第115話 伯爵夫人のトラップ作り
まず、ネットリ感が半端ないネバネバ蜘蛛の巣と威力増幅材を、魔法実験用の鍋に入れてねるねるする。
ちなみに、この鍋は、ちょっとやそっとでは壊れないよう、事前に私が改良済みだ。
「そのままだと、単なるトラップだから、ここに魔法効果を足していくわよ。代表的なのは幻覚効果ね」
「あいつらに効くのか? 幻覚が効くような性格じゃないぞ、あれは」
「そうね。だから、泥に魔力を吸い取る効果を付与するわ。そして、身体変化の魔法も付け加えて……」
「身体変化?」
「ええ、今回の魔法では、なんとウサギ耳が生えるのよ!」
「……その発想はどこから来た?」
シャールは「わけがわからない」という顔で私を見る。
「両手もウサギ仕様になるから、細かな作業もできなくなるわ。魔力が無くなって、可愛いウサギになったら、もう無害よね? おまけにネバネバで身動きも取れないわ」
「……ウサギ耳を生やした男は可愛くない」
「あら、犬耳のほうがよかった? それとも猫? リス? それか嘴でも生やす?」
真剣に魔法でのトラップ作りを見学していたシャールは、いつの間にか難しい表情を浮かべていた。
「シャールも作ってみる? 付与する魔法は好きなものをつけて大丈夫よ」
「……ああ」
シャールはネバネバ蜘蛛の巣の残りを使って、何やら熱心にトラップを作成していた。
(一度見ただけなのに、やっぱりシャールは覚えがいいのよね。魔法だって、一発で理解してしまうし)
彼は魔法使いに向いている。事細かに魔法を教えなくても、即興で使えてしまう。
魔法が自由に学べた時代なら、アウローラと並ぶ魔法使いになっていても不思議ではない才能だ。
だからこそ、今の時代のこの現状が惜しい。
しかし現在、彼はものすごいスピードで魔法を習得していっている。
そしてそれを改変するセンスも持ち合わせていた。
(今の調子でいけば、案外早く実力が伸びるかもね。普段から魔力を垂れ流しているフレーシュ殿下ほどではないけれど、魔力量も多いし、制御できる量だわ)
トラップを作り終えると、屋敷の各所に設置する。
最後に私が結界の張り方をシャールに伝え、彼がそれを実践し、屋敷全体を覆う巨大結界が完成した。
「シャール、お見事! 分厚くていい結界だわ」
「……本当にこれで大丈夫なのか?」
「ええ。ある程度の転移や魔法攻撃は防ぐことができる。弟子たちが力を合わせたら破られてしまうけれど、あの子たちは簡単には協力し合わないわ。昔から仲良くできないのよね」
物言いたげな視線をシャールから感じたが、何を言いたいのかまではわからない。
「それはそうと、ラム、試してみたい魔法がある」
「あら、どんな魔法?」
「昨日思いついたのだが、あの理論で…………」
「ああ、これは……だから……で……なのよ」
その後シャールに魔法を教え、屋敷の警備をさらに強化し、私たちはトラップ作りの仕事を終えた。
運良くこの日は私が体調不良で倒れることはなかった。
翌日、テット王国の王宮から使いの人が来た。私とシャールは、朝から使者の対応に追われている。
どうやらレーヴルでの経緯を、国王のもとまで報告に来いとのことらしい。
一応報告はしてあったが、エペの件でいろいろあったため、王宮側が疑問を抱いたのかもしれない。
「うーん、伝え方が悪かったのかしら」
「いや、今回の件にかこつけて、無茶な依頼を出す気かもしれない」
テット王国の国王をシャールは信用していないらしい。
結局予定を空けて、数日後、私たちはテット王国の王城へと足を踏み入れる羽目になった。
城の中はレーヴル王国よりもシンプルで、可愛らしい置物や色とりどりの絵などは置かれていない。
真っ白な大理石が敷き詰められた廊下を進んでいくと、謁見の間の扉が見えてきた。
国王と直接話をするのは初めてだ。少しだけ好奇心がうずく。
広々とした部屋の両側には衛兵がずらりと並び、国王の補佐たちも手前に揃っている。
まっすぐ敷かれた絨毯の一番奥にいるのが国王だろう。わかりやすい。
いかにもなマントを羽織り、王冠を頭に載せている。
このスタイルは五百年前と概ね同じだ。もっと工夫したほうがいいと思う。
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