第124話 王子の名案

 フレーシュは、苛立ちながらオングル帝国から帰還した。

 結局あのあと兄弟子と、部下を交えて三日三晩喧嘩に明け暮れ、ついには「時間の無駄だ」と告げた彼によって、レーヴル王国まで飛ばされてしまった。

 自分だって、その無駄な時間で魔法をぶっ放していたくせに。


 城に戻ると、いつもと様子が少し違っている。

 慌てて自分を迎えに来た部下たちの状況を聞くと、いくつか問題が発生していた。

 一つ目、聖人と聖騎士が逃げたこと。

 彼らのいた部屋には誰もいなくなっていて、虫かごだけが床に転がっていた。

 

(留守中に外部の者が助け出したか? だけど、ある程度の魔法の実力と知識がないと、この籠は壊せない。となるとモーター教の誰かかな? 聖人以上が動いた?)


 魔力の残滓は綺麗さっぱり消されている。意図的なものだろう。

 相手はかなりの実力者みたいだ。


(はぁ~、兄弟子殿の問題だけでも頭が痛いのに。モーター教も面倒すぎる。やっぱり、総本山ごと破壊しようかな)


 そして二つ目、自分の叔父に当たる王弟が、次の王位を手にするためにフレーシュに喧嘩をふっかけてきたということ。

 元々彼は魔法を極度に恐れており、大の魔法使い差別主義者なのである。

 なので、今まで、彼とは極力顔を合わせずに来た。


(……本気で勝てると思ってるのかな? この世の中は変な人が多くて困るよ)


 フレーシュは城で大規模な魔法を使うのをできる限り控えてきた。

 たまに感情が制御できず周りを凍らせてしまうこともあるが、それを知っているのは自分に近しい者たちだけ。

 叔父の前でしでかした経験はない。だからだろうか。

 不必要に怖がらせないようにという配慮が裏目に出てしまったらしい。


(ああ、もうっ、これじゃあ、すぐに師匠のところにいけない! 今すぐ転移したいのに!)


 まずは自分の問題を片付けるのが先だ。

 万一にも、彼女に飛び火させるわけにはいかない。

 考えていると、その王弟がフレーシュのもとまでやってきたという知らせが入る。


「はあ……ちょっと凍らせてくるか」


 王弟のところへ向かおうと、嫌々歩を進める。


(もうこれ、僕が王様になった方がいいのかも。そうだ、魔法使いの国でも作ったら、師匠は引っ越してきてくれるかなあ? そうしたら、彼女を王妃にすればいいや)


 そうと決まれば、早く処理してしまおう。

 フレーシュは手に特大の魔力を宿し、すたすたと目的地へ向かった。

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