第112話 伯爵夫人、また倒れる
次に目を覚ますと、自室のベッドに寝かされていた。
心地いいシルクのカバーがかけられた布団をめくって上半身を起こすと、開いたカーテンの向こうに明るい庭の景色が見える。
(……お昼、かしら?)
窓の外にはまだ太陽があるが、もしかすると翌日になっているかもしれない。
今の体は虚弱だから、倒れて丸一日眠ったままという事態が実際にありえるのだ。
どれくらい時間が経過したか見当もつかないが、急に庭で意識を失った私をフエとバルが運んできてくれたのだろう。
(また迷惑をかけてしまったわね)
倒れたときは魔法を使っていなかったが……今度は何が原因なのだろう。
今世ではちょっとしたことで体調を崩してしまうため、思い当たる節が多すぎて困る。
ベッドから下りようとしたら、体がぐらついてその場に倒れ込む。重傷のようだ。
(今回はいつも以上に酷いわね。最近は、記憶が戻った頃より体調がマシになっていたのに)
もぞもぞと布団の中に潜っていると、コンコンと扉がノックされた。
「はーい、どうぞ?」
返事をすると、侍女がそっと顔を出してシャールの来訪を告げる。
「私は起き上がれない状態だけど、それでもよければ入ってもらって大丈夫よ」
やや間を置いて、シャールが部屋に入ってくる。
「ラム、まだ具合はよくないようだな」
歩いてきたシャールは上から私をのぞき込む。
「ええ、残念ながらこの通りなの」
ベッドの傍の椅子に腰掛けたシャールは、弱った様子の私について話した。
「お前の体調だが、ここ最近の無理がたたったのではないか。隣国で慣れない生活を送ったり、そのまた隣国に攫われたり」
「そうかもしれないわね。いつになくしんどいから」
虚弱な体での遠出、魔法の連発や解除、心理的にも驚くことが多かった。
同じ行動をとっても、前世と同じわけにはいかないのが、この軟弱な体である。
「しばらくはゆっくり休んだほうがいいな。何があっても私がお前を守ると約束する」
「ありがとう。今のところ私の弟子たちも大人しくしているみたいだし、回復に専念させてもらうわね。いざというときに魔法が使えるようにしておかないと」
「…………」
何を考えたのか、シャールが複雑な表情になった。
「どうしたの?」
「……私にもっと力があればと思っただけだ」
「あら、あなたは恐ろしい速度で成長しているわよ? 普通はあんなに早く数々の魔法を会得できないもの。それを、あなたは魔法書を読んだだけでほとんどやってのけている。昔の弟子たちだって、こうはいかなかったわ」
「だがそれでもアウローラには……お前には及ばない」
「魔法の習得速度は同じくらいだと思うけど。私は魔法が好きでやっていたから、勉強している感覚がなかったのよね。あなただってアウローラマニアが高じて、こうなってしまっただけでしょ? 学習すると考えるよりも、好きで突き進んでいく者のほうが習得速度が高いって、前世で師匠が話していたわ」
「…………」
シャールは押し黙った。
言いたくなさそうだが図星のようだ。
彼は気まずくなった際、紅い目をそらす癖がある。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、シャールの様々な仕草の意味がわかってきた。
それと共に、庭で話していたときの双子の言葉まで蘇ってきた。
(今蘇らなくていいのに!)
でも、彼らに言われて気になっていたことを聞く機会でもある。
私は勇気を出してシャールに問いかけた。
「ねえ、シャール。あなた、誰かを見たときに顔を赤くして慌てたり、緊張から挙動不審になったりしたことある?」
「……いきなりなんだ?」
シャールはこちらに不審の目を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます