第111話 伯爵夫人と気付け薬2
それから、シャールはことの顛末を双子たちに話した。
双子は最初は半信半疑だったものの、シャールが真面目に私をアウローラだと思っていることや、私の数々の魔法を実際に見ていること、さらには弟子たちのことを鑑みて本人であると結論を下した。
そのあと、私も個別で彼らと話をした。
なんやかんや黙っていたので、自分からもきちんと伝えておこうと考えたのだ。
「なるほど、奥様は伝説の魔女アウローラの生まれ変わりだと」
「道理でいろいろな魔法を知っているわけだよね。アウローラの写本だって難なく解読して教えてくれるし。でも、まさか伝説の魔法使いがこんなに奇抜な趣味の持ち主だったなんて思わなかったけど」
屋敷の庭の一角で、二人は素直にこちらの話を聞いてくれた。
フエの言葉に、バルも大きく頷いている。
「伝説の魔女は料理の才能もなかったようですね」
「後世に趣味と料理のことが伝えられていなくてよかったね」
花に囲まれた風景の中、私の料理や趣味に言及する双子。
なにげに失礼である。
だが、私がアウローラだとわかっても大きく態度を変えない二人に安堵したのも事実。
「そういえばバル。あなた、とんでもなく苦い気付け薬を作ったでしょ?」
私はシャールに飲まされた気付け薬を思い出し、バルを問い詰めた。
もともと私は実験室に様々な魔法薬の本を置いていて、薬を誰でも作れる状態にしていた。
バルはそれを見ながら、改良を加えたのだろう。しかし、苦い。
「うん、尋問用の魔法薬をいじってみたんだ。奥様の激マズ魔法薬に比べれば、効果も弱いし可愛らしいものだと思うけど……ただ苦いだけだよ?」
「すんごく苦かったわ」
「シャール様……渡しておいた薬を奥様に使ったんだ……よかった」
「よくないわ」
私は苦言を呈するが、バルはそんなことはないと首を横に振る。
「だって奥様、気付け薬でも飲まないと、シャール様に迫られる度に意識を飛ばすでしょ? 毎回いい雰囲気のときに、妻に気絶されるシャール様が可哀想だよ。奥様だって、シャール様のことまんざらでもないくせに」
「……どういう意味?」
バルに言われた話が一瞬理解できず固まった私に、横からフエが補足する。
「奥様、シャール様を明らかに意識されていますよね?」
「わ、私が?」
「はい。俺やバルに接するときとシャール様に接するとき、傍目にもわかるくらい動きが違って見えます」
「そりゃあ、シャールは一応夫だし。あなたたちと接し方が異なるのは当然よね?」
「奥様、そういう意味じゃないよ」
今度はバルが横から口を挟む。
「フエが言いたいのは、奥様は僕らを見ても顔を赤くして慌てたり、緊張から挙動不審になったりしないでしょう? ……ということだよ。そんな風になるのって、シャール様といるときだけじゃない?」
「なんでわかるの?」
私が答えると、二人はそのまま押し黙った。
やがて、バルが伝えにくそうに口を開く。
「奥様、素直すぎでしょ」
フエはフエで笑いをこらえている表情だ。
「今の奥様の言葉を、ぜひとも直接シャール様に聞いていただきたいですねえ。きっと面白い反応をされますよ」
「それ、僕も見てみたいかも」
双子は楽しそうに目配せし合っているけれど、私にはなんのことだかさっぱりわからない。
「どういうことか教えて欲しいわ」
「うーん……僕らの口から、奥様にそれを言うのはねえ……」
「ええ、もう少しご自分で考えてみてください」
教えてくれればいいのに、双子は面白そうに顔を見合わせ笑うだけだった。
「仕方ないわね。だったら……あ、あら?」
話していると、だんだん視界がクラクラしてきた。また体の具合が悪くなったらしい。
(目眩だわ。本当に今世の体は厄介ね)
立っていられなくて地面に膝をつくと、双子が心配そうに駆け寄ってくる。
「奥様!」
「体調が悪くなったの!?」
「ひとまず、奥様を屋敷へ……」
「シャール様にも知らせなきゃ」
慌ただしい双子の会話を聞きながら、私の意識は遠のいていった。
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