれたが、シャールはうろんな視線を向けてくる。
「ラム、魔法の無駄うちはするな。私の魔力を使ったとして、体に負担が全くかからないわけではないだろう」
「そ、そうだけど」
「あと、この歓迎会とやらには、心配な点がもう一つある。ダンスが予定されているということだ」
「……!」
私と双子が揃ってシャールを見る。
「双子は踊らなくていいが、ラムはそうもいかない。そもそもダンスの経験はあるのか?」
「五百年前は踊れたわよ」
私はその場でかつて覚えたダンスのステップを踏んでみる。
「あー、古典舞踊だ。僕、生で初めて見たよ」
「歴史の本に載っていたダンスですねえ」
双子の反応は微妙である。
私が知っているダンスは過去の遺物で、現代では踊られていないみたいだ。
(……古典、歴史。私、今どきのダンスがわからないわ)
今までは運良く踊らずに来られた。だが、伯爵夫人である以上、今回のダンスは避けられない気がする。
「ラムの体が弱いことは周知の事実。わざわざダンスに参加しなくとも大丈夫とは思う」
シャールはそう言うけれど……。
「今どきのダンス、覚えてみたいわ」
「は……!?」
「シャール、私にダンスを教えてちょうだい」
「…………」
迷ったような視線をシャールは双子に送る。
二人は揃ってそれに反応した。
「ええっ、僕は無理だからね。男性パートしか踊れないし」
「私もバルと同じです。というか、シャール様もですよね」
彼らの会話を聞き、私はこの家の問題に気がつく。
「そっか、女性にダンスを教えられる人材がいないのね」
それはどうしようもない。今からでは教師を手配するのも大変だろう。
「じゃ、ダンスはまたの機会に。衣装を選びに行くわ」
すると、私の言葉を聞いたシャールたちが、ガタガタッと全員反応する。
「げっ、奥様……」
「新作があるんですか?」
「お前、また勝手に買ったな」
伯爵夫人として使えるお金の他、私は子供たちに魔法を教える対価としての報酬を受け取っている。
そのお金を使い、自分好みの可愛い衣装を集めているのだ。
しかし、それらはことごとくシャールたちに不人気だった。彼らは口を揃えて私に「趣味が悪い」と告げる。
「今回のドレスには、自信があるの」
「悪いことは言わない。私が送ったドレスにしておけ」
すると、双子も彼に追随する。
「そうだよ、奥様。あんまりな柄を着ていったら、教皇がひっくり返るかもよ」
「それはそれで面白いかもしれませんが」
私は「むぅ」と唸り、他の人の意見を聞くことにした。
しかし、全員が全員、シャールの意見に同意したのだった。
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